【未送信メール】
オレンジ色に染まり始めた放課後の屋上。時折ひゅるりと肌寒い風が通り抜けていくその場所の冷たいドアを背に座り込んだ僕は、スマホのメール画面に文字を打ち込む作業を延々繰り返していた。思案して指を止めては一行打ち込み、さらに三文字打ち込んでは保存して、また全部消して打ち込んで……といった具合に。
そんな、演出のメモを取る時と同じ打ち方のせいだろう。未送信メールの数はあっという間に五十を越えた。このままいけば一度も送信できないままに三桁の大台に乗るのは火を見るより明らかだ。僕は肺の奥に溜まった気持ちの淀みごと深々と息を吐き出し、空を見上げた。
ゆっくりと、しかし確実に暮れていく空を、天を駆けるペガサスの尾にも似た流線形の雲が駆け足で流れていく。それがどんどんと遠ざかって──やがて空の果てへと消えていくまで見送ってから、僕は意を決してまたメール画面と向き合った。
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