つまらない気付き162煉猗窩版ワンドロワンライ【指先】【蒼白】
時間に取り残されたような蒼白い頬も、全てを壊そうとする夜闇の指先も、今の彼には無い。
頬の薄紅は血の息を感じさせ、指先は日向でうとうととする野良猫を撫でている。
まるで違う。何もかも。彼とは、あの鬼とは。
だというのに何故こんな感情になるのか。
喉を鳴らす猫に目を細める猗窩座を眺めながら、杏寿郎の中にはそんな独り言がこぼれる。
僅か目を見張り、それをすぐさま打ち消し、訂正する。
俺は今、なにを思った?
だからこそ、の間違いだろう。俺は今この世に生まれた、この人の身と心の彼だからこそ。
「つまらん奴だなあ」
そんな声にぎくりとして意識を猗窩座のほうへ戻すと、相変わらず気持ちよさげにうとうとと微睡んでいる猫に掛けた言葉のようだった。指先でつんつんと突いて笑う顔は、寝てばかりの猫にしかし悪くないと感じているのが見て取れる。
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