天気雨稲荷崎高校バレー部三年生の引退の日、晴れ渡った青空に、キラキラと小雨がパラついた。
「はは、狐の嫁入りや。誰やろな」
体育館で三年生の最後の挨拶を終え、校門の前で卒業生、在校生、入り乱れて記念撮影をした後、北信介は後輩の宮治を学校の裏山にある小さな社に連れ出した。
山肌に沿って長く連なる赤い鳥居をくぐり、呑気に笑う信介のすぐ後ろを歩きながら、治はなぜ今自分がこんなところに呼び出されたのか、緊張を隠しきれずガチガチになっていた。
どれくらい登って来たのか、眼下には稲荷崎高校のある街の、さらにその先には、信介の実家のあるあたり、広大な緑の景色が広がっている。
「治、何も憶えてないんか?」
「何がですか?」
「ほうか。まぁええわ」
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