啼梟 耳触りのいいその声が、好きだと思った。朗々と吟じる情味豊かな声、淡々と報告する澄んだ声。はにかみながら笑いかけてきた遠い昔の記憶、そして今几帳越しに背中から時折囁かれる愛の言葉。一介の地下の戯言に聞く耳を持つなど、あの頃の無惨には考えられないことだった。その気にさせたのは声によるものか、はたまた滲み出る性分のせいか。この男によると何故だか忠言すらも耳に心地よい。だからだろう、こんな関係になったのは。
初夏の風が、鶯の囀りを乗せて庵の重い茅葺きを潜る。屋根と御簾と几帳は無惨を守る闇を作り出している。その几帳が風に揺れると、隙間から件の男がこちらを見やる気配を感じた。気を抜くといつもこうだ、と無惨は溜息をつきながら嗜める。
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