真夏の陽炎、朱紅の宴 蝉の音が耳を騒がせる、小暑過ぎ。人もまばらなホームで、新幹線から出たばかりだというのに帽子を目深に被ったその人影は大きな荷物を引いて自動販売機に真っ先に向かった。
ガゴンと勢い良く落ちてきたペットボトルを拾い上げ、蓋を捻り間髪入れずに口をつけた。喉を鳴らし、一気に中身を吸い込んでいく。一滴残らず飲み干し、隣にあるゴミ箱にそのまま空になったボトルを投げ入れた。
「ってか暑くない!?こんなに暑かったっけ!?」
ばたばたと扇子を広げて扇ぎながら、ガラガラとキャリーを引きヒールを鳴らしながら足早に駆抜けていく。ホームから階下へ降りるだけで、空調の効いた中二階は灼熱の空間から逃げられるオアシスだ。そこから一気に改札まで降り、忙しい通路の一画、柱の側に避難する。
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