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    みなと

    shido_yosha

    DONE愛されミナトさん。ミナト最高司令官が禁煙を始めたらしい、という噂が、一部のシティ住人の間で囁かれた。彼の素体としての身体は、代替のきく人工物であるから、健康にいいとか特段騒ぐことではないのだが、電子煙草は彼のトレードマークだった。だから彼を知る者は。心配半分、好奇心半分の興味を抱いた。
    「ミーナトさん」
     久方ぶりに素体姿でシティを散歩していたミナトへ、最初に声をかけたのはナツメである。
    「うん?」
     ミナトが振り向くと、目の前に橙色の長い髪をした女性タンカーが立っていた。
    「煙草、やめたんですか」
    「む。誰から聞いたんだ」
     ここは旧司令塔を基礎にしてつくられた展望台。デカダンスシティを一望に見渡すことができ、ガラス壁を介して屋内とデッキに分かれている。
     ミナトは前職を担っていたころからこの高台を愛用していた。当時とは異なり、今では役職と種族にかかわらず万民が憩うことが許されている。
     女性タンカーはにっこり笑うと、
    「口寂しいでしょう。どうぞ」
     とミナトの掌に小さな包みをのせた。
    「なんだ。これは」
     リボンを解くと色とりどりの宝石の欠片のようなものが詰まっていた。ナツメは、
    「琥珀糖です」
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