門梶「へえ、新発売らしいですよ」
ほらほら、と薄すぎる紙がへろへろと門倉の眼前で揺れる。
たかだか５０円か１００円かの割引を大盤振る舞いしている紙面に踊る新発売の文字に梶の言う商品を見た。
「新発売て…これ前にもあったでしょう」
「毎年リニューアルして発売してるんですよね。でも結局一回も食べた事なくて…」
うーん？とクーポンの紙を見ながら首をかしげる梶につられて己の視界も傾く。
「割高でしょう。以前の梶様からすればその価格帯は」
梶の職務経歴から察する収入から見て、紙面に並ぶ価格帯は一食にするにしては手ごろとは言えない。
「全然食べてましたよ？ビッグマックのセットとか」
きょと、と見上げてくる梶の視線を受け門倉は紙面に目を落とした。そして黙した。

ときめいたら負け無し付き合うまで知らなかった事が多すぎたんだ、きっと。
在学中はただ見ているだけでいっぱいいっぱいだったし。
カッコイイ大人で合理主義者の担任に冗談めかして何度か告ったもののあっさり流されたのだ。
それも何度も、だ。卒業式の後。これで最後だからと本気だとぶつけた告白。
「いいよ。今まで教師として接していようと我慢していた。俺もお前が好きだよ」
珍しく頬を赤らめた先生に苦しいくらい抱き締められて初めてキスされた。
それから数ヶ月経ち、お互い忙しい身だしいっその事同棲するか、となって。
思っていた以上に決断が早い。そんで手も早かった。
優しいくせに強引でかっこよくて。だけど意外と可愛い所もあって。
一回り上も年上だしデカくて顔が怖い相手を可愛いって思ったのも初めてだった。

ハーレイ・クインには嫌いなものがある。傷に染みるボディーソープだったり、一日中放っておいたオレンジジュースだったり。ほかにもいろいろ嫌いなものはあるけれど、一番嫌いなのはこの自分が正義の味方だと信じている蝙蝠コスプレ野郎だ。

「なんで、あんたと、アタシが、一緒に、ハンバーガー食ってるわけ？」

「美味いだろ、このハンバーガー」

「美味いけど！」

利害が一致したから。蝙蝠の後ろ盾があるのなんてそうそうないから大暴れした。これでもかってぐらい。日頃のイライラもすっきりしたし、さぁ帰るか！って最高にキュートにデコったバットをぶん回しながら瓦礫と化したオンボロマンションから出て行こうとしたらハンバーガーを渡されたのだ。いつものしかめっ面で「バットハンバーガーだ」ってクソみたいなネーミングセンス(でもめちゃくちゃ美味しいのがムカつく)のハンバーガー！