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    NanChicken

    MOURNINGこれは支部に上げた「二重奏曲」の結末の一つのIF
    ハピエン厨の私自身のためのPルート
    二重奏曲はあのままの引き際で良かったので、これはここに置いておこうとおもいます

    読まないほうが良かったと後悔しない方はどうぞ。
    カーテンコール



     災害の多かった昨年、被害の大きかったこの小さな町に、いくばくかでも元気をもたらし、できれば寄附をしたいから、と大学を卒業した先輩に声をかけられたのは、そろそろ夏も終わろうかという時分だった。
     無名駆け出しではあるが、留学と複数の国際コンペでの入賞経験を経て日本に戻った俺にも、少しばかりの演奏の仕事が回ってきはじめていた。
     先に音楽プロダクションに所属していた同期を頼って、全国の小規模なコンサートイベントなどを回り、都会の市民オーケストラとの共演などにも、指名で呼ばれることが増えて来ていた。


     山鳥教授は来春で常任の教授の座を下りると明言していた。世話になった教授に顔を見せるため、俺は母校の門をくぐった。久しぶりに見た校舎の奥には、欅の巨木が見えていて、胸の鈍い痛みがまた疼いたが、俺はそれを押し留めて教授の部屋へ急いだ。
     その日そこに来ていた見知らぬ先輩は、俺の顔を見るなり立ち上がり
    「山鳥教授、彼はもしや?」
    と大げさな声を出した。
    「ああ、話題の人だ。和泉、よいタイミングで来たものだな。こちら10年前の卒業生、長谷部くんだ。田舎町に引っ込んでいるのが 3117

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    小腹が空いて厨に行ったらひとり夏蜜柑を剥いていた大倶利伽羅に出くわす話
    夏蜜柑を齧る

     まだ日が傾いて西日にもならない頃、午後の休憩にと厨に行ったら大倶利伽羅がいた。
     手のひらに美味しそうな黄色を乗せて包丁を握っている。
    「お、美味そうだな」
    「買った」
     そういえば先程唐突に万屋へ行ってくると言い出して出かけて行ったのだったか。
     スラックスにシャツ、腰布だけの格好で手袋を外している。学ランによく似た上着は作業台の側の椅子に引っ掛けられていた。
     内番着の時はそもそもしていないから物珍しいというわけでもないのだが、褐色の肌に溌剌とした柑橘の黄色が、なんだか夏の到来を知らせているような気がした。
     大倶利伽羅は皮に切り込みを入れて厚みのある外皮をばりばりとはいでいく。真っ白なワタのような塊になったそれを一房むしって薄皮を剥き始めた。
     黙々と作業するのを横目で見ながら麦茶を注いだグラスからひと口飲む。冷たい液体が喉から腹へ落ちていく感覚に、小腹が空いたなと考える。
     その間も手に汁が滴っているのに嫌な顔ひとつせずばりばりと剥いていく。何かつまめるものでも探せばいいのになんとなく眺めてしまう。
     涼やかな硝子の器につやりとした剥き身がひとつふたつと増えて 1669