クラティ
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DONEクラティ ひとめぼれ忙しいというのに、朝、鏡越しに見えた彼につい一目惚れしてしまった。無表情、鏡の中の彼自身を見つめる青い瞳は、誰かを見るための目でも私を見るための目でもない。他人を意識することなく自分自身だけを見つめながら身なりを整える姿は、普段と何かが違うわけでもないのに新鮮に感じた。
「……」
つい口を小さく開けて、彼の後ろで立ちすくむ。歯磨きをしようと思っていた。ベッドから出たタイミングが一緒だったから、洗面台争いになるのはよくあること。だけど基本的にクラウドはすぐ私にその場を譲るから、なかなか髪のセット中にで食わすことはない。
「…あ」
そんなことを思っているうちに、案の定彼が背後にいる私に気づく。鏡越しに目が合う。彼の雰囲気が変わる。私はつい……目を逸らす。
「悪い、使うか」
「う、ううん、大丈夫!あとでいいや」
ほんとはちょっと急いでる。鏡の中の彼に恋をするまで、冗談を織り交ぜ、彼に場所の交代をお願いする予定ではあった。
すっかり身だしなみを整えたクラウドが私を振り返って首を傾げる。ふしぎ。鏡の中から王子様でも飛び出してきたみたい。
「……」
「ティファ?」
「…へ?」
「ま 718
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MAIKINGクラティ よしよし「だいじょうぶよ」自分よりずっと細い腕に抱きしめられて、自分よりずっと柔らかく脆い肌に包まれる。少し力を込めれば簡単に壊れてしまいそうなうつくしい存在に、すべてを預けて呼吸する。
細く白い指が、髪にふれたあと、子守唄でも歌うようにそのまま頭をゆるりと撫でる。ねむってもいい、安心してもいいと指先から伝わる想いを受け止めながら、あたたかい胸の中、目を細める。
「だいじょうぶ」
自然な呼吸を繰り返せるようになった俺の額に、キスが落とされる。導かれるままに顔をあげると、今度はそれが唇に重なった。 251
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DONE「今度はティファと一緒だから」「少し、意味が違うんだ」
決戦の日の日付知らなくて…たまたま完成できたのが同じ日だったので勝手に嬉しくなりました。リメイクで見たいです😊
#クラティ #cloti
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MAIKINGクラティ たぶん「おおぞらで鍵をなくした」の続きを書こうとしていた一日中横たわり続けているベッドの中に溶けてしまったような、心地よい気だるさ。夢か現実かの区別もつかないような、ふわふわした感覚の波に漂いながら、ふと窓から差し込む夕日のオレンジ色が綺麗だなあと思った。
綺麗だなあ、ということに気づいたということは、今の今まで知らない間にまた意識を手放していたんだろう。最後に見た空の色は真っ青で、夕暮れまでもう少しありそうだって思ったことを、確かに覚えているから。
(……からだ…おもい……) 216
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MAIKINGクラティ 帰還2急に、今から帰るなんて言ったらティファは困るだろうか。電話を掛けたあとに遅れてやってきた懸念は、その電話を取ってくれたティファ本人にかき消された。
『え! これから帰ってこれるの?』
電話の向こう声は、声の持ち主が明るい気持ちであることを教えてくれる。その、夜という時間に見合わない明るさは、仕事で疲れた体に染みわたった。
本当に偶然だった。別々に依頼が来ていた届け先の二人が、偶然同じ飲み屋で酒を飲み交わしていたのは。
一人は今日、そしてもう一人は本来明日もっと遠出をして届けなければいけない相手だった。どうやら、たまたま知り合い同士だった二人が、久しぶりに飲んでいたところに遭遇した…ということらしい。
自分たちは運がいいだの、自分たちは幼少期から同じ場所で育ってきた仲だの、正直俺にとってはどうでもいいその二人の話を流しながら、荷物を渡す。サインを受け取りながら適当に頷く。
俺の意識はもうすでに仕事にはない。
本当は今晩そのへんの宿を取らなければならなかった依頼が全てこの段階で終わった。それはつまり、今日このまま帰宅してもいいということ。……今日はもう会えないと思っていた人 585
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MAIKINGクラティ 帰還家に着いたとき、店のキッチンに灯りが点っているのが見えた。フェンリルを留め、時刻を確認する。もう夜中の二時だ。こんな時間に灯りがついているのは珍しい…というより、滅多にないことだった。最近は深夜に帰ってくることが多く、灯りのない家の光景のほうが馴染んでしまっているぐらいだったから不思議な気持ちになる。灯りというのは点っているだけで心を穏やかにさせる。
大方電気の消し忘れだろうなと思いながら、一人ため息をつく。さすがのティファもこんな時間まで起きて待っていることはない。待っていたら問題だ。 248
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MAIKINGクラティ あくむ自分が酷く汗をかいていることに違和感を感じて、目が覚めた。眠っていたはずなのに、まるで激しい運動でもしたかのような呼吸の乱れ。今の今まで、息をするのを忘れていたように、肺が酸素を求めて運動を繰り返す。
悪夢にうなされていたことなんて、思い出さなくても、考えなくてもわかった。
ふう、と、大きく息をつく。内容をはっきりと覚えていないのが、不幸中の幸いかもしれない。
忘れた頃に、いや、考えないように努めていた頃に、それは俺に忍び寄る。
まるで体の中に、頭の中に、別の生き物が住んでいるかのような感覚。確実にあの時、あの頃から起こり始めた違和感。
声がする。こっちに来いと呼んでいる。遠い場所から、時にすぐそばから。
夢から目覚めたということは、おそらく今夜もそれに打ち勝ったんだろう。
だが、意識の上で克服してもそれが体から消滅することはない。
きっと最期を迎えるまで、この「別の生き物」は俺の中に生き続ける。
「……」
額の汗を拭ってから、ゆっくり、物音を立てないように体を起こす。ベッドのスプリングが無機質に鳴る。
身体中が酷い倦怠感に襲われていて、これでは眠っている 2026