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    夫婦

    moonrise Path

    DOODLE結婚しないまま父親となった久遠道也の感慨とふどふゆ夫婦
    煙社降臨節暦 第十二夜/久遠一家 恋を忘れ走り続けてきた。淡く濃やかな感情が自分にも芽生えうる可能性に目を向ける暇もなかった。それが不幸であるとは思わなかった。
     今でも悔いてはいない。悔恨の情が生まれる出来事はいくつもあったし、そのたびに痛みも生まれた。だが、どれひとつ欠けても今現在には辿り着けなかった。楽を選ぶことができない人生だから、掴めた手もある。
     久遠はクルマに積み込むための荷物を整理しながら手を止めた。アルバムの入った段ボール箱は一つではなかった。自分が関わった選手たちのデータに比べれば少ない数だが、それでも久遠はことがるごとに娘の写真を撮り、アルバムに収め続けてきた。FFIで監督を務める少し前、冬花を撮った写真がある。どんな感情を出すことも拒むような頑なな表情。反抗期らしい反抗期もない娘だったが、自らその奇妙さに気づいている節があった。彼女は久遠以上に聡く、人間らしい感情の機微を備えていた。カメラの前で笑顔を作らないのは、父である自分への信頼と彼女なりの甘えだと久遠は分かっていた。笑顔でない写真は事務的に言えば使いやすい写真でもあり、それはFFIにおいてマネージャーとしての登録、また渡航の際に必要な証明写真としても使われた。
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    お惣菜

    DONE目岩夫婦がただイチャイチャするお話です。
    映画のネタバレガッツリ含みますのでご注意下さい。
    かくれんぼ酒の勢いで思い出した、遠く儚いあの頃の記憶。儂の妻・岩子は幽霊族でありながら人間を深く愛しておった。人間は恐ろしい。自分達の命、そしてご先祖の命までも奪おうとする傲慢で強欲な生き物。なのに岩子はそれをまるで道端に生えている花や草のように優しく優しく愛でていた。儂には到底分からないこと。夫と妻という関係になってからもそれは変わらなかった。

    「ねぇ あなた
     今日は雨だそうですよ」
    「むう そのようじゃのう」
    「ふふ 猫ちゃんが来てくれないのはそんなに寂しい?」
    「ふむ ちぃとな」

    とつまらなそうに猫じゃらしをヒラヒラさせるゲゲ郎。親指と人差し指で挟めてしまいそうな薄い唇を突き出してシトシト振る雨を見つめ、ついには肘枕をついて完全に暇をもて余していた。大きな体をしているのにどうしてこうも子供らしさが抜けないのだろう、この人は。そんな事を考えながらちゃぶ台にあるせんべいにかぶりつく岩子。するとその音に釣られてゲゲ郎が這いつくばりながら此方へ向かってきて、一体何を食べているのかを問う。おせんべいというのよあなた、と教えてあげると目をくりくりさせて赤い瞳がキラキラ輝いた。岩子はもう一口せんべいを口にして、これかもしれないと確信した。
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