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    サザ

    n_onfz

    MOURNING『さざなむ、さざなむ』②潮とアルコールのにおいを浴室で洗い流し、宿で用意された夕食で腹を満たした。広間と言うには狭く、それこそ学生寮の食堂のようなダイニングで目玉焼きが乗ったハンバーグとトマトのサラダ、遠慮がちに玉ねぎが浮かぶコンソメスープ、なんの変哲もない白米を食べた。海辺の宿だから魚介を期待していたのだが、随分と家庭的なもてなしであった。味は特別美味しいわけでも、不味いわけでもなかった。それこそ学生のときに行った宿泊学習で食べた食事と味の印象が似ている。
    「んー正直俺っちが作ったハンバーグの方が断然うまいね」
    「凝り性で、手間ひま掛けるのが半ば趣味のようなあなたの料理とは趣が異なって当然でしょう。あの場で言わなかっただけ評価します」
    「さすがに言わねーよ?」
    「初対面で小生の服装を馬鹿にした前科があるのをお忘れで?」
     外出中に押入れから出されていた布団を広げて敷きながら幻太郎が一二三をじとりと睨んだ。なにかとうっかりした発言をするとこの件を持ち出してくるのだ。一二三にとってはとうの昔に過ぎたことなので、蒸し返されるたびに理不尽を感じる。
    「まだ言う!? もーいいじゃん」
    「それを言えるのは小生だけです」 4949

    n_onfz

    MOURNING『さざなむ、さざなむ』①
    クレリリで配布した無料配布です。
    半分以上は支部に投稿したものとほとんど同じ内容なので、追加部分を読みたい方は②からどうぞ
    喧騒が去るのを惜しむ大歓楽街の中心で、一二三は今宵の仕事を終えてスタッフ用の裏口から店を出た。まだ点々とネオンが灯る通りに出て辺りを見回すと、角に停っている黒い車がプップーと二回クラクションを鳴らした。煌々と光るハイビームにけたたましいクラクション。その印象だけで彼が待ちくたびれているのがわかるようだった。
     一二三が車に駆け寄るとサイドウィンドウが下がり、運転席に座る幻太郎がハンドルに寄りかかって顔を覗かせる。
    「お疲れさまです。後部座席と助手席、どちらでもお好きな方へどうぞ」
    「寂しがりな子猫ちゃんだ。そんな風に試さなくても助手席にお邪魔するよ」
     助手席に座り、シートベルトをする前にジャケットを脱ぐ。後部座席に畳んでそれを置くと、顔を顰める幻太郎と目が合った。
    「どった?」
    「いいえ。あなたがトンチンカンなのはいつものことでしたね」
    「なになに〜? 失礼じゃね」
     それこそいつものことだけれど。シートベルトを締めてまもなく車が発進した。
    「こんな夜中にさあ、どこ行くわけ」
    「今年の夏は行きそびれてしまったので海に行こうかと」
    「ふーん。どこの?」
     よたよたと歩道を渡る酔っぱらい 8957