MASAKI_N
DONEクローゼット小ネタ中の人同士の誕生日が近いそうなので……既刊の続きにできるように季節を混ぜてしまいましたが、真ん中バースデーに公開してみました。
丸くて白いやつ「リスだ!かわいい」
イナがそう言って、ギョンフンに笑顔を向ける。
「うん、凄い」
丸くて白いケーキには苺がたくさんのっていて、リスと大小のウサギを模したクッキーが飾ってある。
「リスは室長のだ。イナはウサギを両方取っていいぞ」
いろんな角度からケーキを撮影する二人に呆れながら、サンウォンはそう声を掛けた。
「おっきいウサギはパパ食べなよ」
「アジョシ~ありがとうございます」
ギョンフンは『おたんじょうびおめでとう』と書かれたプレートをズームで撮りながら、そう礼を言った。
「はいはい、おめでとう。ろうそく吹いたりしなくていいのか?」
「やろうやろう」
「え~いいんですか~?アジョシ、暗くして暗くして」
そう言いながらも、ギョンフンは自らろうそくを用意して火を点ける。
5194イナがそう言って、ギョンフンに笑顔を向ける。
「うん、凄い」
丸くて白いケーキには苺がたくさんのっていて、リスと大小のウサギを模したクッキーが飾ってある。
「リスは室長のだ。イナはウサギを両方取っていいぞ」
いろんな角度からケーキを撮影する二人に呆れながら、サンウォンはそう声を掛けた。
「おっきいウサギはパパ食べなよ」
「アジョシ~ありがとうございます」
ギョンフンは『おたんじょうびおめでとう』と書かれたプレートをズームで撮りながら、そう礼を言った。
「はいはい、おめでとう。ろうそく吹いたりしなくていいのか?」
「やろうやろう」
「え~いいんですか~?アジョシ、暗くして暗くして」
そう言いながらも、ギョンフンは自らろうそくを用意して火を点ける。
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兄弟 イナとマダムが話す間、サンウォンは夕飯のおかずを買い足しに出かけた。買い物から戻ると、家の前の道路に見慣れない車が停まっている。そういえばマダムが迎えが来ると言っていた。
覚えのある香りがして目をやると、玄関から少し離れたところで、黒いロングコートの男が煙草を吸っている。
背格好も髪型も似ているから、てっきりギョンフンがいるのかと思ったが、違った。
ギョンフンは顔のパーツが丸みを帯びているが、振り向いた彼はもっと直線的な印象だ。
涼しげで鋭い目はサンウォンの姿を認めた瞬間、はっとしてから、切なげに潤んだ。
「……――ン」
微かに発した声のかけらが届く。
彼は懐かしむような顔になり、それから、どこか悲しそうな目で黙った。
3476覚えのある香りがして目をやると、玄関から少し離れたところで、黒いロングコートの男が煙草を吸っている。
背格好も髪型も似ているから、てっきりギョンフンがいるのかと思ったが、違った。
ギョンフンは顔のパーツが丸みを帯びているが、振り向いた彼はもっと直線的な印象だ。
涼しげで鋭い目はサンウォンの姿を認めた瞬間、はっとしてから、切なげに潤んだ。
「……――ン」
微かに発した声のかけらが届く。
彼は懐かしむような顔になり、それから、どこか悲しそうな目で黙った。
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訪問者「ん~……異界帰りのせいだけじゃないみたいだね」
ビールを飲み干した後、マダムは自分の荷物から取り出したゆったりしたワンピースに着替えた。下ろしていた髪を兎のマスコットのついたシュシュで束ね、スタイリッシュな老眼鏡を装備し、ソファのギョンフンの定位置に座り込んで、渋い顔でそう言った。
どうやらさっきまでの服装はパーティに参加するためだけのものだったらしい。
「元々の体質ってことですか」
「うん。あたしがわざわざ会いに来る気になるっていうのも珍しいし、サンウォンさんは元々、運が相当いい方だろう?思うに、父娘とも追い詰められると『呼ぶ』んだろうね」
「イナも?」
夕方にはイナが戻るが、向こうの親御さんが送り届けてくれるそうだ。急に知らない人間がいて驚かないようにメッセージを送った。
4300ビールを飲み干した後、マダムは自分の荷物から取り出したゆったりしたワンピースに着替えた。下ろしていた髪を兎のマスコットのついたシュシュで束ね、スタイリッシュな老眼鏡を装備し、ソファのギョンフンの定位置に座り込んで、渋い顔でそう言った。
どうやらさっきまでの服装はパーティに参加するためだけのものだったらしい。
「元々の体質ってことですか」
「うん。あたしがわざわざ会いに来る気になるっていうのも珍しいし、サンウォンさんは元々、運が相当いい方だろう?思うに、父娘とも追い詰められると『呼ぶ』んだろうね」
「イナも?」
夕方にはイナが戻るが、向こうの親御さんが送り届けてくれるそうだ。急に知らない人間がいて驚かないようにメッセージを送った。
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週末「えっ……?」
訪問者を出迎えたサンウォンは戸惑いを隠せず、そう感嘆した。
「サンウォンさん、はじめまして」
ゴージャスな美女がにっこりと微笑んで、右手を差し出す。
一筋縄ではいかないと初対面でもわかる迫力で、人格者であると感じさせる。
これがオーラというやつだろうか。若く見えるが、その落ち着き方からして五十は過ぎているだろう。実年齢が読めない。
ギョンフンがやけにめかし込んで出掛けたと思ったが、このためか。『退魔師 ホ室長』には無駄で邪魔ですらあるルックスの良さが、彼女の横ならしっくりくる。
おい、何の補足説明も無しかよ。
そう目で訴えるも、ギョンフンは彼女の後方で完全に『無』の表情で棒立ちしている。
7747訪問者を出迎えたサンウォンは戸惑いを隠せず、そう感嘆した。
「サンウォンさん、はじめまして」
ゴージャスな美女がにっこりと微笑んで、右手を差し出す。
一筋縄ではいかないと初対面でもわかる迫力で、人格者であると感じさせる。
これがオーラというやつだろうか。若く見えるが、その落ち着き方からして五十は過ぎているだろう。実年齢が読めない。
ギョンフンがやけにめかし込んで出掛けたと思ったが、このためか。『退魔師 ホ室長』には無駄で邪魔ですらあるルックスの良さが、彼女の横ならしっくりくる。
おい、何の補足説明も無しかよ。
そう目で訴えるも、ギョンフンは彼女の後方で完全に『無』の表情で棒立ちしている。
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杞憂「ホ室長」
サンウォンの代わりにイナを迎えに行き、家に向かう途中の車内。イナは思いつめたような顔でギョンフンに呼び掛けた。
「ん?どうしたイナャ」
出会った時よりイナは随分、大人っぽくなった気がする。
「私のこと嫌い?別に、好きってわけじゃなくていいんだけど、私、嫌われてる?」
驚いて、ゆっくり路肩に停車する。
「好きだよ。大事な友達だ」
運転席から乗り出し、目を合わせてそう答えると、イナは細くため息を吐いて、下を向いた。
「それなら、いいけど……」
「何かあった?」
学校の友達の話は、さっきまで聞いていた。サンウォンともこのところはうまくいっているはずだ。音楽教室の仲間とうまくいっていないのだろうか。
「どうしてこの頃、すぐ帰っちゃうのかなって……パパより好きな人ができたの?」
6821サンウォンの代わりにイナを迎えに行き、家に向かう途中の車内。イナは思いつめたような顔でギョンフンに呼び掛けた。
「ん?どうしたイナャ」
出会った時よりイナは随分、大人っぽくなった気がする。
「私のこと嫌い?別に、好きってわけじゃなくていいんだけど、私、嫌われてる?」
驚いて、ゆっくり路肩に停車する。
「好きだよ。大事な友達だ」
運転席から乗り出し、目を合わせてそう答えると、イナは細くため息を吐いて、下を向いた。
「それなら、いいけど……」
「何かあった?」
学校の友達の話は、さっきまで聞いていた。サンウォンともこのところはうまくいっているはずだ。音楽教室の仲間とうまくいっていないのだろうか。
「どうしてこの頃、すぐ帰っちゃうのかなって……パパより好きな人ができたの?」
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同調 小さな水滴が顔にかかった気がして、目を開ける。
見慣れた寝室の天井と、心配そうなギョンフンが見えた。
「アジョシ、ごめん」
戸惑うギョンフンの顔に、何が起こったのかぼんやりとわかる。
ミョンジンの記憶に同調した時と同じだ。
「……同調したんだな」
「僕の霊力とハーブの効果で――意識が繋がってしまったみたいだ」
ミョンジンの辛い記憶や異界の重苦しい感じと違い、夢の中は心地好かった。
心が通じていると思えたし、嘘の無いギョンフンの気持ちが聞けた。
「別に謝ることじゃない」
「二人とも同じ酒で酔っていたのもあって――油断してた。あなたは病み上がりなのに」
「わざとじゃないならいい。イナには効かないんだろ?」
「媒介するのは僕と煙だから、大丈夫」
5067見慣れた寝室の天井と、心配そうなギョンフンが見えた。
「アジョシ、ごめん」
戸惑うギョンフンの顔に、何が起こったのかぼんやりとわかる。
ミョンジンの記憶に同調した時と同じだ。
「……同調したんだな」
「僕の霊力とハーブの効果で――意識が繋がってしまったみたいだ」
ミョンジンの辛い記憶や異界の重苦しい感じと違い、夢の中は心地好かった。
心が通じていると思えたし、嘘の無いギョンフンの気持ちが聞けた。
「別に謝ることじゃない」
「二人とも同じ酒で酔っていたのもあって――油断してた。あなたは病み上がりなのに」
「わざとじゃないならいい。イナには効かないんだろ?」
「媒介するのは僕と煙だから、大丈夫」
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DONEクローゼット⑥文庫同人誌『転禍為福』通販受付中です。
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自白 湯船に浸かってリラックスしきったところで目を閉じたら、そのまま眠ってしまいそうになる。
この家を買う時に聞いた、日本では、風呂場の死亡事故が交通事故より多いらしいという話が脳裏をかすめたところで、ギョンフンのノックの音に起こされた。
さっきソファでせっかく気持ち良さそうに眠っていたのに、自分が声をかけたせいで起こしてしまったのか。男同士なのをいいことに「開けていい」と答える。
もう少し親密になりたいと思う気持ちが酔いで解放され、断られるかもしれないと思いつつ「入れば」と誘った。
微妙な表情をされたものの、ギョンフンは素直に提案を受け入れた。
ギョンフンの入れ墨は上半身の方が多くて、この前シャツを脱いで見せられた時ほどの驚きはない。それより、常々思っていたスタイルの良さに改めて感心する。
9623この家を買う時に聞いた、日本では、風呂場の死亡事故が交通事故より多いらしいという話が脳裏をかすめたところで、ギョンフンのノックの音に起こされた。
さっきソファでせっかく気持ち良さそうに眠っていたのに、自分が声をかけたせいで起こしてしまったのか。男同士なのをいいことに「開けていい」と答える。
もう少し親密になりたいと思う気持ちが酔いで解放され、断られるかもしれないと思いつつ「入れば」と誘った。
微妙な表情をされたものの、ギョンフンは素直に提案を受け入れた。
ギョンフンの入れ墨は上半身の方が多くて、この前シャツを脱いで見せられた時ほどの驚きはない。それより、常々思っていたスタイルの良さに改めて感心する。
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湯煙 ――何かまずかっただろうかと思い返すも、まずいことしかしていない気がする。
ギョンフンはサンウォンにねじ込まれた茶煙草をふかしながら、酒の酔いと余韻を味わう。
同性同士ならではの気安さなのか、家族のような親近感か、サンウォンはギョンフンが触れても避けない。
その理由が、医療従事者等に対してと同様にギョンフンを信頼してのことなら、自分はもう彼に触れるべきではない。
今夜は、恋ゆえのときめきだけではない穏やかな幸福感の方が勝っている。だからこそ、からかうような言い回しができたのだ。
魔除けや浄化の作業なら自分も邪な気持ちは無い。ただ、やり返されてしまうと、途端に期待に揺れてしまう自分に戸惑う。お互いそういう関係を望んでいるならまだしも、一方的に弄ぶようなかたちで自分の欲望を満たしたいだけではないかと自戒する。
3162ギョンフンはサンウォンにねじ込まれた茶煙草をふかしながら、酒の酔いと余韻を味わう。
同性同士ならではの気安さなのか、家族のような親近感か、サンウォンはギョンフンが触れても避けない。
その理由が、医療従事者等に対してと同様にギョンフンを信頼してのことなら、自分はもう彼に触れるべきではない。
今夜は、恋ゆえのときめきだけではない穏やかな幸福感の方が勝っている。だからこそ、からかうような言い回しができたのだ。
魔除けや浄化の作業なら自分も邪な気持ちは無い。ただ、やり返されてしまうと、途端に期待に揺れてしまう自分に戸惑う。お互いそういう関係を望んでいるならまだしも、一方的に弄ぶようなかたちで自分の欲望を満たしたいだけではないかと自戒する。
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煙草 サンウォンはギョンフンと大きなソファに並んで座り、『エクストリーム・ジョブ』を観ながらチキンを食べ、酒を飲んだ。
イナは今日から音楽教室のレクリエーションで、数日不在だ。
春でも、夜はまだ肌寒い。おかげで四十路の男二人でもむさ苦しくならずに済む。
薬との相性があり酒は控えていたが、今日は薬を飲む方を控えた。医者には薬と合わせて飲むことを止められているだけだから、家でゆっくりする分には支障ないだろう。
泥酔しない程度の量だけの酒を買い、もうじき飲み終わる。
医者と言ってもドヒョンは、サンウォンの数少ない高校時代からの友人だ。薬が効いている気がしなくて、処方できる限界まで薬をもらうために頼った。
スンヒの死、イナ、自分の弱さからも逃げていたが、もう逃げない。一生悩まされることを受け入れたから、今度は最低限だけの薬になり随分と楽になった。
6488イナは今日から音楽教室のレクリエーションで、数日不在だ。
春でも、夜はまだ肌寒い。おかげで四十路の男二人でもむさ苦しくならずに済む。
薬との相性があり酒は控えていたが、今日は薬を飲む方を控えた。医者には薬と合わせて飲むことを止められているだけだから、家でゆっくりする分には支障ないだろう。
泥酔しない程度の量だけの酒を買い、もうじき飲み終わる。
医者と言ってもドヒョンは、サンウォンの数少ない高校時代からの友人だ。薬が効いている気がしなくて、処方できる限界まで薬をもらうために頼った。
スンヒの死、イナ、自分の弱さからも逃げていたが、もう逃げない。一生悩まされることを受け入れたから、今度は最低限だけの薬になり随分と楽になった。
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油断 仕事道具を買うのにホームセンターに行きたいと言ったら、サンウォンが車を出してくれた。「買い物にでも出る」は、とりあえずデスクから離れるという意味で、自分の用事は特に無いらしい。
転がり込んだ時に金が無いと言ったからか、よっぽど高いものをねだらない限りは、同行時の会計はサンウォン持ちだ。特に役に立つこともしていないのに、完全にヒモである。
基本的に、自分の車は自分で運転したいらしいが、検査のために薬を止めている時や病状が良くない時は、運転に支障が出るので代わることもある。幸い、フラッシュバックも減り、病状は良くなっている。運転自体も、少し前より楽にできているようだ。
「メタルバンドのドラマー?室長が?」
5143転がり込んだ時に金が無いと言ったからか、よっぽど高いものをねだらない限りは、同行時の会計はサンウォン持ちだ。特に役に立つこともしていないのに、完全にヒモである。
基本的に、自分の車は自分で運転したいらしいが、検査のために薬を止めている時や病状が良くない時は、運転に支障が出るので代わることもある。幸い、フラッシュバックも減り、病状は良くなっている。運転自体も、少し前より楽にできているようだ。
「メタルバンドのドラマー?室長が?」
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TV「はぁ~、流石プロフェッショナルですね」
サンウォンが手書きのデザインをPCで再構築したリフォーム案を眺めながら、ギョンフンはまた、けったいな即席麺をすすっている。
サンウォンもコーヒーを淹れ、イナが好きなアーモンドチョコをつまむ。
昔ピンチに手助けしたことのある元同期が、細かい仕事をいくつか回してくれた。おかげでギョンフンとの計画に金を使っても、無一文にはならずに済みそうだ。
「わざとらしく褒めても、好感度は上がらないぞ」
凄腕でやり手の退魔師は、食い意地の張ったリスみたいな顔で頬袋を膨らませている。
「好感度?アジョシ、もう既に僕のこと、割と気に入ってるでしょうに」
マイペースに麺を咀嚼した後、ギョンフンはそう言ってにたりと笑った。
6784サンウォンが手書きのデザインをPCで再構築したリフォーム案を眺めながら、ギョンフンはまた、けったいな即席麺をすすっている。
サンウォンもコーヒーを淹れ、イナが好きなアーモンドチョコをつまむ。
昔ピンチに手助けしたことのある元同期が、細かい仕事をいくつか回してくれた。おかげでギョンフンとの計画に金を使っても、無一文にはならずに済みそうだ。
「わざとらしく褒めても、好感度は上がらないぞ」
凄腕でやり手の退魔師は、食い意地の張ったリスみたいな顔で頬袋を膨らませている。
「好感度?アジョシ、もう既に僕のこと、割と気に入ってるでしょうに」
マイペースに麺を咀嚼した後、ギョンフンはそう言ってにたりと笑った。
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家路「サンウォンさんのお父さんは、どんな人です?」
信号待ちでそう問われ、助手席のギョンフンと目を合わせる。
「多分……俺と似てるはずだ。不器用だったから」
人と物の区別がつかないのか――母には時折、そう泣かれていた。
すれ違いはうかがえたが、母の方が父を捨てられないような印象だった。お互い愛情を持って接しているのはわかった。母の方が想いは強く、それが伝わらないのが苦しかったのだろう。
自分は父とそこまでの衝突はなく、声をあらげて怒られた思い出もない。ただ、父が母にしていたのと似たことを、気付けば自分は、娘にしてしまっていた。
「――不器用?」
目を細めたギョンフンに自分の言葉を繰り返され、少し喉元が苦しくなる。
5078信号待ちでそう問われ、助手席のギョンフンと目を合わせる。
「多分……俺と似てるはずだ。不器用だったから」
人と物の区別がつかないのか――母には時折、そう泣かれていた。
すれ違いはうかがえたが、母の方が父を捨てられないような印象だった。お互い愛情を持って接しているのはわかった。母の方が想いは強く、それが伝わらないのが苦しかったのだろう。
自分は父とそこまでの衝突はなく、声をあらげて怒られた思い出もない。ただ、父が母にしていたのと似たことを、気付けば自分は、娘にしてしまっていた。
「――不器用?」
目を細めたギョンフンに自分の言葉を繰り返され、少し喉元が苦しくなる。