chiocioya18
DONE月花妖異譚時空 本編より少し前の話すべては妄想の産物です
薬種問屋組+ムル編 私はムル好きです(自己弁護)
月花前日譚 三薬種問屋の店内は昼でも薄暗い。薬の中には日光に当てると変質してしまう物も多いからだ。
店番のヒースクリフは輝く美貌を憂いに沈めていた。今は無人の店内は数分前まではひどく混雑していた。それが薬を求めて来た客なら商いとしては喜べたのだが、大半はヒースクリフを一目見たいがために集まってしまった、有り体に言えば冷やかしの客たちばかりだった。街の瓦版に、幸福をもたらす微笑みなどと妙な記事が掲載された時期から、そんなお客が一気に増えてしまったのだ。はじめはヒースクリフも応対していたが、しつこいお客にまごついている内に収集がつかなくなったため、本来用心棒のはずのシノやカインが店先で客の出入りを抑えている始末。
店の跡取りとしてあまりに不甲斐ない現状に、深い溜息をついてしまう。
1917店番のヒースクリフは輝く美貌を憂いに沈めていた。今は無人の店内は数分前まではひどく混雑していた。それが薬を求めて来た客なら商いとしては喜べたのだが、大半はヒースクリフを一目見たいがために集まってしまった、有り体に言えば冷やかしの客たちばかりだった。街の瓦版に、幸福をもたらす微笑みなどと妙な記事が掲載された時期から、そんなお客が一気に増えてしまったのだ。はじめはヒースクリフも応対していたが、しつこいお客にまごついている内に収集がつかなくなったため、本来用心棒のはずのシノやカインが店先で客の出入りを抑えている始末。
店の跡取りとしてあまりに不甲斐ない現状に、深い溜息をついてしまう。
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レノックス+ファウスト編
月花前日譚 二木漏れ日の朝の地面は万華鏡のように光が揺れる。茂る枝葉をたまに頭に引っ掛けながら、レノックスは迷いない足取りで進む。目的の小さな庵に着くと、丁度中から庵の主が出てきたところだった。
「ファウスト様。お久しぶりです」
「レノックス。また歩いてきたのか。一本下駄で山道なんて正気じゃないと言ったのに」
「鍛錬に丁度いいので」
「いや飛びなよ。きみも天狗だろう」
呆れた溜息を零すファウストの顔色は白い。隈取りで分かりにくいが、目の下にも疲労が見える。
「あまり眠れていないのですか? 体調が優れないのでしたら、出直しますが」
「たまたま夜更かししただけだ。きみが来るのは前々からの予定だ。調整できなかった僕が悪い」
言いながらファウストはレノックスに藤籠を手渡した。中身はファウストが煎じた薬だと聞いている。桜雲街の薬種問屋へ卸すのだ。
1119「ファウスト様。お久しぶりです」
「レノックス。また歩いてきたのか。一本下駄で山道なんて正気じゃないと言ったのに」
「鍛錬に丁度いいので」
「いや飛びなよ。きみも天狗だろう」
呆れた溜息を零すファウストの顔色は白い。隈取りで分かりにくいが、目の下にも疲労が見える。
「あまり眠れていないのですか? 体調が優れないのでしたら、出直しますが」
「たまたま夜更かししただけだ。きみが来るのは前々からの予定だ。調整できなかった僕が悪い」
言いながらファウストはレノックスに藤籠を手渡した。中身はファウストが煎じた薬だと聞いている。桜雲街の薬種問屋へ卸すのだ。
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ファウスト+ブラッドリー編
月花前日譚 一月が明るい夜だ。はらり、はらり、仄紅い花弁がファウストの足元に落ちた。
桜雲街の大桜は月の光を好むが、大抵の妖怪も同様だ。ファウストだって例に漏れない。
ファウストはぼんやりと夜空を見上げていたが、不意に月に影が差した。雲ではなく、人影だ─それも、多数の。
連なる影の形から見て有翼種。同族かとファウストは顔を顰める。空を飛べる種族はいくつかいるが、こんな夜に月の光を遮るなんてどんな妖怪でも行儀が悪いと非難される行為だ。かといって、わざわざ注意しに行くほどファウストもお節介ではない。呆れた溜息をひとつ吐くだけで、自分も住処へ戻ろうとした、その時。
ガササッ!!
すぐ近くの叢から音がした。野生動物にしては何の気配もしない。不思議に思って音のした辺りを掻き分けてみると、ぽつんと黒っぽい物が転がっている。
2369桜雲街の大桜は月の光を好むが、大抵の妖怪も同様だ。ファウストだって例に漏れない。
ファウストはぼんやりと夜空を見上げていたが、不意に月に影が差した。雲ではなく、人影だ─それも、多数の。
連なる影の形から見て有翼種。同族かとファウストは顔を顰める。空を飛べる種族はいくつかいるが、こんな夜に月の光を遮るなんてどんな妖怪でも行儀が悪いと非難される行為だ。かといって、わざわざ注意しに行くほどファウストもお節介ではない。呆れた溜息をひとつ吐くだけで、自分も住処へ戻ろうとした、その時。
ガササッ!!
すぐ近くの叢から音がした。野生動物にしては何の気配もしない。不思議に思って音のした辺りを掻き分けてみると、ぽつんと黒っぽい物が転がっている。
かべうちのかべ
DONEそういうブラネロ5 開催おめでとうございます。月花パロの天狗のブラネロが可愛かったので書いてみました。こういう日があって欲しい。
一緒にお店ってネの幸せの一つでは?と思いながら、でも、色々影のある設定で情緒は忙しいですが、基本的には甘い話が展開されていてほしい。です。
『月と桜と君と』「花見しようぜ」
出前から帰ってくるなりニカッと効果音がつくような豪快な笑顔と共にそう声がかかった。
「花見?」
「おぅ!さっき空飛んでた時見えたんだ。今が満開だからよ。今夜店閉めた後に夜桜を肴に一杯やろうぜ」
いたずらっぽくお猪口を煽る真似をする白黒の髪の男は、この店の店主、ブラッドリー。
「へぇ。そっか、いつもどこかしらで咲いてるから気づかなかったな」
鍋のものをかき混ぜながら振り返った青灰色の髪の男はネロといった。
「決まりだな。よし、じゃぁ次いでだ、花見弁当、売ろうぜ」
「はぁ? 今から作んのかよ」
「てめぇならそんくらいできんだろ?」
「まぁ、そりゃできるけど……」
「ぜってぇ売れるぜ」
「はぁ。わかったよ」
2581出前から帰ってくるなりニカッと効果音がつくような豪快な笑顔と共にそう声がかかった。
「花見?」
「おぅ!さっき空飛んでた時見えたんだ。今が満開だからよ。今夜店閉めた後に夜桜を肴に一杯やろうぜ」
いたずらっぽくお猪口を煽る真似をする白黒の髪の男は、この店の店主、ブラッドリー。
「へぇ。そっか、いつもどこかしらで咲いてるから気づかなかったな」
鍋のものをかき混ぜながら振り返った青灰色の髪の男はネロといった。
「決まりだな。よし、じゃぁ次いでだ、花見弁当、売ろうぜ」
「はぁ? 今から作んのかよ」
「てめぇならそんくらいできんだろ?」
「まぁ、そりゃできるけど……」
「ぜってぇ売れるぜ」
「はぁ。わかったよ」