雪ノ下
MEMO2022.05.27『夏空とストロベリー』再録気まぐれなマシロが甘いものを飲む話
Main:MASHIRO
『夏空とストロベリー』「あっっっつ……」
雲ひとつない青空に輝く太陽が容赦なく地上を照りつけていた。初夏らしからぬ熱気を恨めしく思いながら、顎を伝う汗を無造作に拭う。
次の現場までそんなに離れていないからとらしくもなく徒歩移動を選択した自分が間違っていた。まさか今日がこんな季節外れの真夏日になろうとは。
道すがら拾おうかと提案してくれたアカネの誘いを断ったことを今更ながらに後悔する。今からでもいいから迎えに来てほしい。
まったくまだ五月も半ばだというのにこの暑さ、盛夏を迎えたら一体どうなってしまうのだろう。陽光と熱風で溶けてしまうんじゃないのかと一抹の不安が頭を過ぎる。そう思いながら毎年なんだかんだ乗り越えられているからいらぬ心配には違いないのだろうが……そうは言ってもこの気温の高さ、流石に参ってしまう。
2154雲ひとつない青空に輝く太陽が容赦なく地上を照りつけていた。初夏らしからぬ熱気を恨めしく思いながら、顎を伝う汗を無造作に拭う。
次の現場までそんなに離れていないからとらしくもなく徒歩移動を選択した自分が間違っていた。まさか今日がこんな季節外れの真夏日になろうとは。
道すがら拾おうかと提案してくれたアカネの誘いを断ったことを今更ながらに後悔する。今からでもいいから迎えに来てほしい。
まったくまだ五月も半ばだというのにこの暑さ、盛夏を迎えたら一体どうなってしまうのだろう。陽光と熱風で溶けてしまうんじゃないのかと一抹の不安が頭を過ぎる。そう思いながら毎年なんだかんだ乗り越えられているからいらぬ心配には違いないのだろうが……そうは言ってもこの気温の高さ、流石に参ってしまう。
雪ノ下
MEMO2022.07.26『お遊び的SS』再録10割会話。アカネがハイジをおぶる話
Main:RUBIA Leopard
『お遊び的SS』「……なにしてんの」
「ハイジおぶってる」
「それは見りゃわかるっつの」
「だったら聞くな」
「いや聞くでしょ!」
「こら、騒がしいぞ。廊下まで声が聞こえた」
「待ってがんちゃん俺のせいじゃない。見て」
「……なにやってんだお前ら」
「ちょっとハイジをおぶってみようかと」
「危ないだろ。おろせ」
「絶対落とさねーって」
「まったく……何がどうしてこうなったんだ」
「前にハイジが熱だした時おぶりそこねたから」
「はぁ?」
「あー……ナルホド。そういうことか」
「そういうこと」
「待て。俺にもわかるように説明しろ」
-説明中-
「だからって本当にするやつがあるか」
「やったらいけたから」
「軽いの?」
1112「ハイジおぶってる」
「それは見りゃわかるっつの」
「だったら聞くな」
「いや聞くでしょ!」
「こら、騒がしいぞ。廊下まで声が聞こえた」
「待ってがんちゃん俺のせいじゃない。見て」
「……なにやってんだお前ら」
「ちょっとハイジをおぶってみようかと」
「危ないだろ。おろせ」
「絶対落とさねーって」
「まったく……何がどうしてこうなったんだ」
「前にハイジが熱だした時おぶりそこねたから」
「はぁ?」
「あー……ナルホド。そういうことか」
「そういうこと」
「待て。俺にもわかるように説明しろ」
-説明中-
「だからって本当にするやつがあるか」
「やったらいけたから」
「軽いの?」
雪ノ下
MEMO2022.10.18『橙黄を纏う』再録クロノと香水
Main:RUBIA Leopard
『橙黄を纏う』「なぁ。クロノって香水変えた?」
スタジオに入るなりそう尋ねられて、暫く思考を巡らせたアカネはさぁと首を傾げた。
「まだ会ってねーんだよ」
「……あぁ。昨日帰ってないのね」
「そ。出先から直行」
「やーい朝帰り」
「誤解うむような言い方やめろ」
もはや日常のテンプレと化したマシロの揶揄を軽く受け流してソファに腰かける。一息ついたところで、先程のワードに再び意識を戻した。
はて。"クロノと香水"とは、なんとも珍しい組み合わせだ。
「で、なんで香水?」
「いつもと違うっつか……すげー甘い匂いする」
「マジ?珍し」
そもクロノが香りを纏っていること自体日常的とは言い難い。
元々そういう類にあまり興味がないらしく、時折ふっている香水もアカネが購入した際にサンプルとして貰ったものだ。新しいのを買ってやると言っても首を横に振るばかりで、なくなったタイミングで贈ろうと画策してはいるものの、つけない日もしばしばあるから一向に減る気配がない。
2120スタジオに入るなりそう尋ねられて、暫く思考を巡らせたアカネはさぁと首を傾げた。
「まだ会ってねーんだよ」
「……あぁ。昨日帰ってないのね」
「そ。出先から直行」
「やーい朝帰り」
「誤解うむような言い方やめろ」
もはや日常のテンプレと化したマシロの揶揄を軽く受け流してソファに腰かける。一息ついたところで、先程のワードに再び意識を戻した。
はて。"クロノと香水"とは、なんとも珍しい組み合わせだ。
「で、なんで香水?」
「いつもと違うっつか……すげー甘い匂いする」
「マジ?珍し」
そもクロノが香りを纏っていること自体日常的とは言い難い。
元々そういう類にあまり興味がないらしく、時折ふっている香水もアカネが購入した際にサンプルとして貰ったものだ。新しいのを買ってやると言っても首を横に振るばかりで、なくなったタイミングで贈ろうと画策してはいるものの、つけない日もしばしばあるから一向に減る気配がない。
雪ノ下
MEMO2022.11.02『たいもひとりはうまからず』再録鯛のような美味しい魚や料理であっても、たったひとりで食べるのでは味気なく感じるということ
転じて、「食事は大勢で食べるほうが美味しく感じられる」という意
Main:MASHIRO
『たいもひとりはうまからず』「……どーっすかな今日」
制限時間いっぱいまでベースを弾き、借りていたスタジオをでると日はすっかり高くなっていた。
ちょうど時刻は昼時……が、如何せん腹が減らない。いや、本当は減っているのかもしれないが自ら食事をとろうと思うほどの欲が湧かないのだ。疲労は感じるからそれなりに動いているには違いないし、消費したエネルギーの分だけ空腹を覚えていても不思議はないのだが……結局今日も"ひとりでメシを食うのだ"と思うと、微々たる食欲よりも、それを満たすためにあれこれ悩むのは面倒だという気持ちの方が勝った。
大抵のことは適当に済ませられると思っていたが、俺って案外繊細なのかもしれない。以前は……ひとりでいることが当たり前だった頃は、むしろ他人と時間を共有するなど鬱陶しいことこの上ないと思っていたのに。
2291制限時間いっぱいまでベースを弾き、借りていたスタジオをでると日はすっかり高くなっていた。
ちょうど時刻は昼時……が、如何せん腹が減らない。いや、本当は減っているのかもしれないが自ら食事をとろうと思うほどの欲が湧かないのだ。疲労は感じるからそれなりに動いているには違いないし、消費したエネルギーの分だけ空腹を覚えていても不思議はないのだが……結局今日も"ひとりでメシを食うのだ"と思うと、微々たる食欲よりも、それを満たすためにあれこれ悩むのは面倒だという気持ちの方が勝った。
大抵のことは適当に済ませられると思っていたが、俺って案外繊細なのかもしれない。以前は……ひとりでいることが当たり前だった頃は、むしろ他人と時間を共有するなど鬱陶しいことこの上ないと思っていたのに。
雪ノ下
MEMO2022.11.29『speechless』再録アカネの声がでなくなる話
Main:AKANE・KURONO
『speechless』"日常とは突如崩れ去るものである"
まさか、こんな最悪の形で経験することになるなんて。
「……」
目が覚めたとき、特に違和感はなかった。
昨夜なかなか寝つけなかったせいで少し頭が重いのと、周りの景色の変化にまだ慣れないこと以外は。枕元のスマホを見ると6時30分。ほぼ普段通りの起床時刻だ。
きっちりカーテンが引かれた室内に少し開いた扉の隙間から人口的な光が差し込んでいる。耳を澄ますとリビングの方からパタパタとスリッパが鳴る音と、食器が擦れ合うような音が聞こえてきた。
クロノ、もう起きてるのか。
"はえーな"
そう呟こうとして、気づいた。
「 」
声がでない。
3688まさか、こんな最悪の形で経験することになるなんて。
「……」
目が覚めたとき、特に違和感はなかった。
昨夜なかなか寝つけなかったせいで少し頭が重いのと、周りの景色の変化にまだ慣れないこと以外は。枕元のスマホを見ると6時30分。ほぼ普段通りの起床時刻だ。
きっちりカーテンが引かれた室内に少し開いた扉の隙間から人口的な光が差し込んでいる。耳を澄ますとリビングの方からパタパタとスリッパが鳴る音と、食器が擦れ合うような音が聞こえてきた。
クロノ、もう起きてるのか。
"はえーな"
そう呟こうとして、気づいた。
「 」
声がでない。
雪ノ下
MEMO2022.12.21『EVOKE』再録Main:KURONO・MASHIRO
『EVOKE』忘れかけていた記憶の欠片がふとした瞬間、何気ないことで喚起される。
アルバムのページが独りでに捲られていくように。無数の星が一斉に瞬くように。
自分の中では遥か彼方にあって、もう届くまいと思い込んでいるものでも、ちょっとしたトリガーさえあれば案外簡単に呼び起こせるものだ。その点、人間の脳はよく出来ている。
「あ」
ぽろ、と手からペンが零れ落ちた。
先程から上手く力が伝わらず、そろそろ落っことしそうだと思っていた矢先の出来事だった。空調はきいているはずなのに指先は一向に温かくならない。この季節の嫌なところだ。
反動に従ってコロコロと床を転がったそれは、まるで「拾ってください」と言わんばかりに誰かの足元で動きを止めた。よく磨かれた真っ黒な爪先から視線を上げると、いつの間に来たのかクロノが立っている。どれだけ静かに入ってきたとしても扉の開閉音くらいはしたはずだが、今の今までまったく気がつかずにいたらしい。いるなら声くらいかけてくれればいいのに。
3944アルバムのページが独りでに捲られていくように。無数の星が一斉に瞬くように。
自分の中では遥か彼方にあって、もう届くまいと思い込んでいるものでも、ちょっとしたトリガーさえあれば案外簡単に呼び起こせるものだ。その点、人間の脳はよく出来ている。
「あ」
ぽろ、と手からペンが零れ落ちた。
先程から上手く力が伝わらず、そろそろ落っことしそうだと思っていた矢先の出来事だった。空調はきいているはずなのに指先は一向に温かくならない。この季節の嫌なところだ。
反動に従ってコロコロと床を転がったそれは、まるで「拾ってください」と言わんばかりに誰かの足元で動きを止めた。よく磨かれた真っ黒な爪先から視線を上げると、いつの間に来たのかクロノが立っている。どれだけ静かに入ってきたとしても扉の開閉音くらいはしたはずだが、今の今までまったく気がつかずにいたらしい。いるなら声くらいかけてくれればいいのに。
雪ノ下
MEMO2023.01.17『blank space』再録※時間軸Never end
Main:RUBIA Leopard
『blank space』ピンポーン
来訪者を知らせるチャイムの音にモニターを確認すると、"さっさといれてよ"と言わんばかりにこちらを覗き込む見慣れた綿毛が目に入った。勿論これはあだ名……とまでもいかない今浮かんだばかりの仮名だが、我ながら結構いい例えだと思う。
「また来たのか」
「お腹すいたーあけてー」
「うちは食堂じゃないと何度言えば……」
「んな固いこと言わずに!ね?クロノおにーちゃん」
「切るぞ」
揶揄を含んだ声音に若干の苛立ちを覚えて突っぱねるとマシロの態度は一転、低姿勢なものに変わった。日によって会話の内容が異なるとはいえこれに似たやり取りをもう何度も繰り返している。マシロの軽口など挨拶のようなものだ。いい加減流せるようになれと思うものの、コイツ相手にすんなり首を振るのはどうにも癪に障るというか……
2162来訪者を知らせるチャイムの音にモニターを確認すると、"さっさといれてよ"と言わんばかりにこちらを覗き込む見慣れた綿毛が目に入った。勿論これはあだ名……とまでもいかない今浮かんだばかりの仮名だが、我ながら結構いい例えだと思う。
「また来たのか」
「お腹すいたーあけてー」
「うちは食堂じゃないと何度言えば……」
「んな固いこと言わずに!ね?クロノおにーちゃん」
「切るぞ」
揶揄を含んだ声音に若干の苛立ちを覚えて突っぱねるとマシロの態度は一転、低姿勢なものに変わった。日によって会話の内容が異なるとはいえこれに似たやり取りをもう何度も繰り返している。マシロの軽口など挨拶のようなものだ。いい加減流せるようになれと思うものの、コイツ相手にすんなり首を振るのはどうにも癪に障るというか……
雪ノ下
MEMO2023.04.14『SAI』再録ルビレイディオ
つぐみとアカネがファンからのとある悩みについて考える話
Main:TSUGUMI・AKANE
『SAI』"赤が似合わないんです"
それまでほぼ休むことなく画面をスクロールしていた指が止まった。
それはルビレイディオで特に制限を設けず募集している「お便りコーナー」に投稿されたメールの一文だった。ライブの感想やメンバーへの質問、相談……なんでも気軽に送ってね、という趣旨の。
「んー……」
「どうかした?」
無意識に声を発していたらしい。正面から反応があって視線を上げると、今日のゲストであるつぐみが不思議そうな顔でこちらを見ている。手元にはタブレットを持っていて、自分と同様ファンからのメールを確認していたようだ。珍しく終始無言だったのはそのせいかと合点がいった。
「つーかアンタ、読むの早すぎない?」
2769それまでほぼ休むことなく画面をスクロールしていた指が止まった。
それはルビレイディオで特に制限を設けず募集している「お便りコーナー」に投稿されたメールの一文だった。ライブの感想やメンバーへの質問、相談……なんでも気軽に送ってね、という趣旨の。
「んー……」
「どうかした?」
無意識に声を発していたらしい。正面から反応があって視線を上げると、今日のゲストであるつぐみが不思議そうな顔でこちらを見ている。手元にはタブレットを持っていて、自分と同様ファンからのメールを確認していたようだ。珍しく終始無言だったのはそのせいかと合点がいった。
「つーかアンタ、読むの早すぎない?」
雪ノ下
MEMO2023.04.18『静観の美学』再録帝さんがとあることをきっかけに過去(アカネの幼少期)に思いを馳せる話
Main:日暮帝
『静観の美学』「どうやら俺は、人の目には冷たく映るらしい」
呟くと、隣に立つ楓の視線が頬に刺さるのを感じた。
いきなりなんだと驚いたことだろう。当然だ、あまりにも脈絡がなさすぎる。返答を期待してのことではなかった。ただ口の端から零れ落ちた些末な"ぼやき"に過ぎない。
けれど、それを単なる独り言として片付けないのがうちの次男のよく出来たところで。
「なぜ、そんな事を?」
「取引先の役員に言われたよ」
正確には"元"取引先だ。つい先ほど契約打ち切りの旨を伝えたばかりだった。
『あなたは冷たい御人だ。お父上なら、もっと温情をかけた判断をしてくださっただろう』
膝に置いたふたつの拳をぶるぶる震わせながら、絞り出すようにして吐きだされた言葉が耳について離れない。
3531呟くと、隣に立つ楓の視線が頬に刺さるのを感じた。
いきなりなんだと驚いたことだろう。当然だ、あまりにも脈絡がなさすぎる。返答を期待してのことではなかった。ただ口の端から零れ落ちた些末な"ぼやき"に過ぎない。
けれど、それを単なる独り言として片付けないのがうちの次男のよく出来たところで。
「なぜ、そんな事を?」
「取引先の役員に言われたよ」
正確には"元"取引先だ。つい先ほど契約打ち切りの旨を伝えたばかりだった。
『あなたは冷たい御人だ。お父上なら、もっと温情をかけた判断をしてくださっただろう』
膝に置いたふたつの拳をぶるぶる震わせながら、絞り出すようにして吐きだされた言葉が耳について離れない。