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    #土井利

    toshiDoi

    さかえ

    MAIKINGいずれ土井利になる話1の続き。若土と子利が交流を深めるの段。この時点ではまだ土利ではありません。
    土Tの過去に触れる箇所があります。苦手な方はご注意ください。
    いずれ土井利になる話2 いっこうに心を開く様子を見せぬ少年は、それでもたびたび土井のもとを訪れては(非常に不本意であるという表情をしながら、だが)何くれとなく世話を焼いた。そうして夜になると人が寝静まった頃を見計らって、そっと土井の懐にすべりこむのだった。そのたびに土井は利吉にその理由を尋ねたい気持ちに駆られたが、訊いたところで素直に答えてくれる相手では無し。気になりつつも問うことはできないまま、蓮の浮葉が水の上でついたり離れたりするような距離感で、二人の日々はゆっくりと過ぎていった。
     転機はほんの小さなものだった。
     ある時、利吉少年がいつものごとく病床を訪れて一通りのことを片付けた後、土井が横たわるふとんの傍で兵法書を読み出したことがあった。土井には聞こえないようにしているつもりなのだろうが、時折漏れる呟きの中に、耳に馴染んだ語句がいくつもあった。懐かしい、と笑みながら、土井はふとんに横たわったままひそかにそれに聴き入る。土井も幼いころは素読といって、訳も分からず読めと言われるままにとにかく口ずさんでいたものだった。それがいつか家のためになるのだと言われて――訳が分かるようになったのは、全てが手遅れになった後だったけれど。
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