「……あのさ」
「はい……?」
喉から出た声は掠れてみにくかった。
けほ、と咳払いをすると、となりのおとこはぎょっと目を開いて、あわてて起き上がると水差しに手を伸ばした。……甲斐甲斐しいことだ。
寝転がったまま、緩慢な動きで首を傾ける。あわい間接照明が、おとこの背をぼんやり照らしている。発達した筋肉で覆われて、山みたいに凹凸のあるそこに、細く伸びる引っ掻き傷。
「……ごめん、無理させたね」
「いいえ……、私も、背中を」
起き上がるのにも手を借りなくてはならぬ体たらく。水の中にいるかのよう、芯の芯まで、身体が重たい。
差し出されたグラスの中の水はぬるかったが、痛む喉にはちょうどよかった。
飲み干してやや体裁をととのえた声で指差し言うと、自覚がなかったらしい、首を回してみとめて、「ああ」と笑った。
6466