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    uncimorimori12

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    2021/11/7 夏五オンリーで出す予定だった無配もったいないから出します。

    #夏五
    GeGo

    不気味の谷 五条悟と再会したのは、桜けぶる春風が前髪をさらう大学の入学式でのことだった。
     あんまりにも長閑で退屈で面白みに欠ける大学生活初日。ホヤホヤの新入生を招き入れようとサークル勧誘の列が大きく口を開ける桜並木の下で、私は脳裏をつんざく白髪の男と再会した。頭ひとつ分飛び抜けた五条悟と人混み越しに目が合うなんてベタな展開に、思わず腹の底から漏れ出た笑いを噛み殺すのに失敗する。けれども、餞別とばかりにニコリと微笑みを返してやれば、五条悟は急速に興味を失ったのかフイと視線を逸らし私とは逆方向に歩いて行ってしまった。はて、確実に目が合ったはずなのにこの反応はどういうことだ。そりゃ五条悟にとっての夏油傑とは、決して良い思い出ばかりでは無かっただろう。楽しかったと呼べるのはほんの三年にも満たない時間で、残りといえば裏切られた苦い記憶とせいぜい侘しさなんてところではなかろうか。しかし、こう言っては何だが夏油傑を見つけて興味を示さない五条悟なんて存在しうるとは到底私には想像つかない。見捨てられ、取り残されようと、わざわざ息の根を止めにやって来るほどに執着を傾けて来た男だ。そんな人間が、私をそこらの芋虫を眺めるような視線で見るだろうか。そこまで考え、ふと思いつく。もしや五条悟は前世の記憶が無いのではないか? 自分にすらこびりついているってのに五条悟がすっからかんなのは不思議ではあるが、ありえない話ではない。そうでなければ自分の姿を認めた瞬間、人混みを薙ぎ倒しすっ飛んでこなきゃおかしいだろ。まあ、呪霊もいなければ六眼も持っていなさそうな今世の五条ならば仕方がない話ではあるが。いくら五条悟と言えど、今やただの一般人。包丁で刺せば刃は届くし、数人がかりで襲い掛かれば殺せるだろう。そういう、しがないちっぽけな人間だ。よって記憶を引っ提げずに私の前に再び現れたとしても、それはまったく不思議なことではない。まあ、無かったところでやることはただ一つ。

    「そういうことで君と友達になりたいんだけど」

     隣の席で人好きのする笑みを浮かべるも、やっぱり五条はこちらに一瞥もくべず手元のスマホをいじり倒す。「てめえなんで俺に構うんだよ」と、珍しく五条悟から私に言葉をかけてきたから懇切丁寧に説明してやったというのに、この反応は無くないか。合コンだったらどんなに綺麗なお顔であろうと、女の子からの評価はちょっとイマイチどころか氷点下だ。人間てのは顔だけじゃなく愛想ってもんが大事なのである。授業中に大講堂の後方でベラベラ話し始めるなよと言われてしまえばそれまでだが、教授の話に耳を傾けずゲームに熱中する五条悟とて同じ穴の狢なので良しとしてほしい。

    「ひどいな、悟から説明してって言われたからこうやって話したのに」
    「はっ、そんなんで傷つくタマかよ。てか名前で呼ぶな」
    「悟は私を何だと思ってるの? 君に無視されれば私だって傷つくさ」

     そう言いながら五条悟の手からスマホを奪う。画面に映し出されたキャラクターは即座に死に、悟はようやく顔を上げ無表情以外の、不快さを全面に押し出し眉を顰めた。

    「へえ、このゲームやってるんだ。私もだよ。このクエストを自発できるってかなり強いね」
    「返せ。窃盗だろ」
    「つれないな。あ、フレンド登録しようよ。一緒にクエスト行こ」
    「行かねえ」

     常より低い声と共に私の手からスマホを奪い返そうとするので迫ってきた手に掌を重ねれば、まるで牛乳が染み込んだ雑巾でも触ってしまったかのように勢いよく振り解かれる。おいおい、毎日風呂だって入ってんだぞ。そうは思っても、五条悟にとって今の私は大学で入学当初から付き纏ってくる不審者でしかないので大人しく引き下がる。ついでにスマホも返してやれば、鋭い舌打ちの返礼品が届いた。

    「私の連絡先登録しておいたよ。いつでも連絡してくれ」
    「しねえ」
    「そうは言わず。あ、授業終わるよ。せっかくだしこのまま一緒にお昼に行こうか」
    「行かねえ」

     チャイムの音と共に席を立つ五条悟の背中をすかさず追いかける。隣に並びたっても、五条悟が私を瞳に映すことはなかった。
     私の記憶が確かなら、本当の初対面の時の五条悟はこのような態度では無かった。こちらを見下し、一般家庭出身であることを馬鹿にした態度を取り、雑魚は引っ込んでろとばかりに歯牙にもかけない。けれども、同じ年頃の呪術師としてある程度の興味は示していたと記憶している。それどころか、任務の中で対等の呪術師として渡り合い、庶民の文化に触れさせ、隣部屋で共に過ごす内に五条悟の氷山みたいな警戒心はスルスルと溶けていったのだ。しかし、今世ではそもそもの話として呪術師という共通点がまず無い。自販機の前で五条悟が戸惑うことはないし、現時点での悟にとっての夏油傑は自分のストーカーの大男程度の認識しか持っていないだろう。そんな状態からでも仲良くなれる自信があったんだけどな。おかしいな、予想が外れた。首を傾げている内に気がつけば、普段は滅多に訪れない古いA棟の方に連れてこられていた。新棟とは違い陽射しの入りが悪い旧棟は、春だというのにどこかジメジメと湿気が肌にまとわりつく。五条悟は適当な教室に入ると、私を中へと招き入れた。

    「ここでお弁当でも広げましょうってこと?」

     中に入り振り向けば、扉を閉めた五条が私を見下ろす。やはり無表情の五条悟は、口を開かなければ精巧な人形にしか見えない。あの白い肌の下、生きた赤い血が駆け巡り心臓が脈を打っているのかと思うとあまりのアンバランスさに喉奥が締まった。そもそもがおかしいのだ。人間社会に適合できるはずのない男がこんなチンケな大学を闊歩しているのが。悟はこちらに近づくと、私の襟をつかみ引き寄せる。六眼なんて存在しないはずなのに、悟の両眼は私の腹の底まで全て見透かしているようであった。

    「おい、いつまで舐めた真似しやがる」
    「ひどいな。私が君を馬鹿にしてるって?」
    「おい、おい。お前いつまで俺に付き纏うつもりだ。いいか、俺はお前なんて知らない。お前なんて存在も、名前も、記憶すら共有していない。だのになぜお前は俺に関わってくる? なぜ侵害しようとしてくる?」
    「だから言ったろ。私は前世で、」
    「俺の親友は夏油傑だ。お前じゃない」

     五条悟の瞳孔が大きく開く。初めて間近で見る五条悟の双眼は、びっしりとまつ毛が生えそろっていて何だか虫でも密集しているようだ。
     あぁ、気持ち悪い。

    「いいか、耳かっぽじって聞け。お前の身体が何であろうと、構成する肉が、血が、細胞がいくら夏油傑だと叫ぼうと。俺の鼓動が、魂が、お前の存在を否定する。お前は夏油傑でないと俺の全身が騒ぎ立てる。前回俺がお前の正体を見破ったのは六眼のせいとでも思ったか? いいや、違うね。そんな信用ならないもんで俺はお前を見たんじゃない。どこにいようと、どんな姿に生まれ変わろうと、俺は絶対に傑を探し当てる。知能すら失い物言わぬ虫になろうと、一目見れば傑だって即座に言い当ててみせる。俺が言ってるのはそういうもんだ。つまりさ、分かるよな。お前は違う。お前は夏油傑の肉袋を借りただけの薄汚い何かだ。だからその口で、声で、夏油傑の名を騙るのは金輪際やめろ。俺に馴れ馴れしくするな、俺に関わるな、俺の前で出来の悪いロボットみてえな夏油傑の再演をするな」

     窓の外から鳥の呑気な囀りが流れてくる。見上げた先、そこには強烈な嫌悪が存在した。いつだって無表情で、たまに眉を顰めるくらいで、ただ煩わしそうにしていた程度の男が、あの五条悟が。私を見て、私に敵意をむけ、怒りをあらわにする。

     ハハッ

    「ブフッ、グフ、ふ、ハハハ、アハハハハ! ……あー、おっかしい。なんでまたバレんだよ」

     私は。そう、私は。五条悟の腕の中から抜け出すと腹を抱え身の淵から沸き起こる愉悦に身を任す。
     そうか、お前は、五条悟は。やはり新しい人生でもただの人間として生まれ落ちることを許されず、今は亡き親友の面影を血眼になって探し回っていたというのか。探し求めた肉体が目の前に現れようと目も暮れず、ただ己の魂の叫ぶまま石の裏すらひっくり返して己で葬り去った親友を追い求めたのか。
     それってすっげえ滑稽じゃん。
     私は振り返るとこちらを睨みつけてくる五条悟に、五条悟がかつて愛したであろう笑みを再現しお送りする。あぁ、なんて慈悲深いんだろう。私はお前の親友などでは無く全くの赤の他人であるのに、こうしてお前の愛しい親友の肉を持って生まれたってだけなのに、お前のために微笑みかけてやるなんて優しさだけでノーベル賞をもらっても良いのではないだろうか。だと言うのに、目の前の五条悟はますます目を細め眼光を鋭くするのみであった。おいおい、その態度は無いだろう。なんて失礼なやつだ。私だって選んでまたこの肉体に生まれ落ちた訳では無いのだが。まあいい、何事も第一印象が肝心だ。私は恭しく一礼すると、五条悟のただの碧眼を見据えた。

    「やあ、初めまして五条悟。この世界での息の仕方にはもう慣れたかな?」
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    uncimorimori12

    PASTみずいこ
    Webオンリーで唯一ちょとだけ理性があったとこです(なんかまともの書かなくちゃと思って)
    アルコール・ドリブン「あ、いこさんや」
     開口一番放たれた言葉は、普段の聞き慣れたどこか抑揚のない落ち着いたものと違い、ひどくおぼつかない口ぶりであった。語尾の丸い呼ばれ方に、顔色には一切出ていないとはいえ水上が大変酔っていることを悟る。生駒は座敷に上がると、壁にもたれる水上の肩を叩いた。
    「そう、イコさんがお迎え来たでー。敏志くん帰りましょー」
    「なんで?」
    「ベロベロなってるから、水上」
    「帰ったらいこさんも帰るから、いや」
    「お前回収しに来たのに見捨てんって〜」
    「すみません生駒さん」
     水上の隣に座っていた荒船が申し訳なさそうに軽く頭を下げる。この居酒屋へは荒船に誘われてやって来た。夕飯を食べ終え、風呂にでも入ろうとしたところで荒船から連絡が来たのだ。LINEを開いてみれば、「夜分遅くに失礼します」という畏まった挨拶に始まり、ボーダーの同期メンツ数名と居酒屋で飲んでいたこと。そこで珍しく水上が酔っ払ってしまったこと。出来れば生駒に迎えに来て欲しいこと。そんなことが実に丁寧な文章で居酒屋の位置情報と共に送られて来た。そんなわけで生駒は片道三十分、自分の家から歩いてこの繁華街にある居酒屋へと足を運んだのである。
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