(恋をしている) 「海を見に行きませんか」
巽の唐突な誘いにマヨイは一言目を失った。首をかじける姿に慌てて承諾の言葉を返せば、巽は安堵の色を浮かべてマヨイの手のひらに体温を重ねる。
何故あなたはすぐに私に触れるのでしょうか。視線を揺らしながらも、問いかけるために唇を震わせようともしなかった。視線を落とせば、巽の手のひらは未だに両手を温かく包み込んでいる。それじっと見つめていれば、どことなく額がむず痒い心地になる。
「あのぉ、逃げませんので……ですから、そろそろ手を離していただけませんか? 」
もはや口癖のような謝罪の言葉ののち、一度力を込められた手のひらはようやくその体温を離す。指先までもじんわりと温めたそれは、己が離されることを望んだはずなのに、自らの意思であの感触を忘れまいと掴み返しているようだ。そんなはずはない。頭を振る。わずかな振動で三つ編みから後れ毛が逃げ出せば、その毛先すらも彼はとらえた。指先ですっと撫でつけ、元いた毛束へと戻してやる。一瞬うなじに指の腹が触れると、マヨイは思わず顔を上げた。
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