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    七井の倉庫

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    七井の倉庫

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    七井の【使わないけど取っておく文章置き場】より発掘した、「咆哮、月下に鳴響き②」のボツ部分と、その部分の解説です。

    咆哮、月下に鳴響き②のボツ部分七井の【使わないけど取っておく文章置き場】より発掘しました。


    ーーーー


    「そう。なら、【Tomorrow】のアルト、今でも歌える?」
    「え、あっ、はい!」
     “動くな”と命じられた以上、松山はその場を離れることもできず、不安げな表情で立ち尽くす。 
     芝野は目を丸くしながらも、黙って事の成り行きを見守っていた。
     聡実はやがて芝野のデスク横で立ち止まり、松山と相対すると、何とか笑おうとして失敗した顔のまま、松山に指示した。
    「……歌ってみて。一番だけでいいから」
     ——今から!? 伴奏無しで!?
     しかし犬に拒否権はない。
     松山は息を深く吸うと、覚悟を決めて歌いだした。

     ——時の流れ いつでも——

     歌いながら松山はこの一週間の出来事を走馬灯のように思い出していた。
     推しの犬にしてもらったこと。
     素敵な犬小屋を与えられたこと。
     鷹島から聞いた話。
     芝野の事務所での手伝い。
     飼い主を不快にさせてしまったこと。
     ——三ヶ月も保たんかった……一週間で北海行きや……。
     この歌のアルトパートは、最初はソプラノパートと同じメロディだが、途中でアルトらしく音域が下が
    る。そのままサビまで、ソプラノを裏から支えるメロディが続く。しかし、明日に希望を持ち、明日を称える明るい歌詞も、今の松山にとっては葬送曲に等しかった。
     ——まさか合唱曲が地雷やったとは思わんかった……もっと苦手なもん、嫌いなもんを聞いとくべきやった……。俺のアホ……。鷹島のアニキがちゃんと言うてくれとったのに……。
     反省しながら、あっという間に一番を歌い終える。
     「上手やね。声もよう通る。……『運んできてくれるだろう』のところ、音が少し不安定やから、連続性を意識するように。おお、で切らんようにするんやで。そしたらもっと良ぉなるわ」
    「あ、ありがとうございます!?」
     ——なんや、成田先生、なんでこんな詳しいんや!?
     聡実に指摘された部分は、かつて合唱部の部長から指摘されたのと全く同じ部分だった。その上、アドバイスの内容まで酷似しており、松山の脳内は疑問符でいっぱいになった。 




    ーーーー


    【ボツ理由】
    聡実くんがこの時点で松山に歌唱指導するのはおかしいため。まだそこまでの関係ではない。狂児さんと三匹にしか歌唱指導しておらず、このあと咆哮4話でそのことについて松山が羨ましがる描写が入る予定。聡実くんにとって、歌うこと、そして歌唱指導は非常に特別な意味を持つ。禱るの時、聡実くんはただ一人のため、狂児さんのためにだけ歌ったが、彼はあの時点で狂児さんのためにしか歌うことができなくなっていて、そのために非常に葛藤している。かつては大勢と、皆で一緒に一つの歌を歌い上げることに喜びを感じていたはずが、たった一人のためにしか歌えなくなってしまった自分の”弱さ”について、松山の出現で向き合うことになってしまった。しかし、この五年間戦い続けてきた聡実くんは、既に自分の中にその答えを持っている。その最後のひと押しが郷間の件であり、咆哮4話の狂児の抱擁なのであった。その答えを、聡実くんは咆哮4話であの歌に託して歌う。

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    七井の倉庫

    MAIKING【天淵に響け、黎明の祝歌】第二話冒頭を公開しておきます。こんな感じで始まる予定です。
    天淵第二話冒頭(仮) サトミは昔から、かくれんぼが苦手だった。
     少年の周囲には、常に誰かが契約した精霊が控えていて、きらきらと、優しい光を放っていたからである。燃える鷹、白い虎、奇怪な土の猫に始まり、氷の蛇、岩の熊——そして、白く輝く鶴。様々な精霊が、契約者でもない小さな少年に付き従う様は、実に神秘的な光景であった。
     時には、精霊だけでなく、契約者本人が控えていることもあった。炎を操る魔術師、風より早く射抜く狙撃手、様々な薬草に精通する薬草師、常に冷え冷えとした冷気をまとう魔術師、岩のような剣闘士——そして、何よりも少年を大事にする、あらゆる武器を使いこなす剣士。
     彼らは、あの大嘯穢にも動じず楯ノ森を守り抜いた、誇り高き傭兵団・祭林組の組員たちであった。彼らは大嘯穢から町を守った後も、残った魔獣退治や魔獣の屍の処理、西の森で発生した瘴気の封印などの危険な仕事から、次の大嘯穢に備えての兵の訓練、防壁の強化、隣町までの護衛など、楯ノ森の町のために多岐にわたる仕事を引き受け、一つ一つ解決していった。やがてサトミが五つになる頃には、彼らは町の一角に拠点となる”祭林組本部”を構え、すっかり楯ノ森の一員として認められるまでになっていた。組員の中には、町のものと結婚し、子をもうける者までいた。彼らはいまだに傭兵団を名乗っていたが、今となっては傭兵団というより”町の便利屋集団”と言った方が相応しくなっていた。
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