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    七井の倉庫

    七井が書いたやつとか、下書きを入れておくところ

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    七井の【使わないけど取っておく文章置き場】より発掘した、「歌声、暁闇に祝ぐ ⑥」のボツ部分と、その部分の解説です。

    歌声、暁闇に祝ぐ⑥のボツ部分七井の【使わないけど取っておく文章置き場】より発掘しました。


    ーーーー


    「カシラホサ、割とあっさり許可くれましたね……」
     出来上がっていく表を見ながら、那須原がぽつりと零す。
    「僕もっとめちゃくちゃ言われると思てました……」
     鷹島は苦笑した。
    「そら、アレ見てあの報告書見てあの報告聞いたらなぁ……」
     鷹島は、明るい春の空を見上げながら、今朝の出来事を思い返した。



     朝方、ようやく連絡がついた狂児は、この世の終わりのような顔で、数カ月で綺麗に消えたはずの隈を復活させていた。
     表計算の結果がまったく合わないと思ったら、どうも改竄されているらしいことが分かり、計算しなおしたところ、他も含めて何だかとんでもないことになってきたらしい。どのぐらいとんでもないかと言うと、出張が三日で終わらないぐらいとんでもないということだった。

     つまり、今日中には東京に戻ってこられないことが、この時東京残留組に知らされたのである。

     聡実は意外に静かだった。
     
     あれ、なんや落ち着いとるな、と聡実の顔を横から盗み見た鷹島は内心頭を抱えた——視線は彷徨い、唇は震え、顔面は蒼白……あからさまに落ち込んでいる。
    【なんでこんなことになったんやろな……】
    「ホンマにごめんなさい……全てにおいて僕が悪いんです……」
    【いやいやこっちのあれこれは聡実くん悪ないからね?】
    「そっちのは悪ぅなくてもこっちのは僕が……いやそっちのも僕が……」
     那須原のタブレット越しに話しながら、しおしおと萎れる聡実と狂児。
     昨日から今日にかけての聡実のやらかしの数々についての報告書と、その証拠となる監視カメラの映像は、既に狂児も確認済とのことであった。若頭補佐の心労は如何ばかりか、と鷹島は思う。
     しかし、ここで遠慮していてはマンション爆発の危機である。これを好機とみた犬たちは、狂児に今後の指針を求めつつも、聡実と日中の行動を共にする——つまり602号で生活する許可を願い出た。
     ほんの少しの間、狂児はその案に拒否反応を示したが、犬たちが数々の資料を提示しながら必死に――特に鷹島がそれはもう必死に訴えたところ、渋々認めざるを得なかった。あまりにも落ち込んだ聡実の表情と、粉々になった電子レンジの死亡現場写真が効いた。幾つかの条件——寝室には犬は絶対に入らない、犬は寝る時は601号で、など——は出たが、概ね犬たちが希望した形で許可が下りたのであった。
    【俺が東京に戻るまでの間だけやからな……】
    「ちなみにあと何日ぐらいかかりそうですか?」
     那須原の、空気を完全に無視した直球過ぎる質問に、狂児は苛立ちを一切隠さずに答えた。
    【三十一日には絶対に戻る!!!】
     この時、602号にいる全員が思った。
     
     ――あ、これ、戻ってこれんやつや。

     そんなわけで、三匹の家事当番に聡実も加わることになったのだった。
     今の所、組で所有している物件の中で、一番セキュリティがマシで、隣接する部屋があるのがこのマンションだけしかないということで、もう二、三日だけなんとかここで踏ん張ることになったのだった。
    「新しい部屋住みが来たみたいでおもろいな!」
     と扇谷が言うと、珍しく那須原も頷いた。
    「岡くんもいきなりこんなことになってアレや思いますけど、あんま気ぃ張らんとやってきましょか」
     通話が終わってからも暗い顔だった聡実が、二匹の言葉にぎこちなく微笑む。
    「が、合宿みたいで、楽しそうな気がします」
    「そうそうその意気やで! ほな早速シフトキメよ!」
    「僕ら、料理とか掃除とか誰がやるか先に決めとくんですよ。そうでないと誰もやらんので……」
    「あー……」
    「どんなめちゃくちゃでも気にせえへんのばっかりやでな、適当でええねん適当で」
    「いやあんたは適当すぎですからね!? ゴミの分別ぐらいきちんとやってくださいよ!」
     きゃんきゃんわんわん言い合う二匹に聡実が苦笑しているのを確認し、鷹島は「ちょっと601行ってくる、使うもん取ってくるわ」と言い残して602号を出た。
     エレベーターホールに出て後ろ手にドアを閉めると、すぐさまスマートフォンで富士野の番号に掛けながら、懐の鍵で603号のドアを開けて中へ滑り込む。
     暗い玄関でドアスコープを覗き、エレベーターホールを見ながら応答を待つ。
     電話に出たのは、狂児だった。
     なんの前置きもなく会話が始まる。
    【聡実にはああ言うたけどな、移動の準備しとけ】
    「勿論です。移動先は?」
    【三鷹】
    「了解です」
     聡実には、昨日の不審者と深夜の不審車については一切知らせていない。このことを知っているのは、三匹の犬と、若頭補佐のみである。
     証拠も何もない憶測で、いたずらに聡実を不安がらせる必要はないだろうというのが鷹島の判断であり、犬たちの総意であった。
    「……そっち、大丈夫ですか?」
    【……ハァ……】
     重々しいため息が、スマートフォン越しに鷹島の肩にのしかかる。
    【なんも大丈夫ちゃうわボケ……最悪や……】
     若頭補佐らしからぬ、キレの悪い返しに鷹島は首を捻った。
    「……何ぞあったんですか」
    【こん忙しいのにオヤジが腰いわしよった】
     鷹島は笑わなかった。昨日"笑ってはいけない602号"を笑わずに乗り越えた男は、この程度で心を動かされはしなかった。
    「それはキツイですね……てか組長、腰いわすんクセなっとりますやん……」
    【小林のアニキがフォローしてんねんけど手ぇ足りん言うて俺に仕事回してきよんねん……俺も手ぇ足りんのに……】
    「富士野さんは?」
    【富士野は今朝唐田さんと出てったきり帰ってこん……死んだかもしれん……】
     冗談のキレまでガタガタの若頭補佐に、鷹島は同情を禁じ得なかった。



    ————
    【ボツ理由】
    歌声シリーズは聡実くんの視点がメインの物語なので、聡実くんが知り得ない情報を冗長に続けるのもどうかと思ったため。しかしあとから見返すと、これ本編に入れても全然良かったな……。
    もしかしたら後でおまけとかに入れるかもしれない。
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    七井の倉庫

    MAIKING【天淵に響け、黎明の祝歌】第二話冒頭を公開しておきます。こんな感じで始まる予定です。
    天淵第二話冒頭(仮) サトミは昔から、かくれんぼが苦手だった。
     少年の周囲には、常に誰かが契約した精霊が控えていて、きらきらと、優しい光を放っていたからである。燃える鷹、白い虎、奇怪な土の猫に始まり、氷の蛇、岩の熊——そして、白く輝く鶴。様々な精霊が、契約者でもない小さな少年に付き従う様は、実に神秘的な光景であった。
     時には、精霊だけでなく、契約者本人が控えていることもあった。炎を操る魔術師、風より早く射抜く狙撃手、様々な薬草に精通する薬草師、常に冷え冷えとした冷気をまとう魔術師、岩のような剣闘士——そして、何よりも少年を大事にする、あらゆる武器を使いこなす剣士。
     彼らは、あの大嘯穢にも動じず楯ノ森を守り抜いた、誇り高き傭兵団・祭林組の組員たちであった。彼らは大嘯穢から町を守った後も、残った魔獣退治や魔獣の屍の処理、西の森で発生した瘴気の封印などの危険な仕事から、次の大嘯穢に備えての兵の訓練、防壁の強化、隣町までの護衛など、楯ノ森の町のために多岐にわたる仕事を引き受け、一つ一つ解決していった。やがてサトミが五つになる頃には、彼らは町の一角に拠点となる”祭林組本部”を構え、すっかり楯ノ森の一員として認められるまでになっていた。組員の中には、町のものと結婚し、子をもうける者までいた。彼らはいまだに傭兵団を名乗っていたが、今となっては傭兵団というより”町の便利屋集団”と言った方が相応しくなっていた。
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