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    七井の倉庫

    七井が書いたやつとか、下書きを入れておくところ

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    七井の倉庫

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    Blueskyに投稿している短い話をまとめて置いています。いずれ本編に組み込むかもしれません。

    Blueskyの短い話まとめ浜名湖騒動その後

    「…富士野さん、やっぱ今からでも指示役交代しません?」
    「お、どうした鷹島ぁ。落ち込んどるなあ」
    「そら落ち込みますよ…岡くんにあんな怪我させてもうて…」
    「…確かにアレは失態やったな、ホサにあの場で殴り殺されてもおかしぃなかった」
    「…怪我させた本人に庇ってもろて…俺ホンマ情けのうて…」
    「そう思うんやったら、指示役交代しとる場合とちゃうな」
    「え、でも俺は…」
    「今回は確かにお前の采配が悪かった。ただ、お前はまだ若い。失敗から学ぶことも仰山ある。そこからどう成長するかが大切や。同じ失敗をせんためにはどうしたらええか、よお考えよ。ホサはそれを期待しとる」
    「期待やなんてそんなん…っ」
    「クビにされんかったやろ」
    「あ、」
    「ホサは必要ないもんさっさと捨ててまうやろぉ? せやけどお前ンことクビにせんかったよなぁ。岡くんがナンボ頼んだかて、お前をクビにするて決めたら揺るがへんよ。アレから何か言われたか?」
    「…なんも…フツーに次の日の予定の確認とか、新しいカメラの調子とか聞かれました…」
    「はっは! 良かったな、鷹島。ホサはお前ンこと、ちゃーんと信頼しとるで!」
    「…はい…」
    「大丈夫や、失敗したことないやつは弱いからなぁ。ほんで俺が見る限り、お前はだいぶ強いぞぉ」
    「…それ俺が沢山失敗しとるてことですか!?」
    「はっはっは!」

    ーーーーーーーーーー

    四宮アニキの華麗なる躾

    「四宮さん! この前のアレ! 嘘やないですか!」
    「…どれや」
    「ど、どれて、待ってください、ひとつに絞れんほど僕のこと騙しとるんですか!?」
    「俺は嘘は言わへんぞ。お前が知識不足で勘違いしとるだけや」
    「それ騙してるていうんちゃいますか!?」
    「ええから行くで、今日も外回りや」
    「もう、今日は嘘つかんといてくださいよ!?」
    「くく……それはお前次第やなぁ」
    「騙す気満々やないですか!」
    「言うたやろ。俺は嘘は言わん。悔しかったらもっと学べ。見て、聞いて、考えろ。…八幡、お前はカシコや。その頭をどう使うか、いつ使うか、よお考えろよ。…行くぞ」
    「…はい」

    ーーーーーーーーーー

    出られない部屋

    「な、なんですかここ!? 僕らさっきまでおうちでハナシアイしてましたよね!?」
    「…なんや一瞬で場所が変わったな…? 見覚えあるやつおるかぁ?」
    「俺は見たことないですね…こんな白い壁しかない部屋……てか、ドアもないし…」
    「オレもこんなとこ知らね…
    あ、あそこ、なんか書いてある」

    飼い犬たちは養命酒に含まれている14種類の生薬を全部言わないと出られない部屋に入れられました

    #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/960195

    「養命酒に含まれている14種類の生薬ぅ!? なんやそれ!?」
    「僕飲んだことすらないんですけど!?」
    「オレも養命酒は守備範囲外や…ん? おいフジ、お前養命酒飲んだことあるんちゃうん!?」
    「…あるなあ、飲んだこと…」
    「さすが富士野さん、ほんで生薬は何が!?」
    「…鬱金、桂皮、丁子、人参、芍薬…」
    「すごい、よぉ覚えてはりますね…」
    「…」
    「あ、あれ? フジ?」
    「…」
    「あっ…」
    「ああ…」
    「すまん! あとは覚えとらん! オジサン役立たずでスマン!!」
    「いや…そんだけ覚えてるんでも充分すごいですよ……」
    「ほなあと九個、オレたちで頑張ってひねり出してみるかぁ……」

    「どぅおらあああ!!」
    「ひぃ!?」
    「アカン、体当たりでもびくともせんわ…なんやこの壁どないなっとんねん何製やねん腹立つわあ…」
    「ナイフもあかんかったしナンボしばいても無傷やし、クソ、どうやったら出られんねん!」
    「鷹島さんたちで無理やったら壁壊して脱出は無理そうですよね…」
    「オレは諦めへんで! 絶対脱出してこんなところに閉じこめた奴をボコすんや!」
    「早よ出な、ホサと岡くんに何かされとったら…」
    「向こうも閉じ込められとるかもしれんな」
    「二人一緒やったらまだええんですけどね…クソ、〜腹立つ!!」
    「鷹島さんだいぶキてますね…」
    「そらなあ…ずっと閉じ込められとるもんな
    あ…」

    「はあ…もう何時間考えとるんやろ…」
    「一晩は経ったんちゃうかぁ…時計も動かんしスマホもおかしなっとるから分からんけど…ああ〜生薬、分からんなあ…」
    「あの五種類以降、わかったん杜仲だけでしたもんね…分かんないですよ生薬なんて…使わへんもん…」
    「ヒントくれんかなあ、正誤判定しとるやつがおるんやろ何処かに…ヒントよこせやあ!」
    「ひぃええ」
    「三人で順番に体当たりや!」
    「よっしゃ行くでぇ!」
    「ぬおおおお!」
    「アカン、三人とも頭おかしなっとる…僕が何とかするしか…ん? 字が変わっとる…?」

    飼い犬たちはリングフィットアドベンチャーを全ステージクリアしないと出られない部屋に入れられました

    #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/960195

    「これなら出られる!」
    喜ぶ那須原はまだ気づいていない。"全員が"全ステージクリアしなければ出られないのだということに……。
    余裕の扇谷、ちょっと疲れた富士野、まあまあ大変だった鷹島、そして——。
    「し…死ぬ…あ…足が上が…らへ…ん」
    「頑張れナス! ジム通いの成果見せていこうや!」
    「お前がクリアせな出られへんねん! 頑張れ! あと少しや!」
    「無理はしたらアカンけどはよ出んとあかんからなあ、頑張ってくれぇ…」
    「ぼ…僕…僕はやれる…やる…やってみせ…ヴッ」
    「ナスうううう!!」
    「那須原ぁぁ!!」
    頑張れ那須原、クリアまでまだあと半分! 果たして四人は脱出できるのか!?

    一方……

    狂児と聡実は擬音のみで会話してお菓子の家を完成させないと出られない部屋に入れられました

    #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/960195

    「お疲れ様です…」
    「出口もなんもない…壁はなんぼ蹴っても殴っても傷一つつかん…もうやるしかないんか…」
    「手、大丈夫ですか?」
    「こんぐらいヘーキやで、心配してくれてありがとう♡」
    「……ええからやりますよ! 材料とか、並べておきましたから」
    「ん、ほな始めよか。行くで〜…」
    「ピッ! ピッピッピッ」
    「ブフゥーーーッッ」
    「チョキッ、ニュー、ペタ」
    「フォオーーーン」
    「フォーン?」
    「オフッオフッオフッフハハハハアカン!!ちょお待って!!」
    ブブーッ
    「あーっ!?あかんやないですか!」
    「アカン無理、無理やて、可愛いすぎんねん!!」
    「は、ハァ!? 何がですか!?」

    「ほんまゴメン、なんでピッピッ言うたんだけ教えてくれん?」
    「ゆ、指差し確認ですよ! 説明書の! 指差しの擬音はピッですよね!?」
    「あっなるほどぉ〜! ヒヨコか思てん」
    「こんな時にヒヨコの鳴き真似なんかしませんよ!」
    「せやんなぁ、ホンマにゴメン😂」
    「まだ最初の方やから良かったですけど、次から気をつけてくださいね」
    「ハイ、分かりました」
    「じゃあもう一度始めますから、絶対笑わんと真面目にやってください。ほな、行きますよ! ピッ、ピッピッピ」
    「ブフゥーーーッッ」
    「ポカ! ボカ!」
    「キューン、キューン」
    「ムカァーーーッ!」
    「ワン! ワオン!」
    「なんで犬やねん!!」
     ブブーッ

    どうにか同じ部屋に集まることができた一同は、互いの無事を喜び合う。なおミくんは大きなお菓子の家を大事に抱えており、那須原は部屋の隅に転がされている(つつくと裏声で泣く)。しかしその部屋も真っ白で、壁には窓も扉もない。鷹島は部屋の壁にまたしても文言が書かれているのを発見する――
    「セリフでしりとりしながら時代劇風寸劇をしないと出られない部屋…!?」

    一同はセリフでしりとりしながら時代劇風寸劇をしないと出られない部屋に入れられました

    #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/960195

    ーーーーーーーーーー

    特訓する聡実くん

    奈落のミくん、火恐怖症の克服のために、暗闇の中ライターに火を灯してじっと見つめるという特訓(ルビ:暴挙)に出るの巻 最初は一番小さい火から始めて、段々大きくしていき、中くらいまで到達 冷や汗ダラッダラにかいて呼吸おかしくしかけながら必死に特訓 なぜならみんな喫煙者なので、ライターと煙草の火に耐えられないと仕事にならないから
    特訓はバレないようにトイレでやってる ある日🚬はミくんがライターを隠し持っていることにとうとう気付く 仕事で遅くなるフリをしてこっそり帰宅するとトイレでごそごそやってる
     準備にしては様子がおかしいので解錠すると中でライターを握りしめて大汗かいて吐いてるミくん そこから怒涛のお叱りと説教と心配で特訓は中止 ところが塔龍会事件で塔龍会に潜り込む時、この特訓が活きるのであった メモメモ

    ーーーーーーーーーー

    情報部八幡の新人時代

    抜けてる上司(仕事はとてもできる、部下思いで面倒見よし、戦闘力あり、オンオフの切り替えきっちり、上への忠誠心高し)と、その部下(戦闘力バリ高、身体能力バリ高、頭の回転早い、部下思い、野球好き)と、さらにその部下(体力あり、素直、ナチュラルサイコ気味、情報部のホープ)が三人揃って交渉先で囲まれて人質にされそうになってるって連絡が入ったけど、若頭は🚬に「先に焼肉屋行っとるわ、お疲れさん」言うてさっさと帰った回の話する?

    「なんや囲まれましたけど、土下座大会でも始まるんですか?」
     八幡はきょとんとした顔で四宮に耳打ちした。どうも、本気でそう思っているようだった。
    「大会…」
     ぶっ、と小林が吹き出す。四宮は真顔で八幡の疑問に答えた。
    「まあ、似たようなもんや」
    「あ、やっぱり! そや思いました。やって、こン人ら非戦闘員ですよね? ようけ出てきて何するんやろと思て…」
    「非戦闘員…!」
     小林はソファーの上でガクガク震えだした。
    「交渉がうまく行かんかったから、皆で土下座して僕らに許してもらおとしとるてことで合うてます?」
    「大体合っとるわ」
     四宮の返事に、八幡は神妙な顔で頷いた。
    「交渉て大変ですね」

    ーーーーーーーーーー

    歌声、奈落はすぐそこに

     遠く遠く、奈落の底が白く光る。僕は知っている。あれは光ではなく、燃え盛る炎、煮え滾る大地だということを。僕の恐れる黒い火とは対極にある、清浄で平等な、美しい白光だった。あの場所に辿り着けたら、僕の穢れた体は清められ、全てを忘れてこの苦しみからも逃れられるのだろうと思った。
     虚無の縁から足を踏み出す。
     足元の地面が消え失せ、僕の体は前のめりに暗い闇の中へ——
    「あかん!」
     誰かが僕の腕を掴む。
     僕の体は力強く引き戻され、誰かの腕の中に、強く、強く、抱きしめられる。
     誰?
     あんまり強く抱きしめられて、顔が上げられない。
     でも、横目に、その腕が見えた。
     ——僕の名前が書いてあった。
     僕の名前が書いてあるということは、この男は僕のものらしい。でも、僕が書いた覚えはないから、誰かが僕がこの男を失くした時のために書いておいてくれたのかもしれなかった。
    「行ったらあかん!」
     男は叫んだ。うるさかった。
    「行かんといて、頼むから、置いて行かんとって……」
     その声があんまり必死で、ぎゅうぎゅうと締め付ける腕が苦しくて、僕は思わず笑ってしまった。
     僕なんかをそんなに必死に引き止めて、きっとこの男は何も知らないに違いなかった。だって僕は汚い、汚い、汚い、こんなにも汚くて、それにもう歌だって歌えなくなってしまったのだ。
     教えてあげれば、離してくれる——逃げていくだろう。
     僕はくすくす笑いながら、男に、僕の身に起きたことを一つずつ教えてあげた。
     黒い火の悪魔と、たくさんの蛇。噛まれ、嬲られ、呪われて、体の中も外も呪いで穢されて、喉は枯れ、愛する人がくれた指輪も奪われて、僕はもうどうしようもない、汚いものになってしまったのだと、それはそれは丁寧に教えてあげた。
     これで男は僕を離してくれるだろう。そうしたら、僕はこの穴の底まで行く。白い火に身を浸し、何もかも忘れて一握の灰となり、風に乗って消えてしまえる。
     けれど、男は僕を離さなかった。
     困惑した僕はどうにか上を向いた。
     ——雨?
     顔に当たる、冷たい雫。
     雨ではなかった。
     男が、泣いていた。
     唇を噛み締め、顔を真っ赤にして、ぼたぼたと涙をこぼし、あと鼻水も垂らしながら震えていた男は、僕を抱きしめたまま座り込み、恥も外聞もなく、大声で泣いた。
     僕は男が離してくれないので、もう一度言った。
    「呪いがうつるよ、汚いよ」
     男は言った。
    「それが何?」
     怒っていた。
    「僕もう歌えへんよ」
    「…それは寂しいな」
     悲しんでいた。
    「指輪もとられてしもたんよ」
    「必ず取り戻す」
     強い言葉だった。
     男はどうあっても僕を離さないつもりのようだった。僕のものにしては、言うことを聞かないので、僕はため息をついた。
     息を吐いた分、吸い込む。
     煙草と香水。
     その奥にある、男自身の匂い。
     この匂いを、僕は知っている。静かで、暗くて、ひんやりとした、世界で一番安心する場所の匂いだった。
     ああ、でも、僕はもうこの場所にいる資格がない。
     愛する人が褒めてくれたもの全て、僕は失くしてしまったのだから。
     声。手足。体。指輪。こころ。
     全部あの悪魔たちが取っていってしまった。
     男のひんやりとした手が、震えながら、僕の頬を撫でて、挟み込む。
    「あるよ」
     見つめ合った男の真っ黒な目は鏡のように、僕を映す。
    「ここに、ある」
     男の目の中に、金色に光るものが見えた。
     微かに瞬く小さな光。
     ふ、と男が泣きながら微笑む。
    「一番大事なもの、ここにあるよ」
      ああ、そういえば、名前が書いてあったんや。僕の名前。大事なもんには名前を書いておくんやで、て誰かが言うてた。でもあれは僕が書いたんやない。持ち物の方が勝手に、しかも僕やない人に僕の名前を書いてもらって来たんや。なんちゅう厚かましさや。そんなことで僕の大事なもんになろうとするやなんて、図々しいわ。そうや、せやから僕はその名前を消したろうと思て、たくさんお金貯めたんや。いっぱい悩んで、こんなもん、僕の大事なもんとちゃうし、勝手でアホでヤクザで歌がヘタで、そんなもん僕は、三年も放ったらかして、そんなもんは、僕は、空港、東京、あの冬、僕は、僕の、一番大事なものには、僕の名前が書いてある。

    ーーーーーーーーーー

    暴食の悪魔

    「…富士野さん、ひとつ聞いてもいいすか」
     あの後、辻本医師に滅法叱られた鷹島と富士野は、一旦鷹島の病室に戻っていた。強制的にベッドに臥床させられた鷹島は、看護師たちが部屋を出ていくと、ぽつりと富士野に問いかけた。
    「お、なんや?」
     看護師さんて怒るとホンマ怖いなあ、などと笑っていた富士野は気の抜けた声で返す。
     しかし鷹島は、眉を寄せ、恐る恐る続けた。
    「……先生、指輪、どうしたんですか」
     富士野は黙った。
     それが答えのようなものだった。
     鷹島は、ぎりぎりと歯を食いしばった。
     しかし富士野の言葉は、鷹島の想像する最悪を軽々と上回った。
    「先生は、悪魔に食べられてしもた、て」
    「…は?」
     鷹島は上体を浮かしかけたが、富士野がそれを阻んだ。
    「…先生な、魘されて暴れるて若頭言うとったやろ。そン時にな…」
    「あ…悪魔…?」
     富士野は深くため息をついた。
    「先生が魘されとる時に言うとることから推測するに、…扇谷のことみたいやわ」
    「扇谷が…?」
     確かに悪魔のような所業だったが、まさか聡実の悪夢の中で本当に悪魔になってしまっているとは。…いや、あまりに辛い現実をなんとか受け入れるために、そうやって自分で納得できる形にしているのかもしれない、と鷹島は哀しく思う。
     いや、ちょっと待て。
    「悪魔が…食べてしもた…?」
     富士野は頷いた。
    「扇谷が、飲んでしもたんや…」

    ーーーーーーーーーー

    ケルベロスの慚悔 ① プロトタイプ

    富士野は空っぽの男ではない。富士野の世界の真ん中には、妻子との暖かい思い出が、優しくまあるく浮かんでいる。あの日の炎は、時々富士野の体をちりちりと焼きはするが、思い出を眺めているうちに、自然と落ち着くのである。思い出は、太陽のように道を照らす。富士野が往く道——茨に覆われ、瓦礫が積み重なる険しい道も、暖かく照らしてくれる。ところでこの思い出の中には南条もいて、時々道を教えてくれる。ある日、その声に従って歩いていくと、見目の良い、しかし腹の中に巨大な虚無のある男と出会った。男の虚無は、富士野の中の思い出で照らしても、まるで底が見えなかった。虚無の男は、富士野より少しばかり若く、しかし少しばかり長く南条の下で働いていた。所属する部所は違ったが、年が近いので、色々な機会に接することがあった。飲み会、お遣い、現場仕事などである。虚無の男は何があってもへらへらとして、虚無を隠そうともしていなかったが、それに気づいているのはごく僅かな者たちだけだった。なまじ顔がいいので、誘蛾灯のように様々なものを惹き付けては、虚無の中に吸い込んでいった。富士野も、思い出がなければ、吸い込まれて二度と這い上がれなくなっていただろうと思った。しかし虚無の男と富士野は、意外にも相性は悪くなかった。単純に、一緒に過ごす時間が長かったのと、富士野が男の虚無に吸い込まれなかったというだけのことだったのかもしれないが、富士野は男に意見することもできたし、男は富士野に愚痴を言うことができる程度には親しい間柄になっていった。その頃には、男は虚無を隠すことを覚えていたが、それを覗き見た者は、相変わらず吸い込まれて二度と戻らなかった。扇谷、鷹島が組に入ってきたのもその頃だった。扇谷は底抜けに明るく、誰とでも上手くやれるタイプの男だった。鷹島は飄々としていたが、どうやら虚無に気付いているようだったので、富士野は静観することにした。
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    七井の倉庫

    MAIKING【天淵に響け、黎明の祝歌】第二話冒頭を公開しておきます。こんな感じで始まる予定です。
    天淵第二話冒頭(仮) サトミは昔から、かくれんぼが苦手だった。
     少年の周囲には、常に誰かが契約した精霊が控えていて、きらきらと、優しい光を放っていたからである。燃える鷹、白い虎、奇怪な土の猫に始まり、氷の蛇、岩の熊——そして、白く輝く鶴。様々な精霊が、契約者でもない小さな少年に付き従う様は、実に神秘的な光景であった。
     時には、精霊だけでなく、契約者本人が控えていることもあった。炎を操る魔術師、風より早く射抜く狙撃手、様々な薬草に精通する薬草師、常に冷え冷えとした冷気をまとう魔術師、岩のような剣闘士——そして、何よりも少年を大事にする、あらゆる武器を使いこなす剣士。
     彼らは、あの大嘯穢にも動じず楯ノ森を守り抜いた、誇り高き傭兵団・祭林組の組員たちであった。彼らは大嘯穢から町を守った後も、残った魔獣退治や魔獣の屍の処理、西の森で発生した瘴気の封印などの危険な仕事から、次の大嘯穢に備えての兵の訓練、防壁の強化、隣町までの護衛など、楯ノ森の町のために多岐にわたる仕事を引き受け、一つ一つ解決していった。やがてサトミが五つになる頃には、彼らは町の一角に拠点となる”祭林組本部”を構え、すっかり楯ノ森の一員として認められるまでになっていた。組員の中には、町のものと結婚し、子をもうける者までいた。彼らはいまだに傭兵団を名乗っていたが、今となっては傭兵団というより”町の便利屋集団”と言った方が相応しくなっていた。
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