ライオスにお近づきになりたいカブルーなみなみとエールの注がれたカップがをずい、と目の前に突き出されて我に返る。
「なあカブルー呑まないのか?」
「まーたその辺の女にでも愛想振り撒いてるんじゃない?」
カップをカブルーへ突き出したまま怪訝そうなミックベルの横で不機嫌そうに髪を払うリンの横顔を見て
「ごめん、ボーッとしてつい癖で人の流れを見てたみたいだ」
慌ててカップを受け取りリンへ微笑み掛ける。
「ちょっと疲れてるのかな…ごめんね」
リンに向かって少し上目遣いに、目を合わせる。
少しも変わらない表情の彼女の中で心臓が少し跳ねたのが手に取るようにわかる。
「ありがとう」
ダメ押しで耳元に囁き、何か言おうとこっちを向いたリンへ向かってにっこり微笑んだ。
彼女はため息をついて無言で手元の飲み物を一気飲みし出す。
(ーーこれで安心かな。)
明日からまた"迷宮"へ潜るのだから今また色々こじらされたら面倒だ。
二人のやりとりの様子を伺いつつテーブルの料理を好きにつついていた他のメンバーはいつもどおりカブルーが勝ったのを見届けてやれやれと肩をすくめている。カブルーはそちらにもウインクして、変に口を出してこない彼らへの謝意を伝えた。
ここは"彼ら"のパーティがいつも訪れている酒場。
事前に得た情報によれば今日は"彼らーートーデン兄妹"もここに来る可能性が高いらしい。
ここ数ヶ月、すれ違いで姿を見かけてはいなかったが噂は仕入れていたので自分の裡にむくむくと湧いてきた「直接接触してみたい」欲が抑えられなくなったのだ。
そもそも彼らに興味を持ってこんなに時間が経っているのに今だに声を掛けた事がない。
何を遠回りしているのかーーいや、とっておきにしているというべきか。
いつもの自分なら興味を持った人物はすぐ接触するのに、何故なのか。
初めてトーデン兄妹を見た時の事を思い出し自分への疑問を分析しようとして、カブルーは目を瞑る。
目。
そう、"彼"の目が。
スッとした鼻筋と輪郭。
清潔に短く刈られた髪。
深い泉のように低音の色を湛えた目。
一瞬でわかった。
(人に慈善のお金をあげているとかの)彼にまつわる話しはきっとどうしてそうしたのか、それは回りが思っているような理由とはきっと違う。
きっと、いや間違いなく。
ーー彼は誰にも興味がない。
もしかして同類の人間かな?から強く興味を惹かれる。
話してみたい。彼の瞳の冷たさに強烈に惹かれる。
次の瞬間、(カブルーくん衝撃)
傍らの妹に柔らかく優しく、慈しむように微笑む。
次の瞬間にはくるくるといたずらっ子のように瞳を輝かせて妹を撫でる。
心から幸せそうに微笑むファリン。
強烈な感情がお腹のそこでフツフツする。(羨ましさ、嫉妬?自覚なし)
どうしても近づいてみたい、ライオスへの興味。(自覚なし)
実際近づいた時
精一杯いい人ぶって近づいてみる
ライオスは温度のない瞳のまま、カブルーに興味なし。ほぼすれ違いで接触終わり。
さらに強い感情。意識させたい、振り向かせたいカブルーくんの壮大な遠回りの戦いがはじまる…!