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    カピ(あね)が掘った墓穴

    @kapitan_rgg

    Twitter(現X)での妄言妄想の永代供養塔です
    成仏!!

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    POIPOI 47

    ハンとハンの小話 featuring 春日一番

    ちゃんと起きられてえらい!!

    #ハンハン
    frequently

    さあ、起きて 目の前に白い壁が広がっている。良く知っているコンクリートの壁ではない。一体これは何なのかと右手を伸ばすと、腕に重力を感じた。どうやら自分は横になっているらしい。ゆっくり右腕を下ろせば手のひらに布が触れた。数度瞬きをして首を動かせば、細やかな衣擦れとなめらかな感触が肌をくすぐる。どうやら寝室のベッドに寝かされているらしい。良く知ったシルク混の質感と懐かしい香りに瞼が半分下りてきた。
    「おはようヨンス。よく眠っていたようだね」
     自分の声が鼓膜を震わせ、脳がざわめき揺らめく。自分の喉以外から耳に届くはずのない声が頭の上から降ってきた。目線だけをやると、ハン・ジュンギが私の顔をのぞいていた。
    「おや、まだ寝ぼけているのかな。昨日は大変だったようだね」
     ハン・ジュンギは笑っている。そうここはアジトの私の部屋だ。頭目は、どうしても行かないとならない仕事が、約束があって、私はハン・ジュンギだからスターダストを空けるわけにはいかないのだ。私はここで頭目の帰りを待っていた、と思う。普段であればアジトに戻る前に連絡があるはずだ。
     どうして頭目が帰ってくるまで気が付かなかったのか、どうして寝入ってしまったのか。寝ぼけた頭ではうまく思い出せない。
    「なんてね。まだ2時を回ったところですよヨンス。でも少し遅くなってしまった」
     逆さまにみる自分の顔はとても穏やかだった。起き抜けでふわふわした頭が、この現実味のない状況はは些細なことだとささやく。頭目の顔を見るのはいつぶりだろうか。
    「何を言っているんだ。毎日鏡で見ているだろう」
     そうそう、毎日鏡で見ている。だから良く知っている。ほくろの位置も髪の色も化粧の仕方も何もかも良く知っている。
    「ほら、いいから早く起きなさい。早く戻らないといけないんだろう?」
     ハン・ジュンギの顔が遠のいた。白い天井とお気に入りのシーツに紅茶の香り。それらに潮の香りが混ざっている。私は海風はあまり好きじゃない。髪が傷む。
    「そうなのかい?ヨンスは川や海が好きだと言っていただろう。———ああそうか、遘√′繧ェ繝弱Α繝√〒豁サ繧薙□縺ィ閨槭>縺ヲ闍ヲ謇九↓縺ェ縺」縺溘°」
     
     ごうごうと機械の音がする。船着き場と書かれたアーチの奥に小舟がみえた。私はハン・ジュンギに腕を引かれるままに小舟に乗った。暖かい風は凪いでいて、星が見えた。それはいくつも瞬いていて、眺めていると心がざわつく。
    「瞬きが美しいですね、ヨンス」
     兄の口元がほころんでいる。ハン・ジュンギはあの瞬きが好きだ。
    「はい、頭目」
    「それでは、送りましょう。皆が待っています」
    「はい、頭目」
     トクトクと独特の音を鳴らしながら小舟が進む。少しずつ靄が浮き出てきて、視界が霞んでいった。この海で、この船が座礁しやしないか心配する意味などないと、操舵輪を握っているハン・ジュンギは微笑んだ。
     靄が晴れた方向に黒く大きな壁が見える。壁に沿ってハン・ジュンギが器用に小舟を進めると、金属の塊のようなそれが私の視界を埋めた。その朽ちて潮で錆びた鐵の壁からかなり遠のいていってようやく、おぼろげな輪郭を捉えられる。自分の知識と照らし合わせたその形は、船であった。
    「頭目、あれは船ですか?」
     私の問いかけに「うん?」とハン・ジュンギが黒い空を見上げた。
    「あぁ、船だね。まさか、ここで見ることになるとは思わなかった」
    「頭目がそうおっしゃるという事は、あの船は珍しいものなのでしょうか」
    「まぁ、そうだね。私としては少々複雑な気持ちだが、あれが蟆セ驕薙 遘伜ッ ですよ」
     ハン・ジュンギが眉を寄せて笑っている。あなたが笑っているのなら、きっとあれは良いものなのだろう。

     小舟は暗い海を進んでいる。星の瞬きはずっと変わらずそこにあり、ふたつの時もあれば、もっと多い時もあった。彼らはいつも優しく瞬いて、私を見てくれる。
    「そうだね、ヨンス。あなたのことを皆、待っています」
    「それは当然でしょう。私はハン・ジュンギなのですから」
     操舵輪を握る兄は、声を上げて笑った。
    「違いますよヨンス。あなただからです」
    「そうなのですか?」
    「そうなのですよ。私もそうですから」
     そうなのか、と頭上の星を眺める。ひとつ、ふたつ、みつよつ。今日はよっつの星が瞬いている。手を伸ばすと、星に手が届いた気がした。
     朝もやが明けて、見慣れた建物が目に入る。ハン・ジュンギは細く、くすんだ川に船首を向けた。
    「この川を遡るのですか?」
     トクトクとやはり独特な音を立てて小舟は進む。小舟はバッティングセンターを左手に、高架下を過ぎてスナック街へ。電線がなくなったスナック街の明かりは消え、川側から見ても不思議な秩序が分かるほど静かであった。
    「そういえば電力はどうしているんだい?」
    「電力、ですか?印刷機が無くなったので、電力消費はかなり抑えられていますよ」
     そう言って、はてと違和感を覚えた。
    「そうなのか。それは良かった。盗電なんて美しくない真似をしてると知ったときは、ぶん殴ってでもやめさせなければと思いました」
    「そうでしたか。どうやら私は命拾いをしたようです」
     ハン・ジュンギの拳は重い。鍛えていただいた過去の痛みを思い出し、自然と笑みがこぼれた。
    「あの店はクッパが美味いのです。日本風のクッパ、きっと頭目の口にも合いますよ」
    「そうだね。ヨンスが言うなら間違いない。今度、ごちそうしてくれないか。あと君の友人が作る麻婆豆腐とエビチリも是非いただきたい」
    「えぇ、もちろんです。兄さん」
     櫻川は相変わらずのドブ川で、海とは違うてらてらとしたぬめりで輝いている。光があたればドブ川もきれいに見えるらしい。そして、不思議なものでコミジュルとコリアン街に近い福徳橋よりも、あの日の葬儀の後、皆で集まった朝焼け橋の方が懐かしく感じる。
     朝焼けの空に星がふたつ瞬いている。
     小舟が岸に寄り、トクトクと音を立てている。
    「到着だ、ヨンス。それじゃあ、ソンヒによろしく伝えてくれ」
     操舵輪を手放して、兄が私を抱きしめた。懐かしい紅茶の香りと潮と血の香りに顔をうずめ、私はその背をそっと抱きしめた。

     喉が異物を押し戻そうと動く。柔らかな乳白色のカーテンと天井に機械の音。一定の感覚でリズムを刻む高い信号音。なるほどトクトクとはこれの音だったのか、とひとりごちた。
     冷たく鋭い、熱いまどろみが脳裏を掠める。
     星が、太陽のようにまぶしい星がふたつ、もじゃもじゃと揺れる頭が私を見ている。
    「ハン・ジュンギ。なぁ、ヨンス?俺が分かるか?」
     そういえば、このまなざしはハワイぶりだな、と暖かい左手を握ると、彼の目から涙が零れ落ちた。
     太陽の光を浴びるのは久しぶりだ。

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    カピ(あね)が掘った墓穴

    DONEちょはん 初めての年越し(後編)
    仕事は多分さぼりました。
    施設の名前を調べるために7の攻略本を読んでました。つまり年越しイベントのスポンサーは一番HDなのでは。さすが横浜の第4勢力!
    試験が終わったら、前後編ちゃんと整理していい感じに仕上げたい。
    ちょはん 初めての年越し(後編) 神代駅の裏のコンビニで肉まんを2個とビールを二本。袋は別々にしてもらった。
     今年も恒例の年越しの花火と除夜の汽笛があるとかで、浜北公園に向かう人たちの流れに逆らって歩く。馬車街道まで出ると、ギャラクシーランドとREDパークへ向かう人波にあたる。それに紛れて流れの通りに進めば、いつもより明かりが少ないバッティングセンターが見えてきた。
     ギャラクシーランドでカウントダウンイベントがあるらしい。まだ観覧車はいつも通りで、代り映えしない。そうだ今は何時だっただろうと、画面を開くと数字が23時30分に変わった。
     サッカーコート横の自動販売機でたむろする若者たちを横目に、趙のもとへ足を速める。
     施設の明かりが落ちた、バッティングセンターの建物の裏。絶妙にギャラクシーランドもREDパークも見えない趙総帥のお気に入りスポットは静かで穴場だった。ここに監視カメラは無い。
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    カピ(あね)が掘った墓穴

    MOURNING趙ハンです。クリスマスの話が間に合わなかったのでクリスマス1週間前の話のSSを上げます。当日何があったのかは補完願います。
    ちょはん 12月18日、深夜 入り口のシャッターを下ろして、外に出ると吐く息が白くなった。うみねこ座のレイトショーも終わって、通りは見慣れた輩が行き来している。彼らはすれ違う都度頭を下げてくるので、右手を半分あげてやりすごす。
     12月は忙しい。神室町に殴り込みに行ったのは昨年の今頃だっただろうか。昨年も忙しかったが、今年はかなり種類の違う忙しさである。
     異人町のために方々を走り回った2019年とは打って変わって、店と自宅の往復で一日を終える日が続いている。これまで『横浜流氓御用達のちょっと怪しげでスリルのある路地裏の店』から、『うみねこ座近くの知る人ぞ知る町中華』にイメージチェンジを行った効果が出てきたようで、一般のお客が増えたのだ。春日や足立のおかげで口コミで評判が広がって、流氓の若い奴らに「佑天飯店でもめごとを起こしたら……」と釘を刺したことも良かったようだ。もちろん今も流氓の若手に料理を振舞っているので、『ちょっと怪しげでスリルのある路地裏の店』という事実は変わらないのだが。
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