其葉蓁蓁堅い壁に頬を預けていると、ふんわりと汗の香りが漂ってきて鼻をくすぐる。
いつも衣に焚き染められている麝香が混じる、深く官能的な香り。
風信の香り。
腹の底が熱くなる。思い瞼を上げて、手元を確かめた。もう、酒は持っていないようだが。
はて。酒をあおったわけでもないのに、どうしてこんなに腹が焼けるのだろう。
首を傾げて見上げると、今宵しずかに嗜んでいた蜜酒よりもとろりと輝く、極上の琥珀色が、私を映していた。
「起きたか?」
「ねていない」
「嘘つけ船を漕いでいたくせに」
「おきている」
「分かった、分かった、この酔っ払いめ。お前はずっと起きていた。起きていたなら承知だろうが、とっくの昔に殿下たちが菩薺観に戻って半刻も前に散会したぞ。部屋に戻るか?」
4639