束縛 コトコトと煮込まれるシチューの美味しそうな匂いが部屋に広がる。
なんの変哲もないシチューではあるが、これは会心の出来だろう、とラーハルトはこれからこれを食べるであろう人物を思い浮かべながら一人微笑んだ。
外を見ればすっかり日は落ち、そろそろ想い人が訪れるだろうとシチューを皿に移した。
そしてその一皿に小瓶から取り出した粉を振り入れる。同色の粒子の細かい粉は見ただけでは入っていることすらわからない。
ラーハルトはその皿を見つめ、寝室に目を移すと更に笑みを深くした。
直後に玄関の扉を叩く音が響く。
意識をそちらに向けると、勝手知ったる様子で扉を開け上がり込むヒュンケルの姿が見える。
「今日はシチューか」
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