楽園はそこにありて どこまでも続く海原を一艘の船が駆ける。
潮の匂いが含まれる風を受けながら、ラーハルトは片膝を立てて座りぼんやりと水平線を眺めていた。傍らには寝転んで空を見上げるヒュンケル。
二人の間に会話はないが、重ねられた手の温もりが穏やかな時間を作る。
大きな戦いが終わり、冒険の終わりに姿を消した勇者も帰還し平穏が戻ったこの世界で、ヒュンケルとラーハルトはあてのない旅に出ていた。
当初は人里離れた森の中に家を建て自給自足の生活をしており、慣れない生活に四苦八苦しながらも、唯一無二の存在と苦楽を共にすることはこの上ない充足感を生んだ。
しかし月日が流れ生活も安定すると、幼少より戦いの中で生きてきた二人は穏やかな日常に物足りなさを覚えるのも無理はない。
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