学校での俺は表の顔、放課後の俺は……なーんてね、どんなこと期待した?残念、いつだって俺は俺、色んな顔を使い分けるなんて面倒くさいことはしない。シたいときにシたいことを。場所も時間も関係ないじゃん。楽しもうよ人生、めんどくさいことなんて全部忘れて、ね。
「紫音さんいるー?お腹痛い、薬ちょうだい」
「こーら。そんな風に呼んでるのバレたらこわーい先生に怒られちゃうよ。俺が、ね」
「だって紫音さん全然先生って感じしないしさー」
「それって褒めてくれてる?ありがと。でも薬はあげられない、そういう決まりだから」
「マジ?じゃあどうしたらいいの、すごい痛いんだけど」
大袈裟に腹を抑えて前屈みになりながらも生徒はちらちらと俺の顔を盗み見る。バレてるよ、欲しいのは本当に薬?
まあほぼ間違いなく仮病だろうとは思いつつ、一応センセーらしくどの辺が痛いの?と顔を覗き込むように問う。途端に慌てたように顔をあげて、えっと……このへん……いやこのへんかも?なんて曖昧に訴える生徒に仮病を確信した俺は、診てあげるからこっちに寝て、とカーテンを開けてベッドへと誘う。期待してたくせに躊躇うの?怖くなっちゃったのかな、可愛いね……なんてことは今はまだ言わない、効果的なタイミングというものがあるのだ。
そして遠慮がちにベッドに横たわり、所在なさげにしている生徒に俺は、触っていい?と声をかけてからそっと腹部に手を滑らせた。
「ここ?もう少し上?それとも下かな……痛いのはどこ?」
「えーっと……」
「聞き方変えよっか、俺に触ってほしいのは……どこ?」
びくり、と振動が指先へと伝わる。あーあ、真っ赤な顔しちゃって。自分が望んだくせにその先を考えてなかったのかな。そんなんじゃわるいやつ、に、簡単に食べられちゃうよ。気をつけなきゃ。
生徒の鳩尾からへそのあたりまでを指先でなぞる何往復も。たまにへそより下に行きかけて戻るとき、分かりやすくびくりと震えるの、可愛い。
「教えてくれない?俺、君の身体まだ知らない……。ねえ、もしかして、ほんとはお腹じゃなかったりして」
「えっ!?いえ、あの、それは……」
「それは?」
なにかいいかけてやめて、真っ赤な顔を隠すのも忘れて、ねえそんなに怯えないで。リラックスしなきゃ。怖がってたら気持ちよくなんてなれないよ。
ぎしりと大げさに音を立てることを意識しながら俺は、ベッドに手をついて生徒の上に上半身だけ覆いかぶさった。陰の中で戸惑いながら俺を見上げる生徒に顔を近づけて問う。
「ねえキミ、ほんとは俺に何シてほしくてここに来たの?期待してたモノがなんなのか、教えてくれないなら……これでオシマイ、かな」
「……紫音さん、あの、もっと、」
「もっと?」
「あの、あの……」
「あれー?熱あるのかも、顔赤いし……汗、すごいね。苦しい?服、ちょっと緩めるよ」
首筋に指先の皮膚だけで触れる。その次は軽く爪の先を当てる。意図を悟られないように、偶然を装って。
一つ、二つとゆっくりボタンを外していくと、二つ目を外したときに、はぁ、と熱い息が漏れた。息止めてたの?そんなにガチガチになってちゃ楽しめないんじゃない?
「……せ、先生」
「あれ?紫音じゃないの?急に冷たくするなんて寂しいな」
「いえ、その……もう大丈夫、です……お腹痛くないです……」
「そう?まだ苦しそうだけど」
「ほんとに……大丈夫……です……から……」
顔を手で庇ってちいさく呟いた生徒の仕草が可愛くて、なぁに?聞こえない、って耳元で囁いたら、ごめんなさい……と本当に本当に小さな声で言ったので、嘘つきにはオシオキだね、と言って足元の掛け布団を掴んで思い切り、頭から全部覆い隠すようにして掛けた。俺の突然の行動にびくびくしながら布団からそっと顔を半分だけ出した生徒に、俺は笑って告げる。
「シてほしいコト、ちゃんと言えるようになったらまたおいで。俺はいつでもここにいるよ。嘘ついたこと、今日は許してあげる。次にヤッたら……どんなにやめてって言われてもやめてあげられないかも」
じゃあ次の授業まで寝てていいよ。俺はちょっと煙草吸ってくるけど、我慢できなくなっても、ちゃーんとイイコにして待っててね。
そう言って生徒をちらりと見て外に出る……の、前にもう一言。俺はゆるりと振り返って、それからゆっくりと言い聞かせるみたいに、言った。
「欲しがってるキミの顔、可愛かったなあ。もっといじめたくなっちゃう。その顔また見せて。楽しみにしてるよ」
声にならない声が聞こえた気がするけど、まあ今はそっとしとこう。休み時間まではあと15分。ちゃんとイイコで我慢できるかな?俺はもう我慢できないみたい。え?なぁに?ふふ、煙草が、だよ。勿論ね。