最高の一日の始め方 朝一番にクロードを見ると、その日は良い一日になる。昨日抱き合ったままの腕を枕にして眠る彼を。
(……かわいいな)
俺より少し薄く、しかしよく鍛えられた胸筋が息を吸う度に上下する。少し下に目をずらせば、つきにくい筋肉を無理につけたような、引き締まった綺麗な曲線が描かれている。決定的な所は真っ白な布団に隠れているが、浅黒い彼の肌との対比がまた煽情的でいい。
こうやって少し体を起こして見ていると、離れるなと言いたげに少し唸って体を寄せてくれる。これも毎朝の事だが、無意識に俺を求めてくれるのがうれしい。ここにいるから大丈夫と抱きしめ返すと、また嬉しそうにもう一度、少し高く唸る。寝言もかわいいが、これがたまらなくかわいい。
薄い頬や唇、昨晩の涙が固まった目じりを撫でる、整髪剤を落とす間も惜しくまぐわったが、今はもうすべて垂れ落ちていて、幼げな顔立ちをさらに引き立てる。ただ同時に、瞬きをしてもう一度見ると、今度は大人びた印象に早変わりするのだから、彼の魅力は一言に言いにくく、筆舌に尽くしがたい。
(……すきだな)
そんなことを思いながら彼の事を見つめていると、ふと目を覚ましたのか、もそもそと一度俺に強く抱き着く。伸びの代わりに小さくなる癖が彼にはあった。腰が痛むと言うように軽く撫でながら唸るのが、すこし年を感じられて良い。目をつむったまま、むぐむぐと瞬きをして、ゆっくりとその宝石が姿を見せる。朝日に良く輝く、綺麗な翡翠色の瞳。思わす食べてしまいたくなりそうなのを我慢して、代わりに瞼へ口付けた。
「おはよう」
「ん、おはよう、きょうだい……あんた、いつも早いなぁ」
「君の寝顔が見たいから」
「ふふ、そんなもの見たって、つまらんだろう」
「朝一番の至福の時間だ」
寝起きの彼はまだ頭が回っていないから、こういう直接的な言葉からもなかなか逃げられずに照れてしまう。あー、と少し枯れ気味の声で俺の胸元に顔を埋めた。「朝食、いけそうか?」
「ん……いや、動けないし、今日は抜くよ。俺の分まで食べてくれ」
「それじゃあ俺も、昼まで我慢する」
「おいおい、あんたまで無理する必要ないんだぜ?」
「朝食代わりに、君を食べるから平気だ」
そう真剣に伝えると、彼はにんまりと悪だくみをするような顔で「俺を食べても腹は膨れんぞ」と笑う。その学生時代かわらない、恐らく生まれた時からも変わらない表情も、またかわいい。
「美味しいごちそうというのは実際に腹へ入れなくても満足するものだ。君みたいな、絶品はとくに」
「……年寄りくさいなぁ、あんた」
「君もそこそこだ」
体を起こして覆いかぶさるように軽く口付けて、それから次第に深くしていく。彼の腰が動き始めるのを感じて口を離せば、今度はその表情が満足そうに蕩ける。目と口の端を緩めて、汗の一つでも落ちたら滲んでしまいそうなほど優しく。この世でいちばん好ましいその微笑に口をつけると、彼も乗り気で足を絡めてくれた。
ひとつの寝台で目が覚めて、目が合って、挨拶をして笑いあう。今日のように体まで交わせたなら、それは重畳。明日命が必ずあるとは言えないが、一日でも多く、この朝が迎えられたらいい。願わくば、永遠に。