ワン(僕が恋のキューピットって訳)治安局に用事がありルミナスクエアに出てきたベンは偶然見覚えのある人物を見かけた。
視線に気づいたのか相手もこちらを見るとぱちりと視線が合う。
「あ、白祇重工の…」
「ベンだ。ベン・ビガー」
「ベンさん、こんな場所で奇遇だな。俺はカリュドーンの子、ライトだ。」
かちゃりとサングラスを直しつつベンに向き合うと自己紹介をしてくれる。
お互いに顔は知っていても名前までは知らなかった。
「ライトさんか、よろしく」
「ああ、所でベンさん今時間は空いてるか?」
「今か?空いているが…」
何かあるのかと首を傾げるとライトはチラリと目線を移す。
「なら助けちゃくれないか」
ワン!と元気よく吠える犬を指さしベンにジェスチャーで来いと呼ぶ。
「こいつがずっと着いてきて困ってるんだ。前にも似たようなことがあったがプロキシ…店長に助けて貰ってな。
助言も授かったから実行してみたんだがオヤツをあげても一向に離れる気配がない。そろそろ本気で連れて帰ろうか悩んでててな。」
ライトの足元で楽しそうにじゃれつく犬に考え込むポーズをとる。
「なるほどな、これはまた随分と懐かれてるなぁ」
「懐いてくれるのは有難いが生憎俺にはコイツの望みが全くわからんくてな」
クルクルと舌を出しながらライトの周りをうろつく犬を眺めつつ周りを見渡すと少し離れたところにボールが転がっていた。
「合ってるか分からないが…この子と遊んでやったらどうだ?」
そう提案すればライトがなるほど、と呟く。
「有難い提案だな、アンタにそう言われなきゃ俺はこいつが離れるまでここで突っ立ってただろう」
そうと決まればとライトが近くの公園へ向かって歩き出す。
その後ろを上機嫌で追いかける犬にベンも落ちていたボールを拾って着いて行った。
公園に着いてからボールを投げたり一緒に走ったりと2人と1匹で存分に遊び尽くし満足した犬はどこかへ帰って行った。
「…やっと満足してくれたみたいだな」
公園にあるベンチに座りつつベンがそう言う。30分…いや、1時間は遊んだ気がする。
想像以上に時間を取られていた。
それでも久しぶりに公園で遊んでなんだか心は満足していた。
「悪いなベンさん、こんなに時間を取られるとは…何か礼をしたいんだが…」
「礼なんていい。俺も楽しかったしな…この歳になるとこうして遊ぶ機会もない。」
そよそよと吹く風に辺りながらによりとベンが笑う。独特な笑顔にライトは内心可愛いなと思う。
しかし礼に関しては殆ど初対面の自分に付き合って貰ったのだからこのまま流すわけにはいかない。
「そういう訳にはいかん、アンタが嫌じゃなければ今度飯でも奢らせてくれないか?」
「うーんでもなぁ、大したことはしてないからな…」
そう問えばベンが考えるような素振りを見せる。ピクピク動く耳がなんだか気になる。
何故だかこのクマのシリオンの一挙一動が見ていて癒されるというか可愛いな…とライトは思っていた。
単純にこの縁をここで終わるのが惜しいと思っていた。
「また会って話したいって下心もある」
素直に心の内を伝えればベンの動きが止まる。
「…それなら、実は俺も君とまだ話したいと思っていたんだ。」
おずおず、といった感じで嬉しそうにそういう巨体にライトの胸の当たりがきゅん、となる。
「なら決まりだな」
お互いにスマホを取り出すと連絡先を交換した。
追加された連絡先を眺めつつ新しい友人が出来たことにベンはによりと笑う。
「次、楽しみにしといてくれ」
そんなベンにニヤリと笑うとライトはポーチか、飴を1本取り出す。
「今日はありがと、助かった。またなベンさん」
ライトはぽい、とベンに飴を投げると踵を返し駐車場の方へ去っていった。
「ああまた、ライトさん」
『またな』の言葉にふわりと心が浮き立つような感覚を感じつつ残されたイチゴ味の飴を片手にライトの後ろ姿をみやった。