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    bksinto

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    bksinto

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    前作の続き。と言うか岩融視点。
    惚気る時は正々堂々真正面からな岩膝。

    しれっとにゃんちょぎが混ざってます。
    前回→https://poipiku.com/IllustViewPcV.jsp?ID=109274&TD=3462205

    #岩膝
    knee

     ――畑へと向かう道すがらの事だった。

    「――岩融さんは”美人は三日で飽きる”って言葉があるの知ってます?」
    「……む?」
     胸元へ大小幾つもの笊を抱えて、朗らかな調子で鯰尾が言う。
     彼の目線の先――かなり高い位置で、岩融は軽く眉を顰めた。
    「……いや。耳馴染みは、無いが」
    「ですよね。いや昨日、みんなで大河の再放送見てたらそんな台詞が出てきたので」
    週の半ば、昼下がり――本日の務めは夕餉に用いる食材の収穫で、共に畑へと向かう途中。ほら、と鯰尾は自身を指さし、小さく首を傾けて見せた。
    「俺達って、みんな綺麗に作られてるじゃないですか?」
    「まあ……そうだな」
    「ここで初めて顔を合わせたって相手も多いけど、付き合いの長い相手ってそれこそ数百年単位の付き合いだったりするから――飽きると言うか見慣れる、ってのは分かる気がして」
    「ああ……それは、確かに」
    「……で、それとはまた別に、岩融さんには関係なさそうだなーって、思いまして」
    「ん?」
    「確か――膝丸さんとのなれそめって岩融さんの一目惚れだったんでしょ?」
    「……有り体に言えばな」
     上目遣いに言われ、岩融は微苦笑を返す。――自分達の事はわざわざ公言も吹聴もしていないし、知った誰かが面白半分に放言したと言う訳でもないのだろうが、逆に隠し立てをしているわけでも無い。
     長く居城を共にしていれば何かの弾みにそんな話題にもなるし、自分も、そして膝丸も返答を厭うでもないので、いつの間にかごく自然に浸透していったと、そう認識している。
     敢えて話題にされるのは、少々面映ゆくはあるけれど。
    「だったら当然、見飽きるなんてこと無いんだろうなあーって?」
    「無論。天地が逆転したとて、それでけはありえんな」
    「うわ早。…………やっぱ、岩融さんはからかい甲斐がないなあ……」
    「はっはっは!期待に添えず、実に申し訳ない」
    「いーんですけど。……同じことを昨日、南泉に聞いたらあっちはすっごい楽しいことになったんで」
    「……と、言うと?」
     よいしょ、と鯰尾は笊を抱え直す。
    「や、どう言う反応するかなー、どうせまた素直じゃない答えなんだろうなーって聞いたら案の定「そんなもん、とっくに見飽きたに決まってんだろ」って返事があったんですけど……それはもう間の悪い事に、声の聞こえる範囲に長義がいたみたいで」
    「…………ほう?……本当にそれは、間が悪かったのか?」
    「え?」
    「敢えて、声の聞こえる範囲で尋ねたのではなく?」
    「……ご想像にお任せしまーす」
     不敵にひとつ笑い、それで、と鯰尾は言葉を続ける。
    「そこからは、大声で言い争いしながら本丸内追いかけっこしてましたねー。岩融さんは本丸に居なかった時間だから知らないでしょうけど」
    「さもあろう……」
    「でも、最終的に「お前の顔だけは何があっても絶対に見飽きねーよ!」って叫び声の後で静かになったんで、どうにかはなったと思います」
    「……実に賑やかしい事だな」
     悪いと思いつつ、その光景が目に浮かんで忍びきれない笑みが零れた。
     彼らを見ていると、恋い慕い合う仲と言うのも様々な形があるものだ、と思う。
     岩融自身、膝丸と何一つ意見の食い違いや行き違いがない、とは言わないが、あのような――ある種、諍い合うのを心を通じ合わせる手段として用いる、と言うことが無いので。
    「ほんと、素直なんだか素直じゃないんだか、って感じですけど。……その点、岩融さんは臆面もなく惚気るから、手応えがなくて残念です」
    「それは重畳。……今後も娯楽の種にならぬよう、努めるとしよう」
     軽く笑い飛ばし、岩融は何となく担いだ農具を抱え直す――話題に出たから、と言う訳ではないが、膝丸は今、何をしているのだろうと思った。
     首尾よく役目を終えていれば、ゆるりと休んでいる頃合いか。
    (……見飽きる……見慣れる、か……)
    「――飽きぬ、と言うよりは……」
    「はい?」
     先程の話を反芻して、思わず零れたのは嘲笑めいた声音だった。……人の子はまったく、愉快な事を言うものだと思う。
     ――彼のその、本体たる刀の美しさは言うまでもない。
     戦場に身を置いていた頃の凛々しさは、人の身を得た彼が自身を振るう今も変わる事無く、むしろ練度の上昇に伴って雄々しく鋭さを増していく。
     かと思えば同胞と談笑をする際に綻ぶ表情、短刀や年若い刀らに向けられる穏やかな目元。
     戦術の議論では怜悧さを、団欒の場では柔和さを、身内や古馴染の前では時折ふとした稚さを――人の身を得て過ごしてきた数年、今でもまだ新しい表情を見付ける事がある。
    「――むしろ今でも、日ごと些細な事で惚れ直してばかりと言った方が、正しいか……」
    「………………あははは。ほんと、聞くんじゃなかった」
     実に余計な事をしたなあ、と鯰尾は空を仰ぐ。
     しみじみと、深く染み入るような声音でそんな言われては、聞いているこちらが何やら気恥ずかしい。
     少しばかりからかおうとした罰だと受け止めて、次からは相手を選ぼうと胸中で深く頷いた時――
    「――岩融、」
    「……、……?」
     馴染みのある、穏やかな声が差し込んだ。
     そこはちょうど、大広間のある屋敷森を通り抜けるところで、声の方へと視線を向けると――開け放たれた障子の向こう、廊下を挟んだ座敷で、膝丸と乱が湯呑を手にして卓へと並んでいた。
    「――膝丸様。どうされた?」
    「別に……」
     分かりやすく破顔し、岩融が足を止め声を上げる。
     膝丸は別段、こちらへと呼びつけるでも手招きをするでもなく、ただ座したままゆるりと笑むばかり。
     そして、一言。
    「――今日も、良い男だな」
    「……!」
     唐突な――鯰尾にしてみれば本当に唐突な言葉で、岩融も実際、驚いたようにきょとんと眼を見開く。……ただしそれは本当に一瞬の事で、彼はすぐにその表情へ喜色を浮かべて、
    「……膝丸様こそ、相も変わらずお美しい」
    「ああ」


    (……出来ればこう言うのは、二振りっきりの時にやってくんないかな……)
     実にむず痒い気分で視線を少しずらすと――弟が同じような事を言いたげな表情を浮かべたのち、卓へ突っ伏したところだった。
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