僕の可愛い恋人僕の恋人は、可愛い。
例えば、会えない日々が続いて、どうしても声だけ聴きたくなって電話をした時。
「あんまり喋らないね。もう眠たかった?」
端末の向こうで、逡巡の気配がする。早めに切った方がいいかと切り上げかけた僕に、そっと一言。
『……アンタの声、聴いてたかったから』
そう言われて、二人で押し黙った。
耳が拾うのは吐息だけでもいいって、言ったことあったっけ。
それから、初めてキスをした時のこととか。
「……初めてはレモン味って言うけど、本当にした?」
あまりに固まっていた彼を解したくて、冗談のつもりだったけれど。
「……息止めてたから、分かんねぇ」
その困ったように見上げてきた顔に、こっちが固まった。
寒くなると、出不精の僕らはソファで並んで読書をする。
冷めるの嫌だから、とコーヒーを淹れたマグカップは二人で一つ。熱めのブラックが好きな君が、牛乳を入れることで温くなってしまうのに、気づかない筈がないのに。
集中したいから離れろと自分で言ったのに、暖を取る為に足先をくっつけてくるのが、堪らなく可愛い。冷え性な君に、僕は湯たんぽ代わりに指を絡める。
二人でいる時だけ、暫定出不精になる僕ら。
ある時、君に聞いた。「僕のどこが好き?」と。
君は少し考えて、それから笑った。
「可愛いところ」
「僕が?」
「だって、俺が答えたら、それ以上に自分は好きだって返すつもりだっただろ? そーいうところ、零さん可愛いなって思う」
「……負けず嫌いだなぁ」
「俺の方が好きだし」
そこは譲れねぇ、と君は言った。
じゃあ可愛いの称号は君に譲るから、好きの重さの名誉は僕にくれないかな。
甘えるふりで胸に顔を擦り付ける。君の心臓の音が、聴こえる。
「……そうやって悔しい時に顔を見せないとこも、可愛いと思うぜ」
これは、悔しいんじゃなくて、嬉しいって言うんだよ。
俺の、可愛い恋人。