Who's in the way「なぁ、ブラッド。」
そう声をかけられ、ソファのスプリングが俺の方に少し沈む。読んでいた本から目を上げて声のした方へ顔を向けるとそっとキースの指が頬に触れて、それから唇が重なった。
「んっ……」
少しカサついたキースのそれが優しく触れて、少しだけ離れてはまたやわらかに塞がれる。また離れて、今度は大きく開いた口に噛むように包まれる。何度も、何度も啄むような、噛み付くようなキスに構えていなかった分身体の芯が昂って行く。
……まだ。
まだ欲しい。もっと欲しい。招き入れるように唇を開いて、キースの首に回していた手を軽く引き寄せる。……が、来ない。浅く、優しいくちづけを繰り返すが、一向にそれ以上踏み込んでこない。いつもならそうやって応えれば深く噛み付いてくるし、ギラついたペリドットの視線は無遠慮に俺を暴き立てようと身体の隅々まで這い回るのに。
キースは「うーん……?」だとか「んー?」だとか漏らしながら軽いキスばかり繰り返している。まるで何かを確かめているようだと気づき、その顔を力一杯押し戻した。
「ぶへぇっ…っおっ…前なぁ…何すんだよ…。」
「…それを言うべきは俺の方だろう。何をする。」
翻弄されて、つい昂ってしまった心の内を隠すために思い切りキースの顔を睨んだ。これは、怒っていい。理不尽な思いをしたのは今、俺の方だ。
そうするとキースはバツの悪そうな顔になり「あぁ〜…いや…」などと呻き、小さく「悪い。」と謝った。
「なんの謝罪だ。」
と追求すると、コレ。とキースは軽く俺のかけているメガネの弦に触れた。
「…?眼鏡?」
それと、今の一連の行為となんの関係がある。とさらに眉間に皺を寄せる。
「いや顔こっわ……あー…いやほら、アレだよ。」
とキースは眼鏡に触れた手をそっと頬まで滑らせる。引き寄せられた唇はまた重なって、離れていく。
「…眼鏡してるとキスの時に邪魔っつーの、ホントかな…って。」
そんなこと無かった。と鼻先が触れ合う距離で、ニヤリ、とキースが笑った。
「…期待したんだろ。」
「………調子に乗るな。」
抗議のために開いた口は文句を継げないまま、今度は深く重なり合った。
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「…される方は眼鏡邪魔とか思うか?」
「…思ったことはないが。…誰からそんなことを聞いた?」
「………一般論と好奇心だよ。」