ガーデンバース(騎士side)
「ツカサくん、なんだか不機嫌だね」
「そのような事はございません」
不思議そうにする類は、それ以上何も聞いてこない。きっと、『何かあったのだろう』とそう察しているのだろうな。このように主君に悟らせてしまうのは従者として情けない。情けないが、許してほしい。
脳裏で藤色のふわふわとしたくせ毛の少年を思い出し、またムカムカとしたものが胸の奥でくすぶり始めた。
(このオレに対して暇人だと…?! なんたる無礼かっ…!!)
思い出すだけで腹が立つ。突然目の前から消えた少年は、一体どこの迷子か。
昼過ぎに警備を兼ねて客人のお部屋の傍を巡回していた時に見つけた幼い子ども。妹の咲希よりも小さい、オレの半分ほどの背丈しかないその子どもは、あろう事か目の前から突然姿を消してしまったんだ。消える直前に言われた『どうやらノワール領の騎士団長殿は大層お暇な御様子で』という言葉を思い返すだけで腹が立つ。魔術師見習いとはいえ、このオレを暇人と愚弄するとは…!
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