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    oimo_1025

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    oimo_1025

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    ふんわりしすぎた設定の上、兄弟の意味あったか?みたいになった気がしなくもないです。

    #了尊
    haveRespectFor

    了尊兄弟パロ兄弟パロ
     了見には一人、弟がいる。名前は尊。この世でたった一人、大切な家族だ。
     その弟が最近おかしいのだ。具体的に言えば少し前から様子がおかしくなったように思う。
    「尊がおかしい」
     開口一番そう言うと、目の前の少年は呆れたように溜め息を吐いた。
    「いきなりどうした……」
     呆れたような声でそう言ったのは、藤木遊作という名の少年だった。彼は了見の友人であり、尊の同級生でもある。
     了見がカフェナギの常連であるため、こうして放課後に落ち合うことは珍しいことではなかった。今日もいつものように他愛のない話をしていた筈なのだが、ふと先日の出来事を思い出してしまいつい相談してしまったのである。
     ちなみに件の弟は今日はいない。用があるから少し遅くなるらしい。用とはなんだと聞いても返信はなかった。
     まあいつものことだと諦めているので特に気にしていないが。
    「とにかく、様子がおかしいんだ」
     改めて言ってみるものの、やはり遊作の反応は芳しくない。胡乱げな眼差しを向けられただけだった。
    「具体的には?」
    「強いて言うなら、どこかよそよそしい気が……」
     思い返すと、ここ数週間はまともに会話を交わした記憶がない。学校で顔を合わせてもすぐに目を逸らされてしまう。話しかければ一応返事はしてくれるが、それだけだ。明らかに以前と比べて態度が違う。何か怒らせるようなことでもしたのだろうかと考えてみても思い当たる節もない。
    「まさか……嫌われたのだろうか……」
    「お前が? 尊にか?」
     心底驚いたというように目を見開く遊作にむっとする。
    「私だって人並みに傷つくぞ」
    「いや、すまない。意外だっただけだ」
     素直に謝罪の言葉を述べる友人をじろりと睨む。そうすると了見がこれ以上怒れない正確なのを知っているが故だ。なので遊作は気にする様子もなく続けた。
    「俺には本当に、心当たりはないんだが……」
     遊作から見えている範囲の尊には、了見が言うほどの違和感は感じられなかったという。であれば学校での尊は普段通りだという結論になるのだが、だとしたら尚更わからない。何故急に了見に対しての態度が変わったのか。
    「……本当に心当たりはないのか?お前の邪な感情を見抜かれたとか」
    「お前は私をなんだと思っているんだ……むしろそういうのは徹底して隠しているから気付かれているとは思えない」
     真面目な顔でふざけたことを言うものだから思わず溜め息が漏れる。
     確かに了見は尊のこと好きだった。家族として、兄弟として。それからそれ以上にも。だからといって、彼が弟であることは大前提だ。そのような短絡的な行動は絶対にしない。自覚してからはこれまで以上に意識して良き兄となるよう徹底してきたつもりだった。
    「まぁ、避けられているとは言っても確実に嫌われている訳ではないんだろう?」
    「……恐らくはな」
     今の了見には曖昧に頷くことしかできなかった。そのくらい、このところは家を留守にしていて彼とまともな会話ができていなかったのだ。そんなこちらの心情を知ってか知らずか、遊作は小さく唸ると何かを考え込んでいるようだった。やがて顔を上げるとこちらをじっと見つめてくる。その視線の意図するところがわからず首を傾げると、彼は静かに口を開いた。
    「直接聞いてみるしかないんじゃないか?」
    「だが、もしそれで肯定されたら私はどうすればいいんだ」
    「その時はその時だろう」
     あっさりと告げられた言葉に絶句する。この男は他人事だと思って簡単に言ってくれるものだ。
    「なになにー?なんの話してんの?」
    「帰れ」
     間髪を容れずに投げられた拒絶に、割り入ってきた男、現在カフェナギで絶賛アルバイト中のAiは、あからさまな演技の入った素振りでくねくねと身体を揺らしながら泣き真似をしてみせた。鬱陶しいことこの上ない。遊作など慣れたもので、完全に相手をする気がないらしく黙々とホットドッグを口に運んでいる。
    「ちょーっとぉ!?このAiちゃん様を無視するとは、いい度胸じゃないの」
    「黙れ」
    「ひど。せっかくアドバイスしてやろうと思ったのに」
     ぎゃんぎゃんと喚き立てる姿はまるで子供だ。遊作などは慣れた様子で、相手をする気がないのを全身で訴えていて視線すら向けていない。
    「貴様の助言など求めていない」
    「またまたぁ、そんなこと言っちゃってぇ。いいのかなぁー?オレ様ったら、この前ちょっとだけ尊ちゃんから相談受けたから、情報持ってるんだけど」
    「なに?」
     ぴくり、と了見の肩が跳ねる。
    「兄離れするにはどうしたらいいと思う?」
     そこまで言うと過剰に肩を揺らした了見を愉快そうに眺めつつ、Aiは一度言葉を切り、わざとらしく溜め息を吐いた。
    「《いつまでも僕が甘えてたら、兄さんだって恋人とか作りにくいよね》だとさ」
    「…………」
     沈黙したまま微動だにしない了見に、Aiは追い打ちをかけるように続ける。
    「なーんか、学校で言われたっぽかったぜ。とりあえず、恋人作る気はなさそうだぜとは言っといたけど」
     まさか了見は尊に劣情を抱いているから、恋人はいらないと思うなどと伝えるわけにはいくまいと続けられると返す言葉もない。そこに嘘はなかったからだ。
    「いやぁ、オレもさ、そうやってアドバイス求められたら真面目に答えるしかないだろ?」
    「おい、待て」
     碌なことを言い出す気配がしない台詞に、たまらず口を挟んだ。するときょとんと可愛らしい仕草――了見から見れば気味が悪いだけだが――をした後に、Aiはぴょんっと了見の側に身を寄せる。
    「はいはーい!なんでしょうお兄様!」
    「貴様に兄と呼ばれる筋合いはない。……まさかとは思うが、それで尊に余計なことを吹き込んだのではないだろうな」
     地を這うような低い声にも臆することなく、Aiはあっけらかんとした様子、――いや、遊作の目にはむしろ楽しくて仕方がないように見える素振りでけろりと答えた。
    「やだなぁ。オレはただ相談に対して真面目に答えただけなんだぜ?」
    「御託はいい。尊に何を言った」
    「予想はついてるのに聞くのか?」
     へらりと笑って嘯く姿に苛立ちが増す。この男がこういう態度をとる時は確実に面白がっている。いや、思えばこの非人間のAIはもともと了見に対してはこういう態度が強い。彼とて遊作が絡めば尊に対する了見家それ以上の過剰な反応をする割に、人のことは嘲笑うのだ。
     遊作もまた同じことを思ったようで、呆れたような視線を向けていた。
     そしてAiから出てきた言葉は、概ね予想通りのものではあった。
    「兄離れしたいなら、とりあえず私生活からアイツに頼らないようにすれば?って」
     言っただけ。
     言葉尻を言い切る前に、了見が手にしていたコーヒーの紙カップがグシャリと握り潰された。半分以下にはなっていたものの、中に入っていた黒い液体がテーブルにぶちまけられる。
    「うわ、何やってんのお前」
    「うるさい黙れ」
     了見はAiの言葉を遮ると弾けるように立ち上がった。
    「帰る」
     それだけ言って踵を返すと、了見は早足で店を出て行ってしまった。残された二人が引き止める暇など、ありはしない。
    「あーあ、怒らせちまった。Aiちゃんしっぱーい!」
    「普通に伝えていればあそこまではならなかった。なぜわざわざ焚き付けたんだ?」
     微塵も反省する様子のない白々しい言葉に、じろりと睨みつける遊作の視線は冷ややかだ。遊作は遊作で了見のことも尊のことも応援しているから、良くない波風を立てるような行動には眉を顰めがちなのだ。それが面白くないのだと思いながらも口にはしないAiは、悪戯を叱られた子供のように悪びれもせず肩を竦めるだけだった。
    「だぁってアレ、いい加減焦れったくなんない?」
    「ならば、面白がってはいないと?」
    「信用ねーなぁ。ま、面白いか面白くないかと聞かれたら、面白いにに決まってるんだけど」
     そう言って、Aiはけらけらと笑い声を上げた。本当にこのAIは、下手をすると遊作よりもよほど人間じみていてたちが悪い。
    「そんなことだろうと思っていた」
    「やだ遊作ぅ、そんな褒めんなよー」
    「褒めていない」
     遊作はぴしゃりと切り捨てると、夕飯の買い物をして帰るから、先に帰ると告げて席を立った。Aiもそれに続こうとしたが、カウンター越しの草薙に捕まってしまう。
    「おーいAi、一緒に帰らせてやりたいのは山々なんだが、バイトの時間があと一時間残ってるんだよなぁ」
    「うげっ、バレちった」
    「真面目にやれ。これも早く拭かないと染みになるぞ」
    「えぇー?これもオレが片付けるの?」
    「自業自得だろ」
     騒ぐAiを冷たく一瞥しただけで、遊作はさっさと出ていってしまった。その後ろ姿を眺めながら、ぽつりと呟く。
    「遊作ちゃん、連れないよなぁ。はーあ、了見先生がこれでうまく元サヤに収まったら、オレにも協力してもらおっかなぁ」
     その呟きが聞こえた者は、誰もいない。
     
     
    「…………おかえり」
     帰宅するとリビングには尊がいた。最低限の挨拶は返してくれるが視線は合わず、その上そそくさと移動しようとテーブルの上を片付け始めていた。やはり、避けられている。だが、ここで引き下がっては元の木阿弥だ。
    「尊。少し話がある」
     意を決して声を掛けると、弟はぴたりと動きを止めてこちらを見た。だが、すぐに視線を逸らしてしまう。
    「え、と……ごめん、今課題やってるから、後に……」
    「待ってくれ」
     慌てて引き留めようと腕を掴むと、びくりと肩が震えたのがわかった。驚かせてしまったらしい。申し訳ない気持ちになりながらも、掴んだ腕を放すことはできなかった。
    「頼む、少しだけでいいんだ。時間をくれないか」
    「……、わかったよ……」
     懇願するように告げると、尊は小さく頷いてくれた。ほっと安堵の息を吐いて手を離す。そのままソファに座るように促すと、彼は素直に従って腰を下ろした。それを確認して自分も隣に座る。
    「それで。話って、何?」
     沈黙を破ったのは尊の方だった。彼はどこか落ち着かないといった様子でちらちらと了見を窺っている。そんなにこの場に留まるのが嫌なのだろうか。もしかしたら尊の中ではもう整理がついて、了見など鬱陶しいだけになっていたりするかもしれない。などという恐ろしい想像が過ぎってしまい、思わず首を振って振り払う。深呼吸をしても尚神妙な面持ちで、了見はゆっくりと口を開いた。
    「Aiから聞いた。……兄離れを、考えていると」
     口にするのも嫌だ。他の人間ならいざ知らず、尊には一生不要な単語だと思った。しかし、尊はそれを行動に移そうとした。自分はそれほど恋愛を我慢しているように見えただろうか。いいや、尊に関しての我慢であれば、していたが。
     それとも兄離れを考えるほど不甲斐ないと感じさせてしまう何かがあったのだろうかと問う了見に、尊は慌てて首を振った。
    「ちがうよ。そうじゃない。兄さん……了見は、なんにも悪くなくて」
    「では、なにがあった?Aiの話を聞く限りでは、誰かに何かを言われたのではないかと推察したが」
     図星だったのか、尊の肩がぴく、と跳ねる。了見は強制することはなかったが、できれば話してほしいと視線に込めて弟を見つめ続けた。その視線に耐えかねてか、尊はしばらく逡巡した後、恐る恐るといった様子で口を開く。
    「……この前、名前は知らないけど、女子の先輩にね。言われたんだ」
     
     ――鴻上くん、ちょっとお兄さんに甘え過ぎじゃない?あれじゃ彼女作る隙もなくてかわいそう。
     
     了見は一瞬言葉を失った。半信半疑なりにAiから話は聞いていたが、そんな言葉を真に受けるほど悩ませていたなんて。
    「それは……その女子生徒が勝手に言っているだけだ。私は十分自由にやっているし、誰かと交際するつもりもない。何を言われても、聞く必要はないんだ」
     きっぱりと断言する。尊は安心したような、しかしまだ納得しきれない様子で俯いた。
    「じゃあ、どうして最近素っ気なかったの?本当は僕のこと、ちょっと邪魔とか思ってなかった……?」
     不安げに揺れる瞳に胸が痛む。
     なんということだろうか。尊が悩んでいるタイミングでの、ここ最近の了見の行動は完全に悪手であった。
     了見が尊に抱く邪な感情を隠すためとはいえ、接触を減らしていたことを恐らく尊自身も感じ取っていた。そこへ学校でのあの一言を浴びせられて、いつまでも了見に甘えてばかりではだめだと考えるようになったのだという。
    (余計な真似を……!)
     一体どこの誰だ。調べ上げて校則に違反があれば教師に罪状を叩きつけてやる。とはいえ、その生徒の発言が決定打だったとしても、今回の件は了見自身の責任でもあった。彼としては代えがたい日常を守りたかっただけであり、弟にそんな顔をさせたかったわけではなかったのに。
    「違う。そんなことはない。……あれは、私が……」
     歯切れの悪い兄の言葉が珍しく、尊は首を傾げる。
    「私が?」
     真っ直ぐな瞳が向けられる。下手な誤魔化しはかえって誤解を生むだろうが、しかし了見は自分の抱く邪な感情を、ありのまま弟にぶつけるつもりはなかった。
    「……私が構いすぎても、お前は嫌気が差すのではないかと」
     絞り出すような声で答えると、尊はきょとんと目を丸くさせる。それから「なにそれ」と。そんなわけないだろうと、尊は笑い出した。
     ――本当は話してしまいたい。お前が好きなのだと。家族よりもっと、愛したいのだと。話して、自覚させて、楽になってしまいたい。
     しかし、それは叶わない。弟の道が了見のせいで踏み外されるのは、どうしても許せなかった。
    「あの、さ……だったら、ぎゅってしてもいい?」
     不意に、了見にとっては毒でしかない、甘えた要望が聞こえてきた。驚いていると、いつの間にかすぐ隣にまで来ていた弟がじっとこちらを見つめている。ここのところずっと我慢してきたから、反動で甘えたくて仕方がないという顔。
    「ね、いいでしょ?」
     小首を傾げて問われれば、頷く以外の選択肢などなかった。了見がいいとか悪いとかではない。尊がそう望むのなら選択肢など、はじめからない。戸惑いながらも両手を広げてやると、尊は嬉しそうにそこへ飛び込んできた。この短期間でもいくらか成長したような気がする。段々と大人に近づいていく弟の身体は既に、当時の了見よりもしっかりしているかもしれない。
     その身体を受け止めると同時に、尊からもぎゅっと抱き締められる。久しぶりに触れる弟の体温に、鼓動が速まるのを感じた。それを誤魔化すようにそっと頭を撫でてやると、擽ったそうに声を上げる様は古い記憶の頃より変わらない。
    「へへ……」
     その嬉しそうな声に、愛おしさが募る。このまま腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動に駆られた。
     ――可愛い弟。大切な家族。ずっと側にいて欲しい宝物。
     その想いは確かに本物なのに、なぜ了見の今は、こうも苦しいのだろう。
     悩むことに疲れたのか、それとも久方ぶりの弟に触れて気が抜けてしまったのか。
     
    「……、すきだ」
     思わず零れ落ちた言葉は、紛れもない了見の本心だった。尊に冗談を言わない了見にはそのように誤魔化す術はない。驚いたように身じろぐ尊を、せめて逃さないようにと強く抱きしめる。
     ――好きだ、愛している。そんな陳腐な言葉が、口には出ないものの頭の中を埋め尽くしていく。
    「りょう、……けん?」
     了見はゆっくりと顔を上げると、至近距離にある尊の顔をじっと見つめた。戸惑う瞳の奥にはどうしてか、期待の色を見つけてしまって。自ら積み上げたはずの強固な防壁が、まるで積み木のように。指先のほんの一突きでいとも容易くがらがらと突き崩されていく。
     
    (ああ、もう)
     
     ――本当に、欲深い。どうしようもない。
     了見は自嘲するように小さく笑うと、無防備は尊の唇に自らのそれを重ねた。
    「――!」
     びくり、と尊の身体が震えるのがわかった。それでも止まれない。構わず口付けを続けると、やがて強張っていた身体から力が抜けていくのが感じられた。おずおずと背中に回された腕が彼に許された証のようで歓喜を覚えながら、角度を変えて、好きだと想いを込めて何度も唇を重ね合わせる。時折漏れる吐息すら飲み込むようにして深く貪ると、縋るようにシャツを握る手にぐっと力が込められた。本気で跳ね除けるならとっくに飛ばされているのに。こみ上げる愛おしさに堪らなくなって、一層口づけを深めていく。
    「ん……ふ……」
     鼻にかかったような声を漏らして、尊が身体を震わせた。そろそろ限界かと唇を解放してやると、荒い呼吸で肩を上下させながらも熱っぽい瞳で見つめられて、どきりと鼓動が跳ねた。潤んだ瞳はまるで誘っているようで、理性が飛びそうになる。だが寸でのところで踏みとどまった。これ以上はいけない。これはただの兄弟としての触れ合いではないのだから。
     名残惜しさを振り切るようにゆっくりと身を離すと、尊はくたりと脱力したようにソファにもたれかかった。ぼんやりとした表情でこちらを見上げる姿は扇情的で、再び手を伸ばしそうになるのをぐっと堪える。
    「……悪い」
     それだけ告げて立ち上がろうとすると、袖口を引っ張られた。振り返ると、真っ赤な顔をした尊がこちらを見上げている。
    「りょ……け」
     ――もっと。
     掠れた声で囁かれた瞬間、頭の中で何かが切れる音がした。気が付けば細い肩を掴んでソファに押し倒していた。驚いた様子の尊に構うことなくもう一度、唇を塞ぐ。今度は最初から舌を差し入れたが、抵抗されることはなかった。それどころか応えるように舌を絡めてくるものだから、一層激しくなっていく。息継ぎの合間に漏れ出る甘い声に頭が沸騰しくらくらした。
    「んっ……ふぁ……」
     どれくらいそうしていただろう。ようやく満足した頃にはお互いすっかりと息が上がっていた。組み敷いたままの弟は酸欠のせいかぐったりとしていて、涙の滲んだ目元には生理的に浮かんだ涙と朱が差している。その様子を見ているとどうしようもなく劣情を煽られてしまうのだが、さすがにこれ以上続けるわけにはいかない。了見は小さく息を吐くと、身を起こして弟の上から退いた。
    「大丈夫か?」
    「……ん、……――?……っ!?」
     尊はぼうっとしたまま頷いたかと思うと、急に我に返ったかのように飛び起きた。そして絶句したまま口ぱくぱくとさせた後、そのまま逃げるようにリビングから出ていってしまう。バタンと荒々しい音を立てて閉ざされた扉を見つめながら、普段なら乱暴に扉を閉めるなと叱りつけるところだが、それもできず。了見はその場に留まる以外にできることがなかった。
     ふらりとソファーへと雑に凭れ、天井を仰いでは大きく息を吐く。
    (やってしまった……)
     時間差で襲ってきた後悔に頭を抱える。遊作にあれほどの啖呵を切っておきながら、この体たらくだ。情けないにもほどがある。
    「はぁ……」
     溜め息と共に目を閉じると、先程の光景が瞼の裏に蘇ってくる。
     触れた肌の感触も、漏れた声も、蕩けた表情も。全てが網膜に鮮明に焼き付いていて、離れない。思い出すだけでも身体が熱くなる。
    「くそ……」
     悪態を吐きながらも、脳裏に浮かぶのは先ほどのことばかりだ。どれもこれも煽情的すぎて、正直言ってかなり危なかった。あのまま続けていたら間違いなく完全に止められないところまでいってしまったに違いない。了見が抱く弟への想いのは、そういう類のものだった。
     そうならなくてよかったと思う反面、惜しいことをしたという気持ちが拭えないのもまた、事実であるのかが度し難い。
    「……たける」
     一人残った空間でぽつりと、弟の名を呟く。もう何度呼んだかもわからない名は自分でも驚くほど甘く掠れていて、了見は余計に自己嫌悪に陥ったのだった。
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