猫でも愛して!(仮) いつものように死神に抱き潰され、どっぷりと疲れ切って倒れるように眠りに落ちたその翌日。珍しく寝坊したベルベットは、誰かが優しく髪を撫でる感触で目を覚ました。
「ん……にゃ、あい、ぜん……?」
何かがおかしい。
わずかに感じる違和感に、ベルベットは思わず眉間にシワを寄せる。
「ようやく起きたか。大変なことになったぞ」
それを肯定するように、目の前の男が言った。……もっともその手のひらは相変わらずベルベットの頭を撫で続けていて、まったくもって焦っている様子ではなかったが。
「大変なことってにゃに……にゃ⁈ にゃんで、にゃ、にゃ、にゃ──っ、⁈」
おかしい。絶対におかしい。確かに自分の声なはずなのに──なんで。
「猫ににゃってるの⁈」
【猫でも愛して!】
「落ち着いたか?」
ひとしきり騒いだあと。どっと疲れたベルベットを見下ろして、アイゼンが尋ねてくる。
「……にゃんでそんなに余裕にゃのよ」
千年生きると、もはや猫になるくらい日常茶飯事なのだろうか? 聖隷とはやはり人間とはまったく違う生き物らしい。
今となっては業魔になって久しいベルベットだったが、それでもまだ感覚は人間のままだ。永く生きる者の気持ちなど、未だ想像もできない。
「これでも結構驚いてはいるぞ? ──もっとも、いつもの死神の呪いに比べれば、このくらい些細な問題だとは思うが」