アイベル進捗②「姐さん、こっちっすよ! 今日は大漁っす!」
自分を呼ぶ明るい声に、ベルベットはぼんやりと眺めていた海から甲板へと視線を移した。
どうやら別働隊の探索船が戻ってきたようで、甲板には拾得物が所狭しと並べられている。
「本当ね。魚に野菜……たくさんあるわ」
ベンウィックの持つ箱を覗き込んで、ベルベットは脳内で献立を思い浮かべる。確か香辛料はまだいっぱいあったから、煮魚にするのもいいかもしれない。
「今日は魚をメインにしようかしら」
ベルベットは軽くレシピを考えると、うん、イケる、とひとりごちる。ベンウィックから魚を受け取りさっそくキッチンへと向かうと、そこには既に先客がいた。
「アイゼン、何してるの?」
こんなところにいるなんて珍しい。
「ああ、ベルベットか。今パルミエを作っている」
男の意外な答えに、ベルベットはぱちぱちと何度も目を瞬かせた。
パルミエ──確かパイ生地を折り込み、葉っぱ形にして焼くお菓子だったか。
頭の片隅にある記憶を手繰り寄せて、ベルベットはなんて似合わないものを作っているのだろう、と瞠目する。
「……甘いもの、好きなの?」
男の手中で可愛らしい形に姿を変えるパイ生地を眺めながら尋ねる。
「いや、妹の好物なんだ」
返ってきたのはもっともらしい答えで、ベルベットはなるほど、と内心大きく頷いた。
あいにくお互いの探し人はまだ見つかっていないが、再開できたときの手土産ということだろう。
「ふぅん……器用なのね」
生地は目にも止まらぬ速さで完成して、次々と天板に並べられていく。まるで魔法のように進められるそれに、ベルベットは思わずそう呟いた。