言葉を残す おや旦那がた、何かお求めですかい。いやいや、ひやかしでも結構で。まあ、こいつらは派手なもんでも見目麗しいもんでもないんで、割と素通りされちまう。一見何かわかりゃあしませんしねぇ。
刀装…なるほど、旦那がたは御刀さまで? 確かに見た目は似ておりますなぁ。使い方もまあ、同じように展開していただければ結構です。ただ、こいつらは武具ではござんせんし、一回こっきり、それだけの代物でございやす。
へぇ、こいつらは言わば昔話ですなぁ。とある時代のとある場所、そこで起こったことを語ります。ヒトの子の世界にカセットテープやらレコーダーってのがありましたでしょう。もうなくなって久しいようですがね。今の主流は何と言いましたでしょうかねぇ。ヒトの子の流れはほんと速くてかなわねぇや。
ああ、話がそれちまいましたな。まあ、そういう類のもんだと思っていただければようござんす。我々はヒトに比べりゃ長生きですからねぇ。あれこれ見聞きした古老がごろごろしておれば、中には講談師もかくやと巧みに語る御仁もある。そういう御仁の語りをね、ちょいと詰めたモンがこいつらで。ちなみにこいつは関ヶ原、むこうは阿波沖、そいつは伏見城のようですなぁ。
旦那がたはどちらの御家の出で? …ははぁ、北の方ですな。なら、南の話がようございましょうなぁ。ああ、これなんかはどうですかね。こいつは田原坂、こっちは島原の話でございます。
「…どうするんだ、そんなもの」
「なぁに、件の本丸の報告書と一緒に片しておこうかと思ってな」
「…物好きな」
「褒め言葉として受け取っておくぜ」
「…好きにしろ」
深いため息。白く凝ったそれが雑踏に薄れて消える。
「けどまあ、面白い技術だな、これも。ついでに作り方を訊いておけばよかった」
「訊いてどうする」
「きみに伝言を残しておけるだろう?」
「伝言」
「ああ」
「文字で十分だ」
「まあ、手紙というのもいいものだがな。けど、ヒトの子は声から忘れていくというから」
からからと笑う鶴丸の声。もう一度ため息をこぼし、足を止めた大倶利伽羅が口を開く。
「鶴丸」
「どうした、伽羅坊」
「…言い残したいことがあるなら、直接言いに来い。でなければ、聞かない」
数歩先で振り向いた鶴丸の表情が、一瞬固まり、そうしてやわくほどける。
「…ああ、きみもそうしてくれ」
「ああ、当然だ」
こちらへと差し出される手のひら。そこに己の手を重ね、肯く。密やかな、しかし確固とした約束。
「忘れてくれるなよ、きみ」
「あんたこそ、忘れるなよ」