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    torinokko09

    @torinokko09
    ♯♯一燐ワンドロシリーズはお題のみお借りしている形になります。奇数月と偶数月で繋がってますので、途中から読むと分かりにくいかもです。

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    三月ワンドロ導入話 (自主ワンドロ)
    片思い中の一彩と、気づいてない燐音の三月の話

    ##一燐ワンドロ

    三月
     燐音は旧館の元自室で、弟についてぐるぐると思考をめぐらせていた。弟がおかしい。それは常識がまだ身についていないとか、素っ頓狂な方向へと理解を飛ばして行動を起こしたりではなく、ただ燐音に対してだけ、おかしいのだ。
    「何を吹き込まれたんだ…?」
     ベッドで胡坐をかく燐音の前には、かわいらしい空箱と、未開封のチョコレートがあった。空箱はバレンタインに弟がくれたものだ。中にはマロングラッセが入っていて、ニキに教えてもらいながら作ったらしいそれはとてもおいしかった。だから、普通にお礼を言って「遅くなったけど」と、燐音はお返しのバレンタインを渡そうとした。一彩ほど器用ではない自覚がある燐音は、おとなしくデパートでそれらしいチョコレートを買ったのだが、一彩はそれを拒否した。
    「お返しはホワイトデーがいいな、兄さん」
     じっとみつめるように言った一彩は、燐音の手にチョコレートを返した。未開封のまま戻ってきたチョコレートを見ながら、燐音は一彩の意図を考えた。何を思ってホワイトデーにこだわるんだ?寮内では仕事ついでに、と互いにお菓子を配りあう姿をよく見ていたし、燐音もそれにならっただけだ。何が一彩を不満にさせたのだろう。そうして思い出すのは、年明けのことだった。
     一彩がやんちゃをしたと燐音は学院から呼び出しをもらった時のことだ。先生に怒られしょげている一彩を見たときは何をしたんだと思ったが、話を聞いたところ、そこまで大したことではないようだった。成績を気にして落ち込む一彩を慰めて、一緒にファミレスへ行くところまではよかった。いつも通りとんちきな吸収の仕方をする弟の知識を聞き流しながら、定食を食べて一息ついたとき、燐音のスマートフォンに急ぎの電話がかかってきた。それにいらつきながら上着を手に取った時、一彩にキスをされたのだ。むすりとした表情の一彩は、それきり視線を合わせずに「いってらっしゃい」と言った。なんでキスしたんだ、と口から出かかって、電話越しの急かす声が燐音の思考をビジネスへと傾ける。結局その場は何となく誤魔化してファミレスを後にしたのだが、ひと段落して一彩へお詫びのチャットを送ろうとしてはたと立ち止まった。どうしてキスしたんだ? 首をひねった燐音に答える者はおらず、迷った末燐音はそれをなかったことにしてチャットを送った。
     その後は特に気になる言動もなく、しいて言うならいつもより距離が近くなったなくらいなもので、燐音は、あの時のキスは弟の甘えたが気を引こうとしただけだと結論付けた。それにしてはやりすぎな気もするが、小さなころは弟の頬にキスしたことがある。その延長線で、うっかりだろうと思っていた。だって、天城家はそう言ったことに厳しく育てられているし、弟も同じはずだ。燐音は数多い天城家のルールの中で、それだけは許容していた。確かに過度ではあるが、苦手な人だっているはずだからだ。世の中にはプラトニックラブなんて言葉もあるくらいだし、燐音は自身の『そういったこと』に関する位置づけをプラトニック寄りであると認識していた。だから、弟の言動が分からないのだ。
    「ホワイトデーにって言ったくらいだから、なんかあるはずだよな。なんか考えろってことだよな」
     そう呟きながら、燐音は改めて弟の言動を振り返った。一月のキスをされた日から、距離が近くなって、ボディタッチが増えて、話すことが目に見えて多くなった、気がする。シナモンにいれば高確率で出会うし、チャットで夕飯に誘われることもあった。バレンタインの日だって、わざわざ待ち合わせをしてもらったのだ。
    「……いやいや、ありえない」
     燐音は思い当たった可能性におおげさに首を振った。ありえない。身内だぞ。そう呟きながら、ごろりとベッドに転がる。スマートフォンには弟からの通知が来ていて、どうやらまた夕飯を一緒にしたいらしい。
     どうすべきか迷っていると、こんこんとノックの音がした。
    「はーい」
     ここに入るのはユニットメンバーか一彩くらいなものだから、燐音もおざなりに返事をした。ノックをするのは、以前着替え中に開けられて燐音が小さな悲鳴をあげたためである。がちゃりと開けて入ってきたのはニキで、ベッドに転がる燐音と空箱を見比べながら、なんてことない口調で言った。
    「あれっ、まだ弟くんのそれで悩んでるんすか、んもう」
    「お前なんか知ってんな? あいつなに吹き込まれたンだよ」
    「いやいや、誰も吹き込んでないっすよ。強いて言うなら、バレンタインにあげるなら、ってマロングラッセの作り方教えたくらいかなぁ」
    「えぇ? 確かにマロングラッセは美味しかったけど…」
     悩む燐音を無視して、ニキは部屋のベッド下から非常食を取り出すと、もそもそと食べだした。幸せそうにほおばる姿を見ながら、燐音はニキの言葉にはっとして、手元のスマートフォンで検索サイトを開いた。ずらりと並ぶマロングラッセの意味に、燐音は顔を赤くしながら頭を抱えた。
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