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    きもいさん

    @kimoisan

    なんかできたら置いていきます。

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    きもいさん

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    支部より再録。2018年の茨くんの誕生日に間に合わなくて
    2019年の茨誕に上げようとして遅れたらしいです。(キャプより)
    あんすすで書いたギャグの中で一番気に入ってるかもしれない。
    えでん年長組とお師の頭が大変残念です。お好きな方だけどうぞ。

    #Edenみか
    edenaceae
    #茨みか
    thornyMound
    #凪みか

    閣下が子猫を拾ってきたであります!/Eden×みか「ねぇ、茨。アニマルセラピーって知ってる?」

     唐突にそう聞かれ、茨はノートパソコンから顔を上げた。
     今日は夜から都内のスタジオで、Eden四人でのレコーディング。打ち合わせから参加している茨が早く到着しているのは当然として、次にやって来たのは放課後どこかへ出掛けていた凪砂だった。
     迎えを出すか聞くと、よく見知った場所から向かうので平気だとやんわり断られたのは昼間の事だ。博物館や図書館へ行く際には同様に断られる事もあるので、今日もきっとその辺りに出掛けたのだろうと思っていた。
     およそ普段の凪砂からは出てこないような言葉に、正直どんなリアクションを取れば良いか悩む。
     概要なら分かりますが、とひとまず答えると、ソファーには座らず立ったままの凪砂が微笑んで見下ろしている。
    「いつも茨には頑張ってもらってるから、少しでも癒されてもらおうと思って」
    「動物で、ですか?」
    「うん。今日は茨の誕生日だろう? 私からのプレゼントに、猫を連れてきたんだ」
     誕生日。記憶にないだろうとばかり思っていたのに覚えていた事が意外な上に、プレゼントまで用意してくれるとは。
     おまけにそれが猫だというのだから、一体どうしたのかとつい怪訝そうな顔になりかける。
    「いえいえ、閣下からプレゼントなど、自分のような者には勿体なさすぎます!! そのお気持ちだけで十分であります!」
    「大人しそうな子なんだ。きっと撫でていたら茨も心が穏やかになると思うよ」
     咄嗟に作った笑顔で敬礼する茨にさらに微笑むと、ちょっと待ってて。と控え室を出ていってしまう。
     まさか本当に猫を? と疑問符しか浮かばない。何かを教えれば教えた事をそのまま覚えてしまう凪砂の事なので、誰か知人にでも唆されたのではないだろうか。
     そんな心配をしている間に、笑顔で凪砂が腕に抱えてきたものを見て、おお……! と大袈裟なまでに感嘆の声を上げる。
    「さすがです! 閣下のお目にかかるだけあって、とても色白で濡れ羽色の艶やかな……、毛並みの……」

    「……人間んんんんんんんんんんんーーーーーーーっっ!!!??!?」

     腕の中のものを見つめて笑顔で続けていた言葉は早々に叫び声に変わっていた。
    「も、申し訳ありません閣下っっ! 自分、若輩者ですのでどう見ても人間に……おまけに夢ノ咲の生徒に見えるであります……!!」
    「よくわかったね。夢ノ咲で保護したんだ。芝生で寝ていたから」
     おもわず立ち上がり、動揺で内臓が口から飛び出しそうになりながらも何とか事実を述べると、その光景を思い出しているのかポヤポヤと幸せそうに微笑まれる。
     そんな凪砂の腕の中にいるのは、茨が叫んだように猫などではない。
     人間の、しかもアイドルの。
     夢ノ咲が誇る、かの格式高きユニット・Valkyrieのメンバーである二年生の生徒、影片みかが身体を丸めて眠っているのだった。
     これだけ大声で叫んだ茨の声も聞こえないのか、すやすやとよく眠っているみかを愕然とした目で見てしまう。
     ついに人間を持って帰ってきてしまった……。
     常人には分からない思考回路で猫と思い込んでいるらしい凪砂の顔に、悪気など一切ない事は窺い知れる。
     そもそも軽々と抱き上げているが、それなりに身長もある高校生男子だ。いくらみかが痩せているとはいえ、何故そんな平気そうな顔のままずっと持っていられるのか。
     おそらく初めから捨てられてもいなかっただろうに、夢ノ咲で拾った、いや、保護したという部分が引っ掛かり聞いてみると、今日凪砂は夢ノ咲へ行っていたらしい。
     元fineのメンバーであるつむぎから、図書館の蔵書ではない考古学の本が出てきたので凪砂の私物ではないかと問い合わせが来たのだという。
     題名を聞いても記憶にはないが、忘れているだけかも知れない。現物を見てみようと直接行ってみた。結局本は凪砂のものではなかったが、凪砂の興味を引く内容ではあったそうだ。拾得物として一定期間持ち主を探して、現れなれば図書館の本として申請をするという。
     いくら元生徒とはいえ敵校に単身乗り込むなどと知っていれば、おいそれと一人では行かせなかったのに。舌打ちしそうになるのを何とか堪える。
     夢ノ咲に関わるものは極力近付けさせたくはないのだ。あと、完全に誘拐してきた形になっているこの生徒もだ。
    「命を預かるなどという重大任務を、自分ごときが遂行出来るとは思えません。辛いですが、どうか元いた場所へ戻してきていただきた……いえ、自分が行ってきましょう!」
     嘘も方便、辛そうな表情を浮かべ心にもない事をさらさらと並べて行く。
     言っている途中で、凪砂に捨ててくる事など出来るはずもないと思い直して眠っている身体を引き取ろうと腕を伸ばした。
     が、凪砂は抱き上げている手にさらに力を込め、困ったように茨を見つめ返す。
    「ダメかい? 私がちゃんと面倒も見るよ……散歩もブラッシングもきちんとするから……」
    「ああ……っ! そんな捨てられた子犬のような澄んだ瞳を向けられましても!!」
     図体は大きいのに、言っている事もやっている事も動物を拾ってきた子どもそのものな凪砂に、おもわず手で目許を押さえた。
     そんな事言って、どうせそのうち面倒みる事になるのはお母さんでしょ!? 脳内に流れてくる、よくある母子の茶番劇にも泣きたくなってくる。
     そう、キャラ造りをしなければ何も知らない子どもそのもののような目の前の人物に、どう説明したものかと様々なパターンを思い浮かべながら言葉を選ぶ。
    「閣下のお手を煩わせるだなんてとんでもありません! あと、猫だとすれば散歩は無用かと!」
    「そうなのかい? 猫は散歩をしなくても良いのか……」
     つい付け足してしまった言葉は余計だと内心後悔するが、凪砂はよりによってその言葉に反応する。
     そこはスルーして戴きたかったのに! と頭を抱えたくなった時だった。

    「君たち! 廊下まで声が響いているよ!!」

     ノックもなく突然開け放たれたドアから、甲高い声と共に日和が現れた。
    「申し訳ありません……、ですが日和殿下も、どうか閣下を説得していただきた……、ぬわァァァっっ!???!?」
     助け船とばかりに一瞬胸を撫で下ろした茨だったが、そっとドアの方を見れば。
    「はい、凪砂くんっ。ご所望の着替えだね!」
     にこにこと、まるで咲き誇る大輪の花のような笑顔で手にしていた衣服を高く掲げていた日和に変な声が出る。
    「子猫とはいえ思ったよりも大きいからね。仕方ないから後日改めて買いに行くとして、今日のところはジュンくんに着てもらおうと思って買ったのに全然着てくれないこの服にしようねっ」
     やたらフリルが揺れるその服は、どう見ても男が着そうな服ではない。
     絶句している茨と違い、凪砂は微笑み頷いている。
    「さすが日和くん。この子によく似合いそうだ。可愛いね」
    「ぼくがわざわざ選んだアリス風なエプロンドレスだね! ちなみに今のアリスは広瀬でも有栖川でもなく不思議の国の方だよね! ジュンくんがどれだけ似合わないか検証して笑おうと思ったのに……!」
     ドヤ顔でしれっと語られる事実にひそかに戦々恐々とする。
     似合わないだろうからあえて着せようとする、何と恐ろしい。おそらくどころか確実にただの暇潰しの思いつきだったろうに、こんなフリフリな服を着させられそうになったジュンには同情を禁じ得ない。
     その点だけで言えばこの没落貴族とそこまで近しくなかったのは幸いだと頭痛を覚えている間にも、みかをソファーに下ろした二人は至極真面目な顔で相談している。
    「じゃあ、とりあえず着てもらおうかな」
    「猫に服を着せるのは初めてだから難しそうだね。どうしてこんな時にジュンくんはいないんだろうね」
    「そもそもお二人とも何をどこで判断して猫だと思っていらっしゃるのかお伺いしたいですね……」
     答えを期待した訳ではないが呟いてみると、凪砂は不思議そうな顔で振り返った。
    「英智くんが子猫だと教えてくれたんだけど。……違うの?」
    「僕は凪砂くんの言葉は否定しないよ。その方が楽しいからね!」
     澄んだ瞳で聞いてくる凪砂の横で日和が笑う。
     夢ノ咲に一人で行ったばかりか、よりによって一番会って欲しくなかった人間にコロッと騙されているあたり嘆かわしい。あと楽しければ何でも良さそうな横の男は少し黙れ。
     茨のこめかみで血管が音を立てそうになっているのにはお構い無しで、二人がみかの制服を脱がそうとし始めた時だ。
    「……ぅ~ん…………。……ふぁ?」
     眠りを邪魔されたからか身動ぎしたみかが、ようやく薄く瞼を開けた。
     特徴的な琥珀色と瑠璃色のオッドアイが姿を現し、ぼんやりと見上げている。
     その瞳がようやく焦点が合い始めると、目の前の凪砂と日和の顔を見つめ、次の瞬間には限界まで大きく見開かれた。

    「んあああああああああっっ!」

     途端に涙目になり、凪砂の腕の隙間をすり抜けて目にも止まらぬといった速さでソファーの後ろへ回り込む。
    「な、な、なんやあんたら……っ!? こ、ここっ、どこやねんっっ!?」
     ソファーに隠れながら叫ぶ姿に、うんうん、と日和が頷いた。 
    「あれは警戒して威嚇しているんだね」
     フーッと荒い息づかいで毛を逆立てている姿は確かにまるで猫そのもので、日和の説明にへぇと呟き凪砂もしきりに頷いている。
     おいでと手を伸ばすがぶるぶる震えながら威嚇し続けているみかに困ったように眉根を寄せていた凪砂がふと、思い出したようにポケットを探り出した。
    「……そういえば、英智くんに『ちゅーる』というものをもらったよ。猫が大好きらしいね」
     そして取り出したのは細長いスティック状の包み。切り口から開けてみかの顔の近くまで差し出す。
    「いや……さすがに人間には……。……?? …………は?」
     呆れたように言いかけたのに、みかは凪砂の手に持ったものを見た瞬間に目を輝かせ顔を近づけている。
     クンクンと匂いを嗅いで、それから嬉しそうに袋から少しだけ出した部分を美味しそうにペロペロと舐め始めた。
     まるでCMで見た通りの光景に、頭の中に疑問符しか浮かばない。
    「……何でありますか、それ」
    「夢ノ咲の購買部で売っているらしいよ」
    「おれこのチューイングキャンディ最近お気に入りやねん~。めっちゃおいしいわ~」
     舐め始めたみかはもっともっとと凪砂の手を両手で持って食べ続けている。さながらその光景は本当にちゅーるを与えた猫のようで、凪砂も日和も目を細めて眺めている。
     もはや自分一人ではツッコミきれなくなってきた光景に、余計に頭が痛くなってくる。
    「こんな時にジュンは一体どこに行ってるんですか……」
    「もう帰ってくる頃だと思うね」
     自分の認識に自信が持てなくなってきた。
     常識が分かる人間を求めて、ついそう呟く。日和の言葉に、そうですか。と低い声でしか反応出来ない。
     二人にまとめてツッコまねばならない重圧に堪えかねていると、そんな茨の願いが通じたのか廊下を歩いてくる足音が聞こえた。

    「おひいさん~。例のキッシュ、並んだのに目の前で売り切れましたよ~」

     続く、ドアを開けるなりげんなりした声のジュンが、どれだけ救世主のように思えた事か。
    「もうっ、さすがジュンくん。全然使えないね! 悪い日和!」
    「いやいや、売り切れ必須とか言いながらあんな時間から急にあんたが食べたいなんて言い出すからっすよ……。って……」
     ぷりぷり怒る日和に返すジュンが、室内に入ってきた早々目の前の光景を見て動きを止めている。
    「……………………何やってんすか……」
     目を眇めて、見たくないが状況は何とか把握しなければというような視線と低い声でそう唸る。
     ようやくまともな人間が……! と内心感動のあまり泣きたくなっている茨になど気づくはずもないのに、どうせろくな事ではないだろうと察してGOD DAMN……! とすでに舌打ちしている辺りがさすがである。
    「いつも頑張ってくれてる茨の誕生日に、アニマルセラピーはどうだろうって」
    「夢ノ咲で子猫を拾ってきたんだね! 僕達は博愛の精神を持っているからね!」
    「いや……どう見ても人間ですし……。誘拐沙汰とか勘弁して下さいよマジで……」
     悪気もなく続けられる言葉に、えぇ~……と頭を抱えている。
    「……あんたも和んでていいんすか~? 昔自分達のユニットをぼろ負かした相手ですよ?」
     心底嫌そうな顔で唸りつつもこの二人に常識など通じない事は分かっているので、頭を撫でられている事にすら気づいていない様子で幸せそうに何か餌のようなものを食べ続けているみかの方に声を掛けた。
     言われたみかは、キョトンとして自分の目の前にいる凪砂と日和を見上げる。
     しばらくそのまま見ていて、はっ……! と突然驚いた顔になった。
    「よぉ見たら、あんたら……! 昔のfineにおった人達やん!!」
    「はぁ~……。今さら気づいたんですか~……?」
     気づいた瞬間に凪砂の手を叩いて再びソファーの後ろへ逃げるみかに、ジュンが肩を竦める。だが拒否られた日和と凪砂は、何故か嬉しそうに笑う。
    「懐いたと思ったらこの仕打ち! 本当に猫は義理堅くないんだね!」
    「これが噂に聞く猫パンチ……。ふふ、健気な攻撃だね」
     うんうんと楽しそうに何度も頷く日和と、叩かれた手を軽くさすりながら微笑む凪砂。逃げたみかは二人をソファーの陰から睨みながら、シャーッと威嚇している。
    「お……っ、おれを誘拐してどないなつもりや! お師さんはもう負けへんからな!!」
     威嚇してはいるものの、睨むその目には涙が浮かび、震えている姿は小動物のようだ。落ち着かせようと手を伸ばした凪砂は、みかの言葉に動きを止めた。
    「…………? 私達に負けた…?」
    「僭越ながら閣下、それは猫ではなくValkyrieの影片みかさんですね!」
     首を傾げ復唱しているので、今がチャンスとばかりに茨が説明をする。
     言われた凪砂は茨の顔を見てから、口許に手をやり中空に視線を移した。
    「Valkyrie……。ああ、斎宮くんの……」
    「アイドルなのに笑顔の一つもなく自分達の芸術とやらを押し付ける、ファンの子達のことを何も考えていないステージだったね」
    「何やとぉっ!?」
     記憶を辿り凪砂が呟くと、横で日和は対戦した時の事を思い出しているのか、呆れたように肩を竦めている。
     煽られてむきになるみかが、キィーッと悔しそうにソファーから顔を出す。
     そんなみかに、凪砂はあらぬ所を見ていた視線を戻す。睨んでくる目を見つめ返しながら、ふっと微笑んだ。
    「……でも、私は嫌いじゃないかな。衣装もセットも凝っているし。相当細かくモチーフにする題材を調べ尽くしているんだろうね。それに茨がこの間映像を見せてくれた、博物館のライブがあったろう? 昔と違ってユニットの印象が随分変わっていたし、とてもあの博物館に相応しいライブだったよ」
     たまたま博物館のリニューアルオープンでライブがある事を知った凪砂が、そのライブを観たいと言ったのは数日前だ。
     映像は入手出来たが、まさか過去のものも含めそこまでValkyrieについて細かく覚えているとは思わなかった茨が目を丸くしているのに、凪砂は変わらずみかに微笑んでいる。
    「あそこは昔からよく行っていた博物館なんだ。素晴らしいライブにしてくれて、ありがとう」
     腰を屈めて、改めて手を伸ばす。
     ゆっくり頭に手が置かれる間にもみかはそんな凪砂をじっと見上げている。
     逸らす事なく注視してくる瞳は本物のオッドアイの猫のようだ。表情もなく見上げている整った顔もまるで人形そのもので、人形が何故か怖いと感じたり不気味に見えるというのは、こういった、欠点のない造形美のせいなのかと茨は妙に納得した。
     やがて、一つ瞬きをした異なる色の瞳が、少しだけ細められた。
     陶器のような頬に赤みが差し、表情筋が緩んでいく。
    「…………あんた、よぉわかってるやん……」
     照れ顔で俯くみかの頭を、ゆっくり凪砂の手が撫でる。
     しばらくそのまま撫でられていたが、そのうち気持ち良さそうにさらに目を細めて自分から凪砂の手に頭を擦りつけ始めた。
    「猫は突然デレるからね! まったく気まぐれだよね!」
    「気まぐれって言葉をあんただけには言われたくないですけどね……」
     言いながら笑顔で自分も撫でに近寄って行く日和の後ろで重苦しいため息が吐かれる。
     二人に撫でられまくるみかは何故か喉をゴロゴロ鳴らしていて、抵抗する事もなく凪砂に抱っこされてソファーの上に戻された。
    「……それより、本当に誘拐みたいだから保護者に連絡の一本でも入れといた方が良くないっすか~?」
    「野良猫だと思ってたけど家猫だったんだね! 毛並みがいいからそうじゃないかとは少し思っていたんだよねっ」
     過干渉が過ぎる程に撫でられまくり、んあんあと声を漏らしているみかを眺めて、警戒心とは……と仕方なく提案すれば、にこにこ笑いながらそんな言葉を返される。
     いや、あんた分かってたでしょ……そう顔に書いてあるのにあえて言わないジュンが、茨を見た。
    「茨、斎宮さんの連絡先は?」
    「何で俺がお前の命令を……」
    「うんうん。茨くん、ぼくからもお願いするね!」
    「了解であります! 少々お待ちを!」
     ただ聞いてみただけなのに舌打ちする茨は、日和の明るい声にはコロッと態度を変えて敬礼する。
     その様子に辟易している間に、ローテーブルに置いていたノートパソコンを数秒操作してからスマホを取り出し、笑顔で茨は振り向いた。
    「さ、日和殿下。どうぞ!」
     そのままローテーブルに置かれたスマホからは、何だね? 何者かね? という声が聞こえている。
    「やぁ、斎宮くん? ぼくは巴日和だね! 久しぶりすぎてそろそろぼくに会いたくなってきたんじゃないかな?」
    『……………切るぞ』
    「あぁ待って! 今切ったら悪い日和!」
     日和が話し始めた瞬間に舌打ちする音と、続けて低い声で言われるので日和がとっさに呼び止める。
    「うん~、何故なら~? 今ぼく達は、君の可愛いお人形のみかくんを預かっているからだねっ!!」
    『なっ……、影片だと……っ!?』
     大袈裟なまでに堂々と言い放つ日和に動揺した声がする。気づいたみかが、「お師さんや~!」と嬉しそうに声を上げたのが聞こえたせいで事実だと悟ったのか、さらに舌打ちの音がした。
     どう聞いても誘拐犯な言い種に頭が痛い。そもそもこの人に話をさせるのが間違いなんじゃ……と目配せをしてくるジュンに、茨は小さく首を振る。
    「そうだよ! まさに今、猫可愛がりしているところだね!」
    『くっ……、………………何が望みだ……』
    「フフン、返して欲しければ…………。…………ぼくに美味しいキッシュを用意して欲しいね!!!!」
     猫可愛がりの意味がよもや本当に言葉の通りだとは思わないだろうに、問われて誘拐犯よろしく返ってくる要求が予想に反して馬鹿馬鹿しいにも程がある。
     電話口の宗の声は怒りで震えているようだ。そろそろきちんと説明した方が……とジュンが一歩前に出ようとすると。

    『き……、貴様ァァァ……っ!! 具材は何が好みなのだねっっっ!?』

     歯軋りの音と共に返ってきた言葉におもわず壁に頭をぶつけそうになる。
     リクエスト聞いてくれるんすか!!!!!??!? 全力でツッコみたいのに、電話の向こうからは止めどなく舌打ちする音が聞こえる。
    『…………焼く時間が欲しい。二時間……、いや、三時間待って欲しいのだよ』
    「しかも手作り!?」
     何かカリカリ聞こえるのは、爪でも噛んでいる音だろうか。
     しかしジュンの予想の斜め上を行く返答に驚愕している間にも、具材やこのスタジオの場所等、日和と宗はどんどん話を進めている。

    『それまで影片に何かしたらただではおかないのだよ!! せいぜい手を洗って待っていたまえ!!」

     怒り心頭といった様子で叫んだ声を最後に、通話を切られた。
     捨て台詞すらも若干おかしい。洗うのは首じゃないのか。ただのお母さんですかとツッコミを放棄した顔のジュンが黙りこくっている。
     さすがは元五奇人。よもやここの二人と同じようなベクトルで、常人には理解出来ないような会話がなされるとは思っていなかっただけに、あれが保護者で大丈夫なのかと絶望感にも似た感情に苛まれる。
     それなのに誘拐犯風な会話を繰り広げた日和は、三時間も待ってあげるなんてと自分の優しさを誇示し、褒め称えるように強要してくる。仕方なく、あ~はい。すごいっすね。と適当に返しておく。
    「それはいいとして、みかくんは凪砂くんに懐きすぎだと思うね」
    「んあ~、撫でるん上手いわ~……。お師さんの手みたいやわ~……」
     そんなに気持ち良いのか、凪砂の手に自分から擦り寄っているみかの頭を、日和も後ろから撫でる。
    「後で斎宮くんが迎えに来てくれるからね。それまでゆっくり遊んで行くのがいい日和☆」
     にこにこ笑いながら撫でている二人が、ふと茨を見た。
     すっかり安心しきって撫でられているみかの両脇に手を差し入れ、本当に猫の身体を持ち上げるようにして凪砂が茨を呼ぶ。
    「……さぁ。茨も撫でてみて」
     まだ諦めてなかったのかと思うと同時に、本人と会話までしながらも何故まだそのアニマルセラピーとやらを続けられると思っているのか。まったく理解出来ない。
    「いや、自分は結構であります」
     はっきりきっぱりお断りすると、微笑んでいた顔に翳りが差した。
     あからさまにシュン……としている凪砂と、無表情で断る茨を交互に見ていたみかが。
     突然、ムッとした顔になった。

    「この、メガネがーーーーーっっ!!」

     そして唐突に猫パンチと見せかけたアッパーをかまし、眼鏡が本体とばかりに茨の眼鏡を吹っ飛ばそうとした。
    「は!? え、なっ、何……っ!?」
     茨が反応出来ない程の一瞬の出来事に、放物線を描いた眼鏡は寸でのところで床に落ちる前にジュンが受け止めた。
     茨はといえば、床にお姉さん座りのような態勢になり頬を掠めた指の関節がやはり痛かったのか、まるで、親にもぶたれた事ないのに! 系な顔で頬に手をやり驚いたまま立ち上がったみかを見上げている。
    「自分、なんや!! そんな、男子ーっ! 女子ーっ! 眼鏡ーっ! 言われたら男子の時よりメガネの時の方が絶対大きい声出しそうな顔して、何やねん!!」
    「いや今ここでaik●のライブネタは全っ然関係ないでしょ……」
    「おれにはよぉわからへんけど! せやけど……っ!」
     怒りながらの例えが意味不明だが何とかツッコむジュンの声など聞こえないのか、みかは声を震わせている。
    「この人、あんたのためにしてくれてるんやで! その気持ち、わかったりぃや!」
    「…………影片くん……」
     悲しい顔になった凪砂の為だろう。みかが凪砂を庇うように茨に対峙しているのを見て、茨は目を丸くさせている。
     みかの名前を呼ぶ凪砂も驚いている。言われてみれば、その顔はまた捨てられた子犬のような顔になっているのだ。
    「……も、申し訳ありません……!! 自分とした事が…くだらない常識にとらわれて、閣下のお気持ちも考えず…!!」
    「せやせや! わかったか!」
     反省して謝罪を口にする間も、調子良く煽ってくる声に一つ息を吐いて瞼を閉じた。
     常識にとらわれてはいけない。こいつらに常識を押しつける方が無理な話なのだ、そう自分に言い聞かせながらも、確かに寂しそうな顔の凪砂に罪悪感も生まれる。
     まぁ、撫でるだけでこの場が丸く収まるのなら……と、若干どうでも良くなってきているという事もなきにしもあらず。
    「………………では、遠慮なく……」
     さらに一つ息を吐いて、言葉のわりには遠慮、というより躊躇いがちに手を伸ばした。
     満足げに頷いていたみかの頭に。ぽすっと手を乗せる。 
     ぎこちない手が撫で始めて、ようやく何かおかしいと思ったのか、不思議そうにみかがその手を見上げている。
    「……いや、あんたをペット扱いするって話ですからね、そもそもが」
    「んあ、そうやったん!?」
     もしやと思いジュンがそう説明してあげれば、ようやく事態を把握したらしきみかは素っ頓狂な声を上げた。
     ええ~……とぐったりするジュンは、もはや当事者さえも分かっていなかった事に絶望する。もう何でもいい。早く引き取りに来て欲しい。そして早くレコーディングをして、帰らせて欲しい。
    「すまない……、でも茨のために少し我慢して」
    「おんっ、ええよ」
     だが申し訳なさそうに言う凪砂に対してはいたって軽く応えていて、チョロいにも程がある。
     大人しく撫でさせているみかが、やがて少しだけ。身動ぎする。
     いつまで撫でていれば良いのかと思いつつ、何の感慨もなく茨も手を動かす。
     なでなで。
     ……ムズムズ。
     ……ナデナデ、なでなで…。
     …………ムズムズ、ムズムズ……。
    「……ん、…………んあああっ! 自分、撫でるん下手くそかっっ!」
     凪砂に撫でられていた時と雲泥の差で落ち着きがなくなったみかが、再びの猫パンチを繰り出す。
     しかし今度はそれを見越していたように茨も身を翻して攻撃を避けた。
    「ああ……っ! やはり自分には、動物の扱いは無理のようであります!」
    「そう……。少しでも茨にゆっくりしてもらいたかったのに……。撫でている間に一緒にお昼寝でもしてくれたらって……」
    「いやぁ、誠に残念です!! 自分は小さい子どもではありませんので!!」
     お手上げといった風に両手を上げると、凪砂はまたもや哀しそうに俯く。しかし一度譲歩はしたと今度は茨も絆されない。
     言葉のわりには残念だなどと微塵も思っていなそうな茨に、日和はツンと横を向く。
    「とはいっても、ぼく達の中では一番小さい子なんだね」
     子ども扱いされた事にカチンと来ているだろうに、いえいえ、と茨は表面上は笑顔を貼りつけたまま謙遜している。
    「たしかに、茨が寝てるとこなんて全然見ないっすよねぇ~」
     不穏な空気を感じているのはジュンだけのようで、また始まった.……と頭痛を覚えつつも、視界に入っていたおぞましいエプロンドレスを悪用されないようにとひそかに今のうちに回収する。
     バチバチの見えない火花が飛び交う中。
     日和と茨、凪砂の顔を順々に見ていたみかは、ぱちぱちと瞬きをしてから。
     そして、にっこりと笑った。
    「……お昼寝させたらええの? それやったら、おれ得意やで」
     凪砂に向かって笑顔で言うので、うん? と首を傾げる凪砂にさらに笑顔を返す。
     みかはソファーに座り直し、ポンポンと自分の横の座面を手のひらで叩いて茨を見てくる。
     何をされるのかと嫌な予感しかしなくて、一応凪砂を見ると微笑んで見つめ返してくる。
     助け船など出すはずはないだろうが次に日和を見れば、楽しそうに口許が弧を描いている。ジュンに至っては、目を逸らされた。
     逃げ場はなさそうだと観念して、
    「……では、失礼します……」
     嫌々といった顔で、みかの隣に座った。
     革製のソファーの座面がまだ音を立てている間に、二の腕を引かれて身体を横に引き倒される。
     無理矢理膝枕の状態にさせられ、何が楽しくて男に膝枕などされなければならないのかと目が据わっている様子を、三人にじっと見られている状況もだんだん情けなくなってくる。
     なのに膝枕をしている本人は、ほとんど知らないであろう人間の頭を笑顔で撫で始めた。

    「ほな、みか兄ぃと一緒にお昼寝しよか~」

     気の抜けた声が頭上から聞こえて、苦々しい顔で舌打ちしてしまう。
     何がみか兄ぃだ。自分の事をよくそんな風に呼べるなと呆れて睨むのに、言った本人はといえば。
     馬鹿にするような様子は一切なく、少し細めた、慈愛に満ちた優しい瞳で見下ろしてくるのだ。
     その瞳に映る茨は、確かに驚いているはずなのに。二つの色の瞳に映るその表情は、まったく違う顔に見える。

     琥珀色の瞳には、目を真ん丸にした今の茨。

     瑠璃色の瞳には。どこか拗ねたような、寂しさすら滲んでいる、幼い頃の茨。

     見えるはずのない自分の姿が映って、驚いておもわず忙しなく瞬きをすると、当然のようにそんな筈はなく。二つの瞳ともに今の茨が映っていた。動揺のあまり目線があちこち揺れる。
     そんな茨を見下ろす瞳は相変わらず優しい。文句を言おうと口を開きかけたら、前髪を指先で払われ、ん? と小首を傾げ微笑まれるので毒気を抜かれて身動きが取れない。
     この距離でこの瞳に見つめられているのが落ち着かない。いよいよ逃げ場がない気がして、仕方なく瞼を閉じた。
    「寝られんくても目ぇ閉じとったらな、ちょっとでも疲れがとれるんよ~」
     そんな声と共に、肩口をゆっくりと。トン、トン、と。指先で軽く叩かれ始める。
     髪を撫でる指も、肩を叩く指も、どこまでも優しい。目を瞑った事により、その指の感触ばかりに意識が集中してしまう。
     子どもじゃないのだから、そんな風に寝かしつけられても。そう呆れていると、やがて、歌が聴こえ始めた。
     ……少し掠れ気味の優しい声が。
     茨にはタイトルが分からない、はるか昔に聞いた記憶がある童謡を紡ぐ。
     すぐ上から聴こえている事にもしばらく気づかなかった程にその声は耳障りが良く、鼓膜というより頭に直接響いてくるようだった。
     そんなことで眠くなるわけないのに……そうは思うのに。
     だんだん緊張していたらしい身体から力が抜けて来たのは分かった。
     三人が無言で見守る中、数分後には。
     すっかり寝息を立てて眠っている茨の姿があった。
    「…………すごいね。子猫だと思って拾ってきたけど、お姉さん猫だったんだね……」
    「うちにはブラッディ・メアリがいるからね。飼えないよ、ジュンくん」
    「そんな希望持ってねぇんで大丈夫です
    よ……」
     驚きながらも嬉しそうに微笑む凪砂の横で、日和も楽しそうに笑う。
     ため息を吐きながら応えるジュンが、宗に見られたらどう弁明したものかと今から気が重くなる中。
     騒々しい物音と共に宗が乗り込んでくるまでの間、茨は眠り続けたという。
     


     迎えにきた宗と一緒にタクシーに乗り込むみかが、ほなな~。ばいば~い。と元気良く手を振っている。
     そのタクシーが交差点を曲がるまで手を振り続けていた日和と凪砂が、名残惜しそうに俯く。
    「…………ジュンくん」
    「嫌っすよ。もう誘拐沙汰はごめんっすからね」
     察して先に答えるジュンは、早々に中に戻ろうとしている。
     人前で、おまけにあんな状況で。実は心地好く眠りについてしまった事は一生の不覚だと思っている茨も凪砂を促して建物へ戻ろうとするが、凪砂は俯いたままだ。
    「閣下、冷えますので中に……」
    「……ねぇ、茨。今日は……迷惑だったかい……?」
     ポツリと呟く声に、動きが止まる。
     あの奇行も、元を正せば茨の誕生日に何かしてあげたかったからというものだ。
     茨を喜ばせるどころか怒らせてしまったと気にしているのだろう。凪砂は浮かない顔のまま俯いている。
     凪砂を利用しているだけの茨の為に。何かをしてくれようと思ってくれた事が意外だったし、どこかくすぐったいと思うより、本当に理解が出来ない、という方が強い。
     けれど、それでも。
     小さい子どもが、親の誕生日に頑張ってくれようとしたのだと。そう例えてみれば迷惑を掛けられたとしても、怒るのは筋違いという気もしてくる。
    「迷惑だなどと! 閣下のお気持ちが有り難く、恐悦至極であります! …………ただ……」
    「ただ?」
     胸を叩いてそう宣言する。が、やはり少しだけ。出来れば、茨の要望も覚えていて欲しいと、付け足してしまった。
     他人に何の感情も持たないであろう目の前の身体だけ大きな小さな子どもは。茨の言葉の続きをただ待っている。

    「ただ……。やはり人前で寝顔を晒すのは如何なものかと思いますので……、アニマルセラピーとやらは今後は控えて戴きたいものではあります……」

     不機嫌そうな顔を隠しもせず言っているのに、思い出して僅かに耳が熱くなってきてしまう。
     凪砂はふんわり微笑み、覚えておくね。と答えた。
     時間が大分押してしまったが、無事に今日予定していた部分のレコーディングも終わり帰ろうとした時に。
     ジュンが隠したまま置いて帰ろうとしたエプロンドレスを見た日和が、みかの毛並みを思い出したのか、今度ブラッディ・メアリとお見合いさせようなどと言い出したので、凪砂もまた捨てられた子犬のような表情で茨を見た。  

    「ねぇ、茨。でもやっぱりあの子猫、欲しくなっちゃったな……」

     どうやらこの顔に弱いと今日だけで何度も確信した茨は、敬礼をしながら
    「閣下のご命令とあれば! 善処しましょう!」
     と、力強く答えてしまうのだった。


     
     それから数日後。

     その辺で寝ていたり倒れていてはいけないと口酸っぱくみかに言い聞かせていた宗の元に。
     今後についての大事な話がしたいと、Valkyrie宛にコズプロから連絡が来たのは、また別のお話であった。




    おしまい。
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    「……んぶぅ、っ、……んぁ」
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