ないものねだりのわたしたち 空いた穴を埋める様に、私たちは求め合う。きっとこれは意味の無い非生産的行為。その中で何かを得ようとする私たちを見て、彼等は笑うのだろうか。それとも哀れだと嘆くのだろうか。
埋める術は彼等に委ねられている。しかしそれを知るのもまた、私たちだけなのだ。
――スペルビア行きアルス船。時刻は午後十時過ぎ。雲海をゆったりと進むアルス船は月明かりを反射する雲海に線を描いていた。
二人一部屋で使用する船室はさほど広くは無いがかと言って狭すぎる訳でもない。船室の奥にある丸い小窓からは流れ行く雲海と藍色に染まった空が見える。まるで丸く切り取った写真のような風景。その小窓を僅かに開ければ、肌を擽るような夜風が忍び込んで来る。その風を浴びながらニアは雲海の先をじっと見詰めていた。
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