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    松宮くん

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    松宮くん

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    ロナドラ/ドラロナ/左右不定
    ・ダンスに狂って最初に衝動的に書いた文

    2021-12-17 支部掲載分

    #ロナドラ
    Rona x Dra
    #ドラロナ
    drarona
    #左右不定
    indefinite

    答えを求めて ほんの些細なことだ。気づいてしまえば手がつけられなくなってしまった。例えばそう、洗濯物が少し上手く干せるようになった。昼間洗濯物を干すのはロナルドの当番だから。調味料が増えた。サラマンダーとか何とかゲームの敵みたいな名前の調味料もあったはず。何に使うんだアレ。諸々用途が理解できない調理器具がいつに間にか増えていた。一人の時はどうしていたか思い出すのが難しくなった。

     立てかけられたフライパン。清潔感が保たれたシンク。作り置き用のタッパー。包丁の数もいつの間にか増えていた。エトセトラエトセトラ。数えるのもバカらしくなるほど、当たり前になりすぎて気にもとめていなかった日常の変化。ロナルドの目下の悩みはそうした日々のちょっとした変化をがやけに気になるようになってしまったことだった。

     ことのはじまりは何の変哲もなく、ただ唐突に。あの吸血鬼が相棒のマジロを連れてオータム書店で泊まり込みの企画に参加することになった時の話だ。ご丁寧に彼は冷蔵庫に1日分の食事を用意していた。"私がいない間にキッチンを荒らされたら困る"とキッチンを我が物顔かのように豪語して。実際カップ麺とコンビニ弁当で済ましてしまうつもりだったので作り置き自体は非常にありがたい話ではあったのだが。作り置き自体もいつものことであるし、実際泊まり込みの話を聞いたときも適当に流していた。

     料理上手の吸血鬼お手製のミートボールが電子レンジの中で回転する様をぼんやりと眺めていた、そんな時だった。ソースの濃厚な味が染み込んだミートボールが皿の上でぐるぐる、ぐるぐる。早くあったまんねえかなあ、と電子レンジの残り分数が待ちきれなくなっていたとき。きっかけはたったそれだけ。

    ――事務所ってこんなに静かだったっけ?

     存在自体が騒がしい同居人がいないだけで事務所には電子レンジの駆動音しか響かない。メビヤツやキンデメだって事務所にはいる。床を叩けばヒナイチも顔を出すだろう。同居人が不在にするのは稀なことではない。過去に何度もあった事だ。でも何故かその日だけはささくれだった心がいつまで経っても落ち着かなかった。徐々に温められていくお手製の料理。ひとりで暮らしていた時は気にも留めなかった静寂。それが当たり前になっていたから。久々に、同居人がこの事務所に居座る前の頃を思い出しただけ。目の前で回るミートボールとかつて電子レンジの主な客人であったコンビニ弁当の姿が重なっていく。そうだ、昔は――

     仕事仕事仕事仕事仕事仕事。思い出したかのように必要に駆られて家事をする。退治が長引いて朝帰りになる日も少なくない。ボロボロになった衣装を適当に洗濯籠に放り投げて、泥のようにソファで眠る。1日経った汚れは中々落ちなくて、四苦八苦した。兄貴は本当に凄い人であったと噛み締めた。どんなに帰りが遅い日だってロナルドや妹の面倒を必ず見ていた。家事だってこなしていた。それに比べて俺はたった一人なのに何をしているんだろうと落ち込むこともあった。射撃の腕は上がっても、計量カップの使い方やレシピの見方はいつまで経っても上手くならなかった。コンビニ弁当は料理ができないロナルドにとって生活必需品だったのだ。

     ―チン、と温めを終えた音で今目の前にあるのはコンビニ弁当ではなく同居人のお手製ミートボールであったことを思い出す。昔とは変わっていた。何もかも。当たり前だ。キッチン、リビング、ベランダ、玄関、洗面台。洗濯かごに放り投げられた洗濯物。

     最後に衣装を自分で洗ったのはいつだったか。ボタンが取れそうなら早めに言えと丁寧に縫われたボタンとアイロンがかけられた衣装を見て何も言えなかった。こびりついた下等吸血鬼の体液も綺麗さっぱり消えていた。同居人は意外にも家事を趣味としていて、ロナルドであれば針を糸に通す段階で挫けそうだった裁縫だって卒なくこなしてしまう。意外に器用なんだなと言えばこれくらいできて当然だ、家庭科の授業はサボっていたのかね、それとも針を全部折っちゃったのかな〜?と煽られたので針山から一針拝借して刺し殺した。礼をいえばその分煽りが帰ってくるような同居人とロナルドは何やかんたで日常を共有していた。裁縫針一つで死ぬ癖に、同居人が縫い留めたボタンは今だに解れてはいない。あれも、これも。何もかも。電子レンジの前で身動きがとれなくなる。ミートボールを早く食べなければ味が落ちてしまう。せっかく作っておいてくれていたのに――。

     せっかく?ぐるぐる、ぐるぐる、思考が巡る。ジョンが回し車でダイエットをしてる図が浮かび上がる。可愛いなあジョンは。ヌー、と鳴く声はいつも愛らしい。だからそうじゃないって。ぐるぐる。ぐるぐる。気づいてしまえば最後、答えの出ない問いがロナルドを苛みはじめたのはたった一食のミートボールからだった。

     それからしばらくして。珍しく〆切も無く退治人の仕事もない突然の休日にも拘らずロナルドの思考の七割は日常の気づき百選に割かれ続けていた。脳の容量と時間の無駄遣いにも程がある。qs4でネットフィリップスのホーム画面を起動したものの、目が滑って何も頭に入らない。裁縫針と電子レンジだとか洗濯物だとか余計なことばかり考えてしまい結局ただ無為に時間を過ごす羽目になっていた。

    「あーーーーー落ち着かねえ……」

     時刻は15時半。チクタク、チクタク、時計の針が進む音が聞こえる。ただ気になるだけなのだ。気づかなかったことに気づくようになってしまった。気づいてしまえば後には戻れず日常の1つ1つに気を取られる。何も気しなければいいと考えてみても結局何にもならない。徒労だ。なぜ気になるのか、といった感情の根本部分にロナルドは蓋をしてひたすら毎日を浪費していた。いくら虚無に画面を見つめたり頭を抱えたところで何も解決はしない。それこそ退治や原稿に追われている時の方がよっぽど気が楽だった。

    「ヌヌヌヌヌン、ヌヌヌヌヌヌヌヌイヌヌイヌヌヌヌーヌヌ?」

     ソファで頭を抱えていればジョンがメモを手にロナルドの頭を優しく撫で、後ろから声をかけてきた。ころころと肩から転がり落ち、ロナルドの手元にすぽん、と収まった彼は折り畳まれた小さなメモを取り出しロナルドに手渡した。どうやら買い出しが必要らしい。休みならば買ってこいと言わんばかりに大量に書き込まれたメモに目を通せば自ずと本日の献立が浮かび上がる。

    「ヌヌヌイヌ!」
    「よっしゃ!!」

     今日の夕飯はロナルドの大好物だ。財布とエコバックをポケットに突っ込みジョンを肩に乗せてスーパーへ赴く。――卵を1パック。4個入りじゃない。10個入ったやつ。余ってもヒナイチのクッキーにきっと使われる。あれ?クッキーって卵使うんだっけ。黄色いし多分使うだろ。前作ってたとこ見たことあるし。――特選牛乳1パック。あの野郎、ここぞとばかりに高級牛乳を要求しやがって。心の中で悪態を吐くがオムライスに免じて常より1ランク上の牛乳を手に取った。肩の上で丸まっていたジョンが言うに主人が好きなメーカーらしい。ならちょうどいいか。ずっしりと詰まった買い物カゴの重さも今までは体験しなかった重さだった。卵だって一人では4個入りしか買ったことがない。10個入りを買っても腐らせてしまいそうで気が気でなかったし自分で卵料理を作ってもナンカタマゴテキトーニマゼタヤツにしかならなかったからだ。いや、それよりも!

    ――何もかもじゃねえか!たかが卵の数だぞ!

     牛乳を手にフリーズしているロナルドを心配してジョンに頬をぺしぺしと叩かれる。ジョンにも心配をかけさせてしまうなんていよいよ重症かもしれない。カゴの中を一つ一つ気にし始めたらそれこそスーパーから出られなくなる。買い出し1回で疲弊しきった脳はどうしようもないほどに糖分を欲していた。

    「ジョン、ドラ公には内緒だぞ……」

     ヌン!と元気な返事。牛乳コーナーの次はデザートコーナー。季節物の限定スイーツ。今の時期は栗と芋、秋の味覚。ジョンとロナルドの答えは一致していた。

    **

    「おらドラ公買ってきたぞ、起きてんのか」
    「ロナルドくんおかえり〜!おつかいきちんとできたかな?」
    「うるせえ、ほらこれでいいだろ」
    「満点!花丸!はじめてのおつかい!完!」
    「殺す」

     勢いよくグーで殺せばあっという間に砂になる。お決まりの光景だ。何がはじめてのおつかいだ。音程がトチ狂ったドレミの歌を歌う同居人を想像してつい殺してしまった。いれといて、と手だけ雑に再生した吸血鬼は冷蔵庫の方を指し示す。
    「卵は使うからしまわなくていいよ~」
    おう、と軽く返事をしてオムライスの味に心を踊らせた。同居人の作るオムライスは絶品なのである。
     結局、買い出しから帰った後も特に仕事もなく夕飯の支度を待つだけになってしまった。依頼もギルドからの要請も締切もないなんて貴重な1日だと理解しながらもいざ暇が舞い込んでくるとやる事が思いつかない。キッチンからは同居人が料理を作る音だけが騒がしく聞こえ、結局のところ当然のように今か今かとオムライスを待機している自分は一体何なのかと考え込み始めてしまうことになってしまっていた。あともう少しすれば食器を出せばいいはず、そうだそれまでやっぱりネットフィリップスで時間を––ダメだ集中できない!!!

    「あ、ロナルドくんこっちきて」
    「え?もうできたの?」
    「違うわボケ。はい、食べて。味見」

     スプーンの上に乗っていたのはケチャップで赤く染まったチキンライス。ほんのり香るバターが鼻腔を擽る。食べやすいサイズに切り刻まれた鶏肉が顔を覗かせていた。あーんと言われたままに口を開けぱくり、とチキンライスを咀嚼する。

    「うまい!おいしい。あまい、めっちゃいい」
    「うまい意外の言葉を知らんのか」
    「うまいもんはうまい」
    「ジョンもどう?ちょっと甘い?だよねえ」
     
     ロナルドくんってジョンより甘いのが好きみたいだからね。とジョンに告げ口する声が聞こえる。うそ。ジョンの方が大人舌なの。でもめっちゃ美味しいじゃんこのチキンライス。これにふわトロのたまごが乗るなら最強無敵のオムライスではないのか。ていうか、今あーん、って普通に食べたけどこれもどうなんだ。いつもジョンに味見をさせている時にたまにこうして味見を頼まれる時がある。最初のうちは小皿に分けて手渡されていたような気がしたけど、いつの間にやらこうしてジョンと同じようにあーん、と差し出されたスプーンを素直に受け止めている。疑問符だらけの毎日は更新されていくばかりで結局ロナルド用に味付けされたほんのり甘いオムライスは非常に美味しく平らげてしまった。同居人は食べ物を滅多に口にしないものだからジョンとロナルドが仲睦まじく食べる姿をただ満足げに見つめていた。

     それから結局しばらくして。洗い物も終え、やはり珍しく夜になっても呼び出しが来ないまま一日が終わろうとしている。果たして俺は一体今日一日を何のために使っていたのかと自問自答をすれば虚しくなるだけでワーカーホリック染みたロナルドは何もせず無為に思考を巡らすだけで一日を終えてしまうことに若干の焦りを持ち始めていたのである。このままではまずい、それにこのままずっと思考を苛まれ続けているわけにはいかない。そうだ、発端は全てこの同居人――吸血鬼ドラルクにある。洗濯物も、ボタンの縫い止めも、卵の数も、レンジの音と静けさも。家事を終えた元凶たる同居人は新作クソゲーの封を意気揚々と開け実にご機嫌である。日に日に荒くなる暴言を吐きながらクソゲーを楽しむドラルクの趣味はロナルドには理解できないが、ゲームを見ている内に案外このゲームはやり易いのではないだろうかとクソゲー審美眼が育ち始めていたのもまた事実であった。本当に、こんなことまで。何もかも、何もかもだ。

    「あのよ、ドラ公」
    「なに?」
    「あのさ」
    「はよしろ」
    「ちょっと待ってタイム」
    「5秒」
    「エーーン!!」

     ドラルクがゲームを始めてしまう前に呼び止めなければと勢い任せに声をかけたものの結局中身の伴わない呼びかけは勢いだけでは通じない。呼び止められた本人もクソゲーVSしどろもどろでダル絡みをするロナルドならば容赦なくロナルドを切り捨てるだろう。クソゲーに負けるって何だ。クソなのに。俺の方が面白いだろ。何言ってんだ。悲しくなる。

    「延長なしでーすはい時間〜」
    「ふざけんな今5秒経ってねえだろうが!!!!」

     はいはい、そうですね、そうですね〜。と適当に受け流しドラルクはクソゲーのパッケージを開封していく。待てやゴラァ!と襟を思い切り引っ張ればその衝撃でまた死んだ。

    「で、結局何が言いたいんだね!!!!」
    「……俺にもわからん」
    「ハ〜?自分でわかんないことを私に押し付けるな脳みそ5歳児単細胞〜!!知性はどこにおいてきたんでちゅか〜??」
    「うるせーーーーー!!!!!!」

     本日数度目の殺害。引き止めたくせに何も言えずにテンパって無駄に突っかかって殺して何してんだと理性が囁いている。何を気にしている?何に一体自分は気づいてしまった?目を逸らすようなことではない。ただ直視ができないだけ。気づけば終わってしまう。気づけば始まってしまう。きっかけは日常の至る所に潜んでいる。目を背けたいのではない。向き合うべきだ。

    「ちっちが、違うんだよ、クソッ、調子狂う……だからさ……」

    「だから?」

    「ア〝ーーーー!!!!ァーーー!!ぁあああああぁあああ………俺だって、俺だって色々考えてんだよ、きちんと言うべきことくらいわかってる、わかってんのによ頭が追いつかねえし口に出そうと思うと全部とっ散らかっちまう、くそ」
    「わあ、見てジョン、ロナルドくんがバグってる」
    「ヌヌ〜」
    「だからよ……だから何だ……?何が……?」
    「私に聞くな。狂ったAIか。……いや今日の君本当におかしいぞ。熱でもあるのかね。これ以上無駄に絡まれても迷惑だ。ホットミルクでも用意してやるから今日はさっさと寝――」
    「エーーーーーーーン!!違う!!違うんだよお!!!!」

     感情がまとまらない。いつになく全く要領を得ず、脱稿ハイでもなくただバグり続けているロナルドを見つめるドラルクの視線はシンプルに辛い。レンジでチンしただけなのにお前の作ったホットミルクなんか美味しいよな、やっぱり牛乳ばっか飲むからコツでも知って――違う、違うそうじゃない。ぐるぐる、ぐるぐる、まるで〆切日の朝のように追い詰められた脳みそはうまく機能してくれない。一体俺はドラルクに何を伝えたらいいんだ、何を伝えようと思ったんだ。どうすれば伝えられると思ったんだ。ミートボール、卵、解れないボタン、シャンプーの予備、畳まれたタオル。携帯し始めたエコバック。甘くて美味しいオムライス。言いたい事が山ほどある。言わなくてもいいと思ったけれど、それでも伝えなければいけないと思った事が。何も変わらないけれど、変わってしまった全てに対して告げるべき言葉があるかもしれないと思い始めたら手遅れだった。ただ落ち着かない感情の海の中でひたすら溺れている気分だった。何だか泣きたくなってきて、意味もわからず泣くのは悔しくて、その悔しさでまた涙が出そうになる。
     ドラルクの腕をがっしりと掴んだまま動かないロナルドはドラルクにとってはいいオモチャにすぎないだろう。ただ今日の様子はいつもと違うと察したのかまずは手を放せ、握力で死ぬと言葉の割に落ち着いた声がロナルドに投げかけられた。

    「何を悩んでるか知らないが。君は君が思うほどカッコ良くないし情けない。アホでゴリラで単純ですぐ泣いて味の好みはそれこそ5歳児だ。まあでも君が思うほど情けなくない」
    「褒めてんのか貶してんのかどっちかにしろ……」
    「褒めてんだよ。最後まで聞け」

     こいつこんなに口悪かったっけ。9割くらいは罵倒だし言われている事もいつもと変わらない。ぶっ殺してやりたい。ただ殺す元気も何故だか失せていて言われるがままに罵倒を受け入れている。何が褒めてるだ、おかしいだろ全部。

    「ウン……」
    「情けなくてもカッコつかなくてもどんなに不恰好でも一生童貞でえっちなお姉さんに夢見てておっぱい大好きで何が問題あるっていうんだ。それは君の取り柄でありこの世で一番面白い所だろうに」
    「問題しかねえだろうが……」

     言い聞かせるようにドラルクは告げる。それこそ得意げに。不甲斐ないロナルドの欠点を並べ立てそれこそがロナルドの価値だと言う。顔をあげればとびきりの笑顔を浮かべた吸血鬼。いつになく不安定なロナルドを励ましてあげるドラドラちゃん!と言わんばかりの口角の上がり方だ。罵倒が励ましになるなんてどうかしているだろう。でもあれこれ考えて逼迫していた脳内は落ち着きを見せ始めていた。

    「問題だらけで結構結構!君はそれでいいんだよ。まともになったらつまらないからね。くだらないことで悩んで醜態をずっと晒せばいい。そうでないと私は君で一生遊べないじゃないか!」
    「え」

     一生?こいつ、一生って言ったの?君“で”とかいう不届き千万な助詞はさておきこの男は間違いなく“一生”と口にした。一生とは何だろう。ぼんやりとした頭に突如降ってきた一つの答え。傲岸不遜な笑みを浮かべて世界一享楽主義な吸血鬼は口元を綻ばせる。一生。一生居るつもりなのか。吸血鬼と人間の寿命は違う。ロナルドの何倍をも生きてきた吸血鬼は当然のようにロナルドの一生を口にした。数多の悩みを一言で吹っ飛ばす程の一言。小さな事を気にして、変化に気づいて困惑して、受け入れている自分にさえ驚いていたのがバカらしくなる。

    「え?お前……ごめん、今……ん………?」
    「言いたいことはそれだけだよ。早く寝な青二才」

     私は今夜このクソゲーを堪能するからね!といつもの調子にドラルクは戻り、視線はクソゲーに釘付けだ。何を無駄にあれこれ考えていたんだろう。ドラルクは気づいているのだろうか。先程の爆弾発言に。いくら言葉を重ねようとしても、捏ねくりまわしても伝えられない事、伝えなくても良いことはそれこそ星の数存在する。解れないボタンも甘いオムライスも溶け込んで当然と化した日常を気にする必要はない。何かを形にせずとも示せばいい、望まれなくとも。ありのままの姿が全てだ。特別な言葉はいらなくて、きっと特別でないと思えるようになった事がかけがえのない煌めきなのではないか。

    「なあドラ公!」
    「なんだね!早く寝ろ!これ以上私からクソゲーを奪うな!」

     気づいた。気づいてしまった。なんだそんなことでよかったのか。情けなく引き止めたことも、不甲斐なさに涙を流しそうになった事も全てが馬鹿らしい。馬鹿らしくていい。日常の全てが変わっていた。取り返しのつかなくなるほどに毎日は狂騒で彩られている。その舞台の中心に自分達がいるというのなら行うべきはただ一つ、死ぬまで一生このバカみたいでどうしようもない毎日と踊り続ける事だ。

    「一生、退屈させねえからな!」

     飛びきりの笑顔で売り言葉に買い言葉。ドラルクがロナルドの一生を食い潰すつもりなのなら受けて立つ。一生退屈などさせてやらない。それこそロナルドウォー戦記最終巻の最終ページまで。ドラルクの視線は既にクソゲーへと戻っていた。疲れ切った頭は眠気を呼び覚ましロナルドを眠りに誘う。きっと明日からは何も悩まない。解れないボタンも、甘くてとろけるオムライスも、清潔感の保たれたキッチン、卵の数も。変化した日常の中で当然のように笑えばいい。最後の時に一言もう一度問いかけよう、

    ――俺の一生は退屈しなかっただろ?と。

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