溺れる海豚亭で2度目の夜を誘ったあの日、あれから俺とウェドは冒険者仲間としてだけでなく、時折夜を共にする関係になっていた。
勿論、ウェドがそうしたいと思ってくれている訳ではなく、ただ俺の誘いを断らないだけで俺はウェドのその優しさに甘えてしまっていた。
…とは言ったものの、実はまともに誘ったのは"件の二回目"の時くらいで、未だに自分から誰かを求めるという事に抵抗があり毎度どう誘ったものかと頭を悩ませている。
直接言う…のは恥ずかしい。しかしモグレターに「今夜セックスしませんか?」などと書ける訳もなく、いつも「今夜暇?」とか、「夜行ってもいい?」なんて遠回しに聞くだけで、そこからはウェドが俺の良いようにエスコートしてくれる。
恋人ならばそれでもいい、のかもしれない。
そう、恋人ならば。俺とウェドは違う。
俺が捌け口としてウェドを利用してるだけだ。最中どころかそんな所まで気を使わせて、このままでは遅かれ早かれ面倒臭いヤツだと愛想を尽かされてしまうだろう。
それはそれで仕方の無い事なのかもしれないが夜の相手としてはともかく、リムサ・ロミンサを拠点にするのならばウェドには嫌われない方が賢明だ、と思う。
なんとか今日は自分からリードして挽回をはかりたいところだ。
そんな事を考えていると、ギルドカウンターへ任務報告をしに行っていたウェドが硬貨の入った麻袋を持って戻ってきた。
「お待たせ。こっちは君の分さ。」
ウェドが麻袋をひとつひょいっと投げて寄越す。
麻袋のサイズはウェドが持っているものと同じに見えた。仕事はウェドの方が倍の働きをしているのに同じ報酬量なんて、きっと俺にプラスになる報告をしてくれたのだろう。
「おっと、俺は別にくすねちゃいないぜ」
俺は無意識に麻袋を握りしめながら眉間に皺を寄せていたようだ。
「…その逆だよ」
「俺は何もしてないさ」
ウェドが肩を竦めて笑う。
こういう所なんだ、こういう所が、きっとこれからどんどんウェドの負担になって行くんだ。
冒険者として追い付けないのなら、せめて体で返したい。俺からだけじゃなく、ウェドが俺を必要としてくれるのなら、俺は─
「あ、あのさ!」
「うん?」
「い、今から俺と、イイコト…しないっ!?」
思った時には口に出ていた。
口にしてからハッと辺りを見渡す。自分の声のボリュームすら制御出来ず、どれ程の声を出してしまったのか頭が真っ白になる。声も裏返っていたかもしれない。
幸い、今日の報告は俺たちが最後だったらしく周りに人はなかった。
酒場のカウンターのお姉さんと目が合ったような気がするけど気の所為ってことにしておく。
「くっ、はは…っ!」
「!」
口元に手をあて笑いを堪えているウェドの姿にカッと顔が熱くなる。
「ふーん、イイコトか…イイコトってなんだい?」
この男!絶っっっ対わかってる!!
わかってるけど、今日はそれをちゃんと言うって決めたんだ…!
「えっと…それは、アレ、あの、俺と…」
「君と?」
「〜〜〜っ!」
肝心な一言が絞り出せない。抱いてくれって言わなきゃいけないのに。
「─こ、こういう事ッ!!」
「!」
俺はもう半ばヤケになってウェドの足の間にするりと手を滑らせその中心にグッと触れた。
流石にウェドも驚いたように一瞬目を丸くしたが、すぐにしたり顔になり
「そうか、いけない子だな君は。じゃあイイコトしようか。うちに来るかい?それとも宿がいい?」
と俺のぎこちない手を掴み回収すると腰を引き寄せた。…耳まで熱い。
「……宿…っ」
ぽつりと言うのが精一杯。
本当はウェドの隠れ家の廃船が良かったけど、それこそ面倒臭いヤツと言うもの。
宿でする事して、俺が寝ている間にウェドは居なくなる。朝部屋にいるのは俺だけ。それでいい。
今日はウェドに気持ちよくなってもらうんだ。過去"そういう事"をして生きてきたんだ。多少なりとも自信はある。
覚悟しろよ、と心の中で宣戦布告をしてウェドの腕から抜け出し足早に宿部屋へ向った。