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    koshikundaisuki

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    12/4 影菅アドベントカレンダーチャレンジ

    #影菅
    kagesuga

    手と手「季節柄ってのもあるんだろうけど、最近ビニールが捲れなくなってきた」
    スーパーのサッカー台で、一向に広げることができない薄手のビニール袋を前にぶつくさ言う。隣から伸びてきた長く、骨ばった指がスルリと口をあけた。
    パック入りのキムチを中に入れると「お前はまだ若いからな……カルビもまだ食えるし」と言い訳のようにつぶやいた。
    脂っこいものがそろそろきつくなる年齢だな、というのが近年の同級生たちとのもっぱらの話題だった。しかしまさか指先の乾燥までも実感することになろうとは。

    子どもの頃、買い物について行ってビニール袋をあけるのは俺の役目だった。手伝いたい盛りの息子に何かやらせてやろうという親心もあったのだろうが、家事・育児に専念していた母親の手は少しかたく、少々かさついていた。あの頃の母親の年齢に、そろそろ近づいてきている。

    まとめた買い物袋を持とうとすると、先に重たいものが集中した袋を影山がさらっていく。残りを片手につかむと、夕方のにぎやかなスーパーを後にした。
    「袋だけじゃないんだよ、学校って未だにアナログって言うか、紙文化だろ?先頭の子たちにある程度配って後ろに回してもらうんだけど、もたもたしてるとすごいんだ、圧が」
    「子どもからの?」
    「そう、早く配ってくれって。手ずっと出されてるわけ」
    「小学生って常に疾走しながら生きてますよね」
    「競争なんだよな、何もかもが」
    腕を振ると、ビニール袋が足に当たってガサリと重い音を立てた。
    「学生の頃、プリントを配るときに指舐める先生いなかった?」
    「いましたね」
    「みんな嫌がってたべ?まあ普通に不衛生だしな」
    「そうっすね。その部分避けてましたよね」
    「あの頃はプリントめくるのに苦労したことなんかなかったからさ、なんで舐めるかね~って思ってたんだけど、最近俺もうっかりやりそうで怖い」
    隣で影山が笑うのがわかった。笑い事じゃねぇんだぞ、と文句を言いかけた瞬間、影山の右手が俺の左手に触れた。
    ぶつかったのだと思って「悪い」と言いかけたが、するりと手をつながれる。驚いた。影山はあまり外でのスキンシップを好まないからだ。よその人間に見られるのが恥ずかしいのだと言う。明るい時間に手をつなぐなど、以ての外だった。
    そんな影山の親指が、俺の指先のひとつひとつをなぞるように撫でていく。
    「最近ケアしてなかったから」
    「ん?」
    「爪も伸びてきた」
    「な、なに……?」
    影山が口を開きかけたタイミングで、対向から自転車が来た。影山がそっと俺の手を離す。
    それを少しさみしく思いながら、影山の手をチラリと見る。綺麗な手だった。手の甲には血管が浮かび、男性的で色気があった。また、皮膚こそかたいものの手のひらから指先まで、すべすべしている。常にボールを触っているからなのだろうか、指紋は薄い気がする。爪は程よい長さで、丸みを帯びていた。これもある種、職人の手なのだろうか。

    そういえば俺は爪を切った後、何度か誤って影山を引っ搔いてしまうことがあったが、こちらは影山の爪をあまり意識したことがなかった。切ったばかりの爪の断面は鋭い。爪切りの裏についているヤスリで削ってもガサガサしている気がする。
    「影山って爪切り、使わねぇんだっけ」
    「俺はヤスリですね。爪先のひっかかりとか気になるんで」
    自分の手をじっと見る。影山よりもずっと小さな手に、乾燥気味の皮膚。手を前にかざすと、夕日を受けて、指よりも伸びた爪が透けて見えた。月曜には体育もあるし、切らなければならない。
    「帰ったらやりますよ」
    影山から声を掛けられ、ふっと我に返る。
    「ん?」
    「ハンドケア。最近菅原さん帰ったら風呂入ってすぐ寝ちゃってたんで、あんまりできてなかったから」
    「え……!?俺のハンドケアって何……?あんまりって何!?」
    「いつも菅原さんがうたた寝してるときとか、酒飲んでるときとかやってるじゃないですか」
    「知らんが!?」
    「……酒飲みすぎですよ」
    呆れた視線が突き刺さるが、俺としてはそれどころじゃない。急にいろいろと腑に落ちてしまった。影山と暮らし始めてから、爪が伸びるスピードがやたらゆっくりになったこと。酒を飲んでいるとき、影山が構って欲しそうに俺の手をいじりだすこと。俺はてっきり影山が気を引こうとしているのだと思って可愛い可愛いと頭を撫でていたのに、自分でも気づかない間に爪を削られていたなんて。YOUTUBEで見た、注射をされていることに気付いていない犬の動画を思い出す。

    「……なんか、急に恥ずかしくなってきた……」
    己の勘違いに火照った顔でぼそりと呟くと、「今更でしょう」と影山が言った。
    アパートの階段に差し掛かるとき、影山の小指が伸びてきて、俺の小指をつないだ。
    手じゃなくて指ならいいと思ってんのかな?影山の中で、何か言い訳になっているのだろうか。意外と照れ屋な影山の、そんなところがたまらなくいじらしい気持ちになって、俺は小指を握り返した。

    終わり
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    koshikundaisuki

    DOODLEラッキーすけべでお題をいただきました、影菅ノssです
    ラッキースケベ(仮)聞いて欲しい。これは俺の懺悔と、とある追憶の記録だ。

    俺、菅原孝支は宮城県内某所で小学校教諭をしているごく普通の成人男性だ。俺には年下の彼氏がいるのだが、それはそれは可愛く、そして時には大変格好良い男で、バレーボール男子日本代表にも選ばれたトップアスリートである。名前は影山飛雄という。詳しくはWikipediaでも見てほしい。

    愛し愛されかれこれ8年ほど恋人としての関係が続いている。遠距離の時期が長く続いたこともあり、取り立てて大きな事件などは起きなかった俺たちだが、半同棲をはじめて1年半がたつ今、影山を怒らせてしまった。理由はさほど重要ではないので割愛するが、俺自身の不甲斐なさが原因だ。俺は自らの過ちを認めて非礼を詫び、彼の中にあった誤解を解くためそれまでの成り行きを丁寧に説明し、最後に影山を本当に愛していることを伝えて仲直りとなった。焦った。影山が小さな不満を貯め込み、それが表面に漏れてしまうことは珍しくないが、面と向かって不満を爆発させたのはほぼ初めてだったので、俺たちの関係もこれまでかと思った。抱きしめられた影山は落ち着くためにゆっくりと深呼吸をしたあと、シュンとした表情のまま「俺も、すみませんでした」と呟いたのでたまらない気持ちになる。でもそうだよな。長い付き合いだからこそ、きちんとお互いのことを話しいくべきだよな。
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