金属の冷たさと肌の温かさ 暗い部屋でベッドに横になってセルフォンを弄る。テキストの向こうには二十年は離れていた、付き合いがゆっくりと動きだした年の離れた人物がいる。あれから何度かのニューイヤーを迎える度に一緒に過ごせないかと申請を出していたが、其の度に向こうがトラブルを起こして休暇申請が取り消されたり、こちら側が海上任務に出ていたりと一緒に過ごせた例がなかった。
今年はおれの方が休暇申請が通ったが、向こうが無理だった。その代わりに数日ずらした日には、一緒に過ごせることになった。と分かったのは、いま分かったことだけれど。
「……マーヴェリックか」
後ろからくぐもった声が聞こえた。眠そうなそれは先程までセックスをしていた相手で、腰に回された腕が意志を持って引き寄せられる。
「悪い、起こしたか」
セルフォンの明かりを限界まで暗くしていたが、それでも寝ていたハングマンの目には眩しかったのかもしれない。項にぐりぐりと顔を押し付けられて、しばらくすると満足そうに深く息を吐いたそれがくすぐったくて、肩をすくめた。
「あのおっさん、なんだって?」
「うん、ニューイヤーとかは無理だけど、でも数日ずらして休暇取れるからその日に会おうって。俺もそこのまでなら休暇とってるから」
「……俺との休暇が少なくなる」
いつにない言葉に眉を上げてしまうが、久しぶりに会うのを、しかもニューイヤーを過ごすのを楽しみにしていた様子のハングマンだからこその言葉なのだろうと、少し年下の恋人が見せる顔がなんだか可愛らしかった。セルフォンをベッドに伏せると、ハングマンの腕の中で体を動かし向かい合わせになる。眠いのか、それとも不機嫌なのか眉を寄せている年下の恋人の顔に手を添えると、甘えるように頬が寄せられた。
「じゃあ、一緒に会いに行くか?」
「……行かない」
折角なんだから、二人きりで会えよ。唇を尖らせて強がるように言うハングマンは、もしかしたらブリーフィングでの振る舞いを思い起こしているのかもしれない。俺とマーヴを揺さぶったあの言葉は、ハングマンの中では間違っていないようだが、それでも恋人同士になった俺に対して思う所はあるようだった。
「休暇の最期はマーヴと過ごすけど、それまではお前と一緒だから。カウントダウンも、ニューイヤーも一緒に過ごそうな」
鍛えられた腕で力いっぱい抱きしめられて息苦しかったが、それが幸せに感じるのはハングマンの腕の中だからだろうか。マーヴに抱きしめられたのとは違った幸福。背に回されたハングマンの指に嵌められたそれが、皮膚のほんの一部をひんやりと冷やす。
「その先もこれからはずっと一緒なんだから、あんま拗ねんなよダーリン」
「それとこれとは別だ。でも、俺はいつだって絶好調で夫としても優秀だからな。これくらいは大目に見てやる。だから」
ちゃんとあのおっさんと過ごして来いよ。互いの肩からずれおちた毛布を首まで深く掛け直しながらハングマンは、いやジェイクはまた寝に入るようだった。絡まった足をすり合わせるとその温かさが心地よい。さっきまでの燃え上がるような暑さではなく、落ち着くような緩やかな温さがずっとこれからも傍にあるのだと思うと、泣きたくなってくるから不思議だ。
「おやすみ、ジェイク」
「お休み、ブラッド」
かざした自身の指に光る指輪をちらと見て、良い夢が見れそうだと俺もぬくもりを感じながら目を閉じた。