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    家出と猗窩煉
    ■現代パロディ、同棲
    ■生活に無頓着な煉獄と心配性の猗窩座

    #猗窩煉

    本当によく、些細な事で言い争いをした。帰りが遅くなる時は連絡が欲しいとか、洗濯物を部屋に持ち込まないで欲しいとか、一緒に出掛けている時に他の男によそ見をするなと言いがかりを付けてくる時もあった。一番最近では、普段料理を全くしない俺が珍しく台所に立ち、それを見た彼から「危なっかしいから二度と台所に入るな」と制された。年下の彼に子供扱いされた事にもカチンときたのだけれど、それ以上に俺の行動を制限しようとする物言いが気に入らなかった。気に入らなかったので、いつも以上に言い過ぎて派手に大喧嘩をしてしまった。人のいい大家さんから大層気を使った注意を受けるほどに。
     幾つもの言い争いと、時々の取っ組み合い。過去に一度だけ、コンビニまでの道中に取っ組み合いの喧嘩をして、お巡りさんに厳重注意を受けながら、それでも猗窩座と一緒に暮らしていた。大喧嘩を繰り広げた後も、結局は一晩眠ると些細な事であったと気がついたし、大体いつも彼の方が折れて謝ってくることが多かった。口にするのも恥ずかしいほどのくだらない喧嘩は笑い話しにすらならないが、それでも彼を手離す気にはならず、何なら、諍いを繰り返す度に絶対に離すまいと言う執着が強くなっている自覚もあった。きっと、彼も同じ気持ちなのだろうと、正直に言うと彼の好意に胡座をかいていた。

     猗窩座が居なくなってから、もう三日が過ぎている。

     件の喧嘩が切っ掛けであったのなら、理解もできる。しかし、あの一件は大家さんからの着信を持って休戦となり、その後に同じ鍋を突きながらいつもと同じように彼が折れて終幕となった。俺の部屋なのだから台所は好きに使うと言うことで落ちついたが、それでも心配だと言って聞かないので、火を扱う時は猗窩座の目が届くような時にだけという条件を飲んだ。円満に解決したと言っていいだろう。
     話し合いがある夜は、決まって鍋を炊いていた。買い物に出なくても作られるから、横着して鍋にしてるのだろうと想像していたが、これが存外理にかなっていた。在り合わせで如何様にも仕込むことができる手軽さもあり、調理から食事までの行程を全て卓上で済ませられる。仕込んでいる間にも話し合うことが可能で、食材に火が通り、食べている間もそれが続けられる。腹くちくなるまで時間はたっぷりあるし、自分のタイミングで早食いして部屋へ引きこもる訳にもいかない。観念して同じ鍋を囲い、満足がいくまでディスカッションに興じることが出来る。俺はあまり怒りが持続する質ではないので、シメの雑炊がくつくつと揺れる頃には大体のことはどうでも良くなっていた。
     確かに料理に不慣れな自分が台所を使うのは、玄人の彼から見たらもどかしく、危なっかしく見えたのだろう。心配性で、俺のことを呆れるほどによく見てる彼は、俺が紙で手を切るといった小さな怪我ですら目を剥いて心配するほどの過保護っぷりだ。火傷なんて持ってのほか、あの日フライパンを振ったときに立ち上っていた火柱にさぞや驚いたのだろう。そういえばあの時、何よりも先に俺に怪我がないかを心配していたような気がする。
     夕飯代わりに開けたスナック菓子を齧り、普段は手に取ることもなかった缶ビールを煽る。慣れない缶を片手に、たった三日、たった三日間彼がいなくなった部屋を見回す。ダイニングテーブルに広げられたままの書類、ポストから回収こそしたものの開かずに放置している封書が三日分、積み重ねた新聞はどれが今日のものかわからないし、今朝テレビのリモコンを見失ってしまってからチャンネルを変えられない。確かに一人暮らしをしていたはずの部屋なのに、一人分の熱がなくなっただけでこんなにも寒いのかと思いしらされる。
     寝入り端、普段よりもずっと広々と感じられるシングルベッドで、耐え切れずに知り合いをあたってみた。冨岡義勇と、竈門炭治郎の二人だ。夜半に突然電話をする事は憚られたものの、アルコールの力を借りて勢いコールする。猗窩座が行くところに心当たりはひとつもなく、ようやく絞り出した先であったにも関わらず、結果は全く空振りで終わってしまった。普段気軽に連絡を取り合っていたというわけでも無く、二人にも気を使わせたことが相まって、どんよりと胸が重たくなる。喧嘩の果てに家出をしたことは何度もあったが、残される側がこんなにも心許ないとは知らなかった。

    『帰り道が分からなくなったのか。』

     メッセージを送った側から、取り消したくなる衝動を堪えてスマートフォンを放り投げる。いつも彼が先に折れるから、謝り方が分からない。彼がいなくなってから一日目の夜、清々すると思ったこと、二日目に連絡なしで出て行ったことに腹を立てたこと、このまま帰って来なくっても構わないなんて思ってしまったこと、そのどれもが後悔という重さになってのし掛かってくる。帰ってきたら絶対に殴ってやると決意していたけれど、今はただ、たった一言でも構わないのであの甘やかな声が聞きたい。今回ばかりはちゃんと謝ろう、それから、心配してくれたこと、いつも側にいてくれることを恥ずかしがらないで感謝しよう。

    ━━煉獄杏寿郎がカレンダーの「素流道場合宿 三泊四日」に気が付くまであと一日。
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