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    ガチャポンと猗窩煉
    ■現代パロディ、男子高校生

    #猗窩煉

    この世の終わりのような顔って、きっとこういう表情なんだろうな。
     ゲームセンターの一角、それなりに往来のあるこの場所でしゃがみ込む級友の姿を見下ろして、煉獄杏寿郎はぼんやりと考えていた。並んで立っている時は大体同じ高さにある顔を見下ろすのはなんだか新鮮で、飽きずにその姿を見ていられる。短くさっぱりと切られている毛髪は自称地毛のピンク色で、右回りのつむじも、その下に見える日に焼けていない頭皮近くまでしっかりピンク色なので、自称じゃなくて本当に地毛なのかもしれない。左手に握った百円玉はみるみる減っていって、代わりに彼の周りに転がるカラフルなカプセルが増えていく。膝を抱えるように、体を小さくたたんでしゃがんだまま、また百円玉を貯金箱みたいな狭い投入口に三枚突っ込んで、レバーを回す。ガリガリとレバーが何かを掻く音がした後にカタン、と軽い音がしてカプセルが落ちてくる。ガチャガチャポン、という手軽さはなく、またレバーを回す級友の顔もまるで縋るような必死な形相だった。

    「絶望…絶望しかない。」
    「やすやすと絶望なんてするな。」
    「全然出てこない!なんでだ!」
    「確率。」
    「現実の話しをするな!少しは慰めてくれたって良いだろう!」
     酷い奴だなんだと、店を広げるように地面に並べ置いた空のカプセルを丁寧に回収しながら猗窩座が喚いている。放っておいたら涙でも浮かべかねないといった調子で、高校生にもなって大人げないな、と思ったけれど、本人のプライドを傷つけそうだったのでぐっと飲み込んだ。頭髪と制服の気崩し、素行不良で何度も生徒指導の教員に怒鳴られているのを見たが、こんなに悔しそうに顔をくしゃくしゃにしているのは見たことがなかった。なんとなく、年の離れた弟に似ている表情だ。幼いころに、託児所に預けられ、母から手を離されたときの、あの薄っすらとした絶望を受け入れられないといった様子に似ている。彼の言う通り、確かに今このカプセルトイの前で絶望を感じているのかもしれない。
     腕に空カプセルを抱えた猗窩座がとぼとぼと空回収用の段ボールにそれを移している。彼が手に入れた空だけで小さな箱をいっぱいになり、バランスを取って積み重ねながら大きな溜め息を吐いている。やっぱり大人げないし、とっても子供っぽい。

     ブレザーのポケットに景品の小さなフィギュアをめいっぱい詰め込んで、絶望を通り越して怒りすら覚えている様子の猗窩座と並んで帰路につく。心なしかいつもよりも丸まって見える背中を慰めるつもりで軽く叩くと、恨めしそうに睨まれた。どこまでも子供っぽい反応に思わずため息が出る。そんなにその小さなフィギュアが好きなのか。
    「可哀そうな猗窩座に、肉まん買ってやろうか。」
    「いらない。」
    「小遣い使いきったんだろう?」
    「言ってくれるな、今忘れようとしているところだぞ。」
     つまらなそうに下唇を突き出すのは、ちょっぴり拗ねて甘えた態度を取る時の癖だった。唐揚げひとつちょうだいっておねだりを断った時、体育の授業でペアを組もうと誘われたが先に伊黒と組んだことを伝えた時、連絡先を教えてくれと言われて実家の固定電話の番号を伝えたときもこの顔をしていた。変な顔しているな、と思うけれど、最近はこれが見たくて猗窩座のお願いはいったん保留にしたり、形だけ断ることにしている。
     心底いじけているのか、本当にコンビニにも寄り道せずに家へと向かって歩き続ける。ポケットから小さなフィギュアを取り出して、手の中でころころと転がす横顔を盗み見る。いつもは視線がうるさいと思うくらいに俺の事ばかりその色素の薄い目の中に入れていのに、今日はずうっと、その小さなキツネのおもちゃに奪われている。何だか面白くなくて、不格好に膨らんだポケットから景品を一つ奪ってまじまじと見る。小さなおもちゃの割りに、確かに良く出来ている。それにしたって、これほどに執着するものなのかは理解が出来ない。

    「赤いのだけ、全然出てこなかった。」
    「縁がなかったんだろう、清く諦めろ。」
    「赤色のキツネ、杏寿郎に似ているから絶対欲しいんだ。」

     思わず、手に取っていた黒色のキツネを落とす。カプセルが落ちてきたときと同じ、軽い音がして足元に転がった。大人げなく、拗ねていた自分が恥ずかしくなって、赤色のキツネよりもずっと真っ赤になっている自覚があった。
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