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    27tael

    @27tael らくがき文章置き場

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    書きかけの3420帰還if冒頭 様子のおかしい中佐がここからハッスルしだします

    #シャリシャア

     あの輝きの中の記憶は曖昧で、ただ自分がこの世界から見て五年以上も行方知らずになっていたことを知らされた。
     シャア・アズナブルは与えられた軍籍の仮IDで外出許可を取り、ソドン停泊中のコロニーにある官舎の一室の前を訪れていた。

     呼び鈴を鳴らさずともわかる。相手の気配。
     しかし先だって連絡をしたわけでもなく来てしまったことに、今更ながら躊躇をおぼえ、暫くそのままたたずんでいると唐突に横滑りの扉が開いた。
     外部の明かりの入るように設計された廊下、一転して暗がりに落ちた玄関から、外の光を受けた顔が向けられる。静かな灰緑色の眼差し。
     ──不自然なほどに、穏やかな。


     自分をサルベージしたのは、彼だという。
     コロニーの医療機関の部屋で目覚めた後、現在のソドン艦長に一通りの顛末を簡潔に告げられた。ゼクノヴァと名付けられたサイコミュの暴走。その場の皆の生存が危ぶまれる恐慌の中で、自分を探す特務を担っていた中佐が周囲の制止を振り切り自ら出撃し、荒れ狂う強大な渦の中からこの身柄を持ち帰ったのだと。

     メディカルチェックと事情聴取、現在の公国が置かれている状況の説明もかねてしばらく無機質な部屋に留め置かれた後、制限はあるが己の意思を持って動けるようになったところで、最初に思ったのは彼に会うことだった。
     身体データはロスト時と変わらぬ状態で固定され、時の流れから隔絶された場所にいたとしか思えない。と医師たちに結論づけられた不可解なこの身は、ズムシティに移送されるまではその彼、シャリア・ブル中佐預かりになるらしい。しかし、あらゆる思惑を持った面会者が入れ替わり立ち替わり訪れる中、その当人は姿を見せず、目覚めの時にぼんやりとした意識の端で姿を見たような気がするが、その感覚も曖昧だ。
     
     艦のドック入りも兼ねたコロニー滞在中、今は揃って下船しているソドンのクルーを仮宿りの執務場で捕まえて訊ねる。
     一週間休暇を取得する、と届出がでているみたいですよ。そう、端末を繰った顔が上げられた。
     大佐が目覚めるまで、中佐、ずっとずっとガラス越しにお部屋を見られる位置から離れなかったんですよ。それでなくてもずーっと大佐のこと探してたんですし。だから、気が抜けちゃったんじゃないですか? 
     まだ私たちのこれからもどうなるかわかりませんけど、書類仕事もたくさんあるんですけどねー。
    「きっと突然会いに行ったら、喜ぶと思います!」
     と、気さくな女性少尉に見慣れぬ情報端末へ位置情報をセットしてもらって礼を言い、見知らぬ公共交通機関を使い、休暇中の所在として登録された場所に訪れたのが今だ。
     話を聞くに、彼自ら面会に来ないのは不自然な感を覚えるが、何にしても直接問うのが手っ取り早い。
     シャアは、私物として用意されていたサングラスに隠した眼差しを伏せる。大人しく首都やグラナダに囚われてやる気はないが、逃亡するにせよ彼の助けが必要なのは明白だった。なにしろ、……戦後、急速な発展を遂げたのだろうこの世界は、自分の知るものとはあまりに変わってしまっていたから。
     

     水くらいしかないんです。と、炭酸を弾けさせるグラスを目前のローテーブルに外したサングラスの横に置かれて、さまよっていた考えが現実に戻る。
     シャアはリビングのソファに腰掛けたまま礼を言い、戻りきてローテーブル越しの対面に座ろうとする姿を見遣った。上下揃いの暗色のルームウェアに身を包みながらも、その所作は自分が知るよりもだいぶ洗練されたもので、何より今はゆるくではあるがセットされた髪、あらわになった両の瞳がこちらに据えられて、まるで初めて対面したかのように少々落ち着かなくなる。
    「……君も、変わったな」
     己の体感では、ひととき眠っていたような心持ちでしかない。しかし、確かに五年という月日が過ぎ去ったことを、近しく過ごした人の変化で知る。
     目前の人はその言葉をどう取ったのか、一度目をしばたたくと穏やかな表情に笑みを乗せた。
    「変わる必要がありました」
     落ち着いた声音で紡がれる言葉。
     その意味を問いたい一方で、しかしそれより前に訊ねてしまいたいことがある。かつて寄せ合っていた感応の気配、それがまるで感じられなくて。
    「なぜ私を遠ざける」
     聞いた。ずっと探してくれていたのだろう。
     そう続けると、わずかに瞠目した眼差しが伏せられ、静かな微笑みが深まった。
    「遠ざけてなどは。……貴方が生きてお元気でいらっしゃれば、それで良いのです」
     大尉、と呼びかけようとして、今の階級は異なるのだと気づき、軽く唇を噛んでから口にする。
    「中佐」
    「貴方にそう呼ばれると、不思議な心地がしますね」
     何かをこらえるように上げられた目には、懐かしい時代を見るような色が宿っている。

     シャアは、こくりと息をのんだ。
     想いあっていたのだと、思う。上官と部下や、くわだてに引き込んだ共犯者、友といった立ち位置を超えて。
     宇宙を駆け戦いを続ける日々。控えめに微笑む年上のひとはけして口には出さなかったが、信頼と、敬意と、それだけでは言い表せない気持ちをニュータイプの感応に乗せて傾けあっていた。
     一度だけ、なんだかたまらない心持ちになり、艦内の私室で抱擁したことが、あった。腕を回し抱き寄せた背中、驚きと戸惑いを交えこちらを見た眼差しは、しかし体温の熱にゆるんで突然の甘えを許してくれた。
     そっと額に口づけを返されて、そのとき瞬きあった胸の奥の光、髪を撫でる手のぬくもりを覚えている。

     自身もニュータイプなのだという青年少尉が、フラナガン博士の設立した学舎について教えてくれた。この時代、ニュータイプはさほど珍しくもない存在となったのだろう。深く心を通わせることも。
     ──良い人がいるのかもしれない。
     ちくりと胸に痛みが走って、それを飲み込む。五年は長い。しかも、時代は大きく変わった。
     そうであれば、己の策謀などといったことに、守るもののできた彼を巻き込むわけにはいかない。戦時の特異な環境下における約束を、平時のいま履行させようとする道理もない。
     かつての部下だ、自分を探し出したのもその忠義であろうし、請えば力を貸してくれるだろうが、欲しいのは過去の感傷を引いた献身ではない。

     変わってしまった世界で、たったひとりの味方として恃もうとしていたこと、そしてそれがかつてのようには能わないことに改めて思いが至る。
     いや、それであればまた、心許せる同胞に出会う前、元に戻るだけのことだ。そう己に言い聞かせながらも、感情が静かに落ちていく。
     こちらをどこまでも穏やかな眼差しで見つめるひとの、思惟は読めず、遠い。

    「私は、戻ってこない方が良かったのかな」

     グラスの中で、パチパチと泡が弾ける。
     思わず口をついて出た、言葉。きらめきが流れる安息の地。そこは、とても静かだった。
    「いいえ!」
     キュイ、と一瞬、あまりに強い思念が走って、脳裏が真白く染め抜かれるのを感じながら驚いて相手を見返す。
     相向かいに座る男は、先ほどまで穏やかに据えられていた目を大きく見開くと、自身の頭を両手で抱え込む。
    「いいえ、いいえ、……違います」
     過呼吸のように荒い息をつきながら繰り返す姿。尋常ではない事態に立ち上がり、彼の座る椅子の横へ歩み寄ったところで、こちらを見上げた顔が悲痛にゆがめられながら目に涙を浮かべる。
    「………お許しください………」
     許しを乞われるようなことなど、何も覚えはない。
     そのまま見つめ合う。幾度かまたたき頬に涙をこぼしたのち、やがて手のひらで顔面を包みつつ、うつむけるようにそらされた顔。
     しかしやがて、見下ろす視界の中で背を丸め深く呼吸を繰り返したのちにようやく落ち着いたのか、両手がゆっくりと降ろされ抑えられた声音が告げた。
    「貴方がおっしゃる通り、私は変わってしまったのでしょう」
     寂しげな響きを残したまま、屈められていた長身がおもむろに立ち上がった。やがてこちらに向けられる顔は、また来訪時のような穏やかな、柔和な仮面をつけたものに戻っている。
    「大変失礼しました。お声が聞けたことに安心して少し、疲れが出てしまったようです。……今後の事は、休暇明けにお話しましょう。申し訳ありませんが、今日はお戻りになられてください」
     お送りできなくてすみません。と告げてくる、どこまでも抑制された仕草に唐突に怒りとさみしさが湧いて、シャアは目元を険しくし相手を見遣る。何を思い悩んでいるのかは知らないが、あまりに不自然にすぎる。
    「大尉」
     手を伸ばして相手の手首を掴むと、びく、と目前の体がおののく。
     いけません、と、ひどく恐縮した声が漏らされ、間近な顔がまた苦しげにゆがんだ。
    「私は、もうあの頃の私ではないのです」
     シャアは、体温から伝わる響きに耳を澄ませる。見た目も身のこなしも違うが、通じ合うやさしい本質は同じだ。
     貴方を傷つけたくはない。そう切々と伝わる感情、何かにおびえている相手を訝しく思いながらそのまま抱き寄せる。後退りあとずさり閉ざされようとする心を追いかけるように身を寄せて眼差しを合わせ、額と額を付き合わせると、触れた先のさらに奥で散り散りにちぎれながら、貴方が欲しい、と囁く声がする。
     ゆるく睫毛を上げながら、その意図をさらに問うように見つめると、眉を寄せ紅潮した顔が離されようとする。それを制するように、シャアは自分より少し上背の高い相手の後ろ頭に手をやり引き寄せた。
    「あなたの望みに応えたい」
     かまわない。明かしてほしい、と、許諾を与えるように唇を寄せる。
     それでも顔を逸らそうとするのを眼差しで繋ぎ止めながら呼気を重ねると、途端、とっさに読み取ることのできない重く膨大な感情をそそがれて、ぐあん、と視界が崩れた。
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