『○○区××3丁目で火災発生、芸能事務所。ほぼ避難は完了だが、事務所内に取り残された要救助者がいる可能性がある。現場に急行せよ』との報を受け、この春転属でレスキュー隊に配属になったばかりの彼も、現場へ出場することとなった。
オレンジ色の救助服に袖を通し、補強部分の点検を行う。納まりの悪い髪を後ろで一つに束ねて、ヘルメットを小脇に抱えた。
「 早く来い、新入り!」
「 うす 」
短く返して、足早に現場へ向かう。
到着すると、現場はすでに先着の隊によりほぼ鎮火されていたが、ソーラーパネルの設置された一角には漏電や感電の危険があり、広範囲の放水ができないため、膠着状態になっているようだった。
「 太陽電池モジュールの発電を強制シャットダウンさせるか、遮光剤の噴霧で何とかならねぇんすか?」
「 技術者が間に合わん」
「 あ"ぁ。じゃあ俺が強制シャットダウンやります」
消火の方、バックアップよろしく。
サラッととんでもないことを言い出した彼に、新入りなのに何でこいつこんなに偉そうなんだろう……と周囲に困惑が広がる。
それを無視して、現場の見取り図と機器配線図を確認した。モジュールの年式は。型番は。シャットダウンが可能な機種か等を素早く脳内の情報と照会し、最適解を探す。
「 うし、ここか」
シャットダウン用の設備の位置を特定し、最短ルートを記憶した上でそちらに向かった。
どうにかシャットダウンに成功し、隊に戻ろうとしたところで、ふと。
少し離れた窓付近に、人影を見た気がした。
ほぼ鎮火済みのエリアではあるが、見間違いでなければ危険なことに変わりはない。
ひとつ息をついて、慎重にそちらに向かった。
そして、数十メートル先の、焦げた窓のそばで蹲っている青年を発見する。
足を庇う姿勢から、逃げる際に足を痛めて動けなくなったのだろうと判断した。
「 ……おい、大丈夫か?」
声をかけると、その青年は弾かれたように顔を上げる。改めて見ると、青年と言うよりまだむしろ少年と呼べる年頃かもしれない。
……特徴的な外見をした人物だった。
ほっそりとした体格で、背は少しだけ自分より低いくらい。短く整えられた眉に、アーモンド型の、青みがかった黒い瞳。そして、左半分がセミロングの白髪、右半分がベリーショートの黒髪という、なんとなくトランプのジョーカーを思わせるような見た目をしていた。
おそらく、この事務所のタレントなのだろう。
「 え、俺……助かったの……?ジーマーで?」
「 これから、助けるんだよ。足見せろ、怪我してんだろ 」
そう言葉をかけると、おずおずと足を差し出してくる。……捻挫のようだ。
かなり腫れて、熱を持っている。
ひとまず救急キットで応急処置をして、背におぶった。
「 ……ありがとう、ゴイスー助かったよ。でも、その、大丈夫?重くない?」
「 あ"ぁ?これでも一応訓練受けてる。気にすんな、仕事だ」
少しつっけんどんな物言いをしてしまっただろうか。
きっと、見つけるまで不安だったろうに。
しかしうまく言葉が見つからず、気まずい沈黙が流れた。
それを破ったのは、青年の方だった。
「 ……俺、浅霧幻って言うの。まだ、駆け出しのマジシャンだけど。……君の名前、聞いていい?」
「 ……石神、千空だ」
「 そう。……今日は助けてくれてホントにありがとう、千空ちゃん」
そう言って、青年はふふっと笑った。
「 ……いきなり呼びタメかよ」
あまりに人懐こくて、戸惑ってしまう。
「 じゃあ、千空ちゃんも俺のこと、幻って呼んでいーよ?」
なんだか、妙な奴を拾ってしまった。
……そう思いながら、千空は彼を連れて建物から慎重に避難した。
そのあと、有名になったマジシャンにテレビ越しに告白されるのは、また別の物語。