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    甘味。/konpeito

    800文字チャレンジだったりssを投げる場所

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    甘味。/konpeito

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    本日の800文字チャレンジ
    クロリン/いとしいとしい/リ失踪もの

    リィンにとって、幸せとは脆く儚いものだった。平穏とは、常に脅かされるものだった。
    「ごめん、クロウ……」
     昨夜、互いの熱を分け合ったクロウの頬を指の背で撫でた。深い眠りに誘う魔女の秘薬を飲ませた彼は、どんな夢を見ているのだろうか。
     気持ちよさそうに寝息を立てるその唇をなぞり、口付けた。一度では足りず、クロウの感触を刻むようにもう一度口付ける。
    「ごめん……」
     震える声で懺悔し、ふたりで競うように脱がし合い、ベッドの周りに散りばめた衣服を拾い上げて身なりを整える。シャワーは浴びなかった。まだ、クロウに触れられた感覚を流したくはない。薄い腹のなかに吐き出された彼の欲でさえ、このまま己の血肉になればいいと願った。
     そうしてリィンは軋む身体を引きずり、クロウの前から姿を消した。
     さよならは言えなかった。たとえ相手が寝ていたとしても、終わりの言葉は使えない。
     ――そろそろ付き合わないか、俺たち。
     馴染みのバーでいつものようにふたりで飲んでいたときだった。お互いいい歳なんだしと続けたクロウは、静かにロックグラスのなかの琥珀を眺めている。先月のことだ。嬉しかった。でも、それ以上に怖かった。
     悪友の距離ではだめなのか。相棒の温度ではだめなのか。どうにか断ろうとしたリィンの口からこぼれたのは、嬉しいという感情だけだった。
     クロウと付き合うようになって、キスの仕方を初めて知った。恋人への触れる手つきを知った。欲に濡れた真っ赤な目の色を知った。あんまり幸せだと、痛みなんて瑣末な問題なのだと片付けられることを知った。
     たくさんたくさん甘やかされて、これ以上されたらもう、クロウなしでは生きていけそうになかった。
     愛し愛されている記憶のまま、留めておく術はあるのだろうか。
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