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    甘味。/konpeito

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    本日の800文字チャレンジ
    クロリン/桃の誘惑

    「これ、桃か」
     帰宅早々、リビングテーブルの果物籠を見つけたリィンは目を輝かせた。
    「お、さすがに知ってたか。今日たまたま見つけてな。買ってきた。もう大分熟れているから追熟もいらないだろうぜ」
    「そうか。楽しみだな」
     ひとつ、桃を手に取った。赤みがかった白色の薄皮に、うっすら生えた産毛のようなそれがリィンの手をくすぐる。窪みに鼻先を埋めると、なるほど、確かにもうすっかり熟れた香りがした。
    「こらこら。それは夕食を食ってからのお楽しみだぞ」
     キッチンから夕食を運んできたクロウに釘を刺される。スープ皿にはクラムチャウダーがなみなみ入っていて、リィンの空腹を刺激した。湯気とともに立ちのぼる、磯の香りに目を細めた。
    「おっと。その前におかえり、リィン」
    「……、ただいま」
     頬に口付けられ、促されるままリィンも同じようにする。この挨拶がいまだに慣れない。赤らんだ頬をさすり、食事の席へついた。
    「そんじゃ、早速剥いていくぜ」
     ふたり並んで夕食の片付けを済ませ、フルーツナイフと皿を持ってリビングへ戻った。
     彼の手のなかにある桃は、薄皮を丁寧に剥がされ、瑞々しい果肉を晒している。中心にある大振りな種を避けてナイフを入れるその手さばきに見惚れた。
    「クロウは器用だな」
    「こんなの誰でもできるだろうよ。ほら、口開けろって」
     果肉をナイフにのせたまま差し出され、おずおず口をひらいた。そこへ桃を押し込んだ、クロウの指がリィンの唇に触れる。熟れた果肉は噛まずとも溶けるように解れた。
    「どうだ、甘いだろ」
     同様に桃を口へ放り込んだ彼は、果汁で汚れた指を舐め、満足そうな顔をしている。
     それからはクロウに差し出されるまま、舌のうえに広がる桃の果肉を味わった。
    「ごちそうさん。さて、手を洗ってくるかな」
     果肉がなくなり、最後に残った種が皿へ下ろされる。その節ばった手の甲を、果汁が流れ落ちていく。
     ほとんど無意識に喉が鳴った。
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