ごめんね 二人はパトカーを降りて屯所の扉をくぐったはずだった。それなのになぜか見知らぬ部屋の中にいた。後ろのドアは鍵がかかっていて開かないし、部屋の中には紙切れひとつ以外なにもない。
――ここは「この部屋はどちらかが一緒にいる相手に一番謝りたいことを言う部屋」です。
唯一の手がかりの紙に書いてある内容を見て、土方は大きくため息をついた。
「なぁ総悟? 最初に確認したいことがあるんだが」
土方の疑いの目を受けて沖田は首を横に振る。
「残念ですけど俺じゃありやせんぜ。流石の俺もすぐに自分だってバレるようなことはしやせんよ」
鎖で繋いで廃屋に閉じ込めた経験上、土方は真っ先に沖田を疑った。そして騙された数々の経験が、否定したところでそう簡単には信じさせない。
「そう言ってオメェ、裏をかいて二回目とかいうオチだろ」
「なかなか考えますねィ土方さん、でも本当に違いまさァ。だってこんな、俺にダメージデカい方法取らなくても土方さんと遊ぶプランはいっぱいありやすよ」
「こわっ」
沖田はうーんとしばらく考えてから持っていた刀で壁を斬りつけた。鉄をも砕く、車さえも両断沖田の太刀筋は壁もしっかりと斬った。そのはずだった。
斬った瞬間見えていた隙間はスッと一瞬で閉じてしまって跡形もなく塞がってしまった。
「気持ちわりぃ……」
どういう理屈かはわからないが、条件を満たさないと出れないのは本当のようだった。
マヨネーズに毒を仕込んですいやせん。バズーカ撃ってすいやせん。夜な夜な呪ってすいやせん。土方さんのカードでいつも買い物してすいやせん、これからもよろしくお願いしまさァ。マセラティがマヨネーズで動くなんて言ってすいやせん、まさか信じると思わなかったんでさァ。土方さんの写真を町娘に売りつけてすいやせん。監禁した上騙してすいやせん、あの時の土方さん傑作でしたぜィ。
沖田は本当に謝る気があるのかどうか怪しいことを、つらつらと思いつく限り羅列していっていた。最初こそ一個一個反応していた土方も軽く百個を超えてきて初耳のことがあったとしても聞き流すくらいには疲弊していた。薄々気がついていたとは言え数が多すぎた。
「全然開きやせんね」
「『一番』謝りたいことじゃねぇってことだろ」
土方の言葉に沖田はあからさまに嫌そうな顔をした。「一番言いたくないこと」に心当たりがある顔だ。
「この際怒らねェから吐いちまえよ。時間もねーしよ」
圏外になって繋がらない携帯電話は、あと一時間ほどで金曜ロードショーの時間が表示されている。
「さっきから俺ばっかり言ってますけど、土方さんはないんですかィ?」
「俺が総悟にか……?」
土方は基本的に沖田に隠し事をしない。そのため改まって謝りたいことなど無いように思えた。近藤が万事屋に負けたこと、妖刀のこと、大事な作戦まで。とにかくなんでも話してしまう。唯一自分から言い出せなかったのは天海屋のことくらいだ。そう、その時のことだ。一生言いたくないと思っていたことがひとつだけあった。土方はふーっと大きく息を吐いた。
「総悟、あの時お前に俺が――」
かなりの覚悟を決めて口を開いたというのに、土方は最後まで言えなかった。沖田の鉄拳を顔面に喰らったのだ。
「土方さんがそんなこと言うのを聞くくらいなら、俺が言います」
土方は返事をしなかった。それどころか床にキスをした状態からピクリとも動かない。
「土方さん寝ちゃいやしたか?」
殴った衝撃で土方は気絶しているようだ。
「まあちょうどいいか。土方さん――好きになってごめんなさい」
ガチャンと扉の鍵が開く音がした。